第17話 進化

 俺は目の前の幼女をみて驚いていた。急に現れたのもあるが、しばらく森にこもっていたため人間にあったのが久しぶりだった。


「おお、お前は誰だ?」


 俺の答えに目の前の幼女は体を傾けて、しばらく考えてから答えた。


「スライム?」


「スライム……?」


「そう、スライムだよ!」


 幼女は納得したのか、そのまま俺に抱きつてきた。


「うおお、急に何するんだ! しかも、スライムって見た目じゃないだろうが!」


 どこからどう見ても目の前にいるのは、まだ小学生ぐらいと思わせる見た目の女の子だった。


 いわゆる幼女だ。


 この世界で幼女に抱きつかれて犯罪にならなければいいが……。


「んー……あっ、そうか!」


 幼女は俺に抱きついた状態でしばらく考えると何か考えついたのか少し離れた。


「見ててね」


 幼女に言われた通り見ていると突然驚きの行動を取り出した。


「おっ、お前溶けてるぞ!?」


「ん? だってスライムだもん」


 幼女の皮膚は少しずつ垂れ下がり、氷が溶けるように形を崩していった。


「おおおい、今すぐやめろ。見てられないぞ」


 逆再生するかのように、言われた通りにスライムは元の幼女の姿に戻った。


「えっへん! これでスライムってわかったでしょ」


 なぜかスライムは胸を張っていた。


 いや、幼女だから胸という胸はないが……。


「ああ、俺が悪かったよ。お前は完全にスライムだったな。だから、急に溶けるのはやめてくれよ」


「魔王様ゴブリンみたいになってる!」


 目の前で人が溶けるところを見たらトラウマになるレベルだろう。


 俺の顔は真っ青になっていたらしい。


 そんな中誰かが扉を開けた。


 休みの日だが特に看板などは付けていないためわからずに来たのだろう。


「今日も来たぞ!」


 扉を開けたのはコボルトだった。


 スライムはコボルトに近づき、休みの説明をしていた。


「今日は体を休ませる日なの」


「ん? ああ、動かしてばかりじゃダメって言ってたな」


 スライムの説明にコボルトは納得していた。


 それも以前に過用についての説明をしていたからだ。


 廃用とは動かしていなかったり寝ていたりして筋力などが落ちることを指す。


 しかし、過用は反対に過度に筋力を使うと筋肉が損傷したり、筋力が低下する障害のことを言う。


 どちらも後ろに"症候群"をつけ、"廃用症候群"や"過用症候群"と呼ばれている。


「おい、お前らは普通に話してるけど驚かないのか?」


 普段通りに話してるスライムとコボルトを見て俺は驚いた。


「ん? スライムが何かあったのか? 魔物は進化するぞ?」


 特にコボルトは気にしていないようだ。


 スライムとコボルトは俺の話に首を傾けていた。


「あっ……魔物って進化するのか?」


 俺はこの世界の常識を知らなかった。


 確かに黄色いネズミが出てくる某有名なゲームもレベルが上がったり、特別な石を使うと進化したりしていた。


 魔物も何かしらの影響で進化するのだろう。


「ほれ見た目がかわっておるやろ?」


 コボルトは口を大きく開けた。


「……ん?」


「ほらほら!」


「……」


 俺は必死に見るがどこが変化したのかわからなかった。


 見た目も前のまま愛らしい犬だ。


 今は薄っら目を開けて大きく口を開けて可愛い。


「うっ……」


 気づいてもらえなかったのが悲しかったのかコボルトはそのまま崩れ落ち落ち込みだした。


 そんなコボルトはスライムを撫でていた。


 側から見たらただ可愛い女の子が犬を撫でている様子だ。


「あー、ごめん。俺じゃわからんわ」


 俺の言葉にコボルトはそのまま突進し、大きく口を開けては閉じるを繰り返し、ガチガチと音を鳴らしていた。


「歯!」


 急な行動に俺は戸惑った。


「は?」


「歯!」


「は?」


「そう、歯が大きくなった!」


「……」


 どうやら誤解から答えが導かれていた。


 コボルトは歯が大きくなり進化したと言っていた。


 たしかに以前より歯が少し飛び出ていたが、俺は魔物だからコボルトの歯が成長したかどうかもわからない。


 スライムぐらい見た目が変わったら誰でも気づくだろう。


「かっこいい歯だろ!」


 コボルトは自慢するように歯を見せびらかしていた。


 そんな姿を見てスライムは手を叩いて喜んでいた。


 小屋の中は癒しに溢れていた。


「はは、みんな進化したね」


「みんな進化……?」


 スライムである幼女の言葉に疑問を感じた。


 コボルトも少し見た目が変わったのが進化だとするとほかに進化したのは誰なのか不思議に思っていると、どこからか転がる音が聞こえてきた。


「うぉ!?」


 すると当然足元に衝撃を感じた。


 足元にはメタルスライムが転がっていた。


 メタルスライムは必死に何かを伝えたいのか、硬い体をふるふると動かしていた。


「ひょっとして……」


「メタルスライムも進化してるぞ? だからたくさんに分けられているんだ」


 メタルスライムの分離能力は元々の能力ではなく、実は進化して手に入った能力だった。


「これも魔王様の能力だね」


 スライムの言葉に俺は固まった。


 いつのまにか"魔王様"と呼ばれていたが、無意識に魔物を進化させる手伝いをしていたことになっていた。


「うん……今日は疲れたからもう休むわ」


 そのあとも何かを言われていたが、情報量に頭がついていけずそのまま休むことにした。

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