第9話 治療

 俺は早速コボルトの治療にあたった。


「とりあえずまずは筋肉を緩めるからあまり腕を使い過ぎないようにね」


 俺はウィンドウに表示された筋肉をほぐし始めた。


「ウォ……ウォーン!」


 コボルトは少し痛みに耐えながらも心地良さそうな顔をしていた。


 何度も何度も遠吠えする姿は面白かった。



――20分後



「これで少しは良くなると思いますがちゃんと安静にしてくださいね」


 しばらくほぐしていると痛みが落ち着いて来たのか腕を大きく回していた。


「今はそんなに乱暴に回さないほうが――」


「痛っ!?」


 強引に腕を回すと痛いのは誰でもわかるのにこのコボルトは何がしたいのだろうか。


「治ってないじゃないか!」


 その様子を見てどこも同じなんだっと思った。


 前の世界でも同じように痛みが無いからと腕を回して、その後文句を言って来たおばさんがいたからな。


「まだ完璧に治ってないですよ。だから安静にしてと伝えたじゃないですか」


 俺の言葉にコボルトの尻尾はさっきまで大きく振っていたのに、今度は垂れ下がっていた。


 そんなに治らなかったのが悲しかったのだろうか。


 それとも単純に怒られ慣れてないのだろうか。


「少しずつ治すのにリハビリが必要なんで明日も来てくださいね」


「治るのか?」


「前よりは良くなると思いますよ。ただ、全て戻るとは言い切れませんね」


 それでもコボルトの顔は俺の話を聞いて顔が晴れていた。


「少しでも良くなるなら通うぞ! また明日来るよ」


 コボルトは尻尾と手を大きく振って帰って行った。


 若干肩の痛みで苦痛な顔をしていたが、それでも手を振りたかったのだろう。


 あれだて安静にしろと言ったばかりなのに……。


「それでスライムよ……」


 俺は足元にいたスライムを掴み、思いっきり握り潰した。


「勝手に言いふらして俺のことがバレたらどうするだ?」


 俺の顔を見たスライムは昨日できたばかりの口をアワアワと震わせていた。


「さぁ、どんな罰を与えようかな……」


 スライムは大きく体を動かすと指の隙間から抜け出て逃げて行った。


 さすがはスライムだ!


 本来はあんなにカチカチではなくとろけるほどの体の持ち主のはず。


 俺は次第に緊張が途切れるとゆっくりと地面に座った。


「あはは、異世界もそこそこ面白いかもな」


 勇者召喚に巻き込まれた俺だが、意外に生活してしまえば異世界も楽しいのかもしれないと思える日だった。

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