第10話 メタルスライム

 あれからコボルトはリハビリに通うようになった。


 しかも、1体だけではなく他にも引き連れて来るのだ。


 それだけで何もやることがなかった俺はだいぶ忙しくなった。


「肉を置いとくぞ!」


「ありがとうございます!」


 リハビリのお礼にコボルト達は自分達が捕まえた獲物を分けてくれた。


 コボルト達も狩りに復帰できる者も現れ、最近は以前よりも強くなったという奴も現れるぐらいだ。


 これがスキルの影響なのか、自分技術によるものなのかもわからないが良くなっているのならいいことだ。


 敵対している人間としては、魔物が強くなることに関してはあまり嬉しいことではないが、人間より魔物の方が良心的なのを知っている俺にとっては特に気にすることでもない。


「これで最後か……」


 今帰って行ったコボルトが最後で今日のリハビリ業務は全て終わった。


 気づいたら異世界に来たのに俺は仕事をしていた。


 せっかくならスローライフで働かない生活をしてみたいものだ。


 コボルト達が全て帰ったのにまた扉を開ける音が聞こえた。


「どうかしましたか?」


 俺は扉の方を見るとスライムがいた。


 あれから腕に関してのウィンドウが出現し、アプローチするとまさかの腕が生えたのだ。


 しかも、触手のように自在に操るため本人も気に入ってるようだ。


「おかえり!」


 俺の言葉に反応してスライムは体を伸ばして二つ折りになっていた。


 腕が生えても挨拶やお礼の仕方は変わらないようだ。


「少し片付けるから待っててね」


 俺はコボルト達が持ってきた肉を片付けようとすると、スライムは俺の足を手でツンツンとしていた。


 何か伝えたいことがある時にスライムがする新しい行動だ。


 子供のような行動に俺は癒されていた。


「どうしたんだ?」


 俺はスライムに尋ねると、スライムは空いている扉の方に腕を伸ばし何か手招きをしている。


 なぜか木材が割れる音がした。


 家に入る時に何か壊したのだろうか。


 俺は大きな魔物が現れることを覚悟した。


 スライムはふいに魔物を連れてくるからな……。


 少し待っているとそこにはスライムより少し小さめな銀色の物体がいた。


 形としては普段一緒にいるスライムと同じだ。


「今度はこいつを治せばいいってことか?」


 スライムに尋ねると、再び二つ折りになっていた。


 俺は銀色のスライムを見つめるが、いつも見かけるウィンドウは表示されなかった。


「あれ? どこも悪くないってことか?」


 何か問題があるとすればウィンドウが出現しているが、今回は本当に何もないようだ。


 それでも気になった俺は変わったスライムの上に手を乗せた。

 

 スライムは何か鉄のような硬質なものを触れているようだ。感覚的には石や鉄板に近い感じだ。


 これがいわゆるメタルスライムという存在なんだろうか。


「これをどうしろって……」


 何をすれば良いのかわからず、手を止めた時にやっとウィンドウが表示された。


――肩甲挙筋、僧帽筋


 そのウィンドウの筋肉名を見て俺は笑いが止まらなかった。


「あはは、お前が硬い原因って肩凝りなのか!」


 肩甲挙筋と僧帽筋は肩凝りの代表的な筋肉だ。


 メタルスライムはただ単に肩凝りが酷くなったスライムのことだった。


 初めにウィンドウが出なかったのは、肩凝りが正常であるメタルスライムだからこそ反応しなかったのだろう。


「異常じゃない限り、触れないとはっきりとは判断できないのか」


 俺はスキル理学療法の特性を知った。


「とりあえず……硬いな……」


 メタルスライムの硬さは普通より硬度があった。


 それこそガテン系の仕事をしている親父並みの硬さだろう。


 それでも俺の技術は筋硬結を逃がさない。

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