第8話 上犬二頭筋

 二足歩行の犬は咥えていたスライムを地面に置き話し始めた。


「お前が魔物を治せるというやつか?」


「おおお……おう?」


 思ったよりも人間の話し方に近くて俺は驚いた。


 犬の姿をしているため、語尾にワンでも付くのかと期待していたのに……。


「ん? もう一回言ってもらってもいいですか?」


 それよりも犬が話している内容が気になった。


「だからお前が魔物を治せるのか聞いてんだい!」


「ん、どういうことですか? そもそも誰から聞いたんですか?」


 どこか可愛い話し方だが、それよりも犬が何を言っているのか理解できなかった。


 魔物を治せる人……?


 そんなやつはどこにいるんだ?


 俺は周辺を見ても誰もいなかった。


「この変わったスライムがお前のところに行けと言っていたんだ」


 俺は視線を下ろすと咥えられていたのは昨日まで一緒にいたスライムだった。


 魔物界でもこのスライムは変わっているやつなんだ……。


「それでどうなんだい!」


 犬は少しせっかちなのか、足をパタパタとしていた。


 見た目がコーギーに近く、さらに短い足をパタパタしている姿が可愛い。


「ふふふ、良ければ入ってください」


 俺はスライムを抱え、犬を家の中に招き入れると扉を閉めた。


 まずは話しを聞いてみる必要がある。


「それで何を治したいんですか?」


「腕が上がらないんだ……」


 犬は必死に腕を挙げようとするが、僅かに動くが痛みにより表情が歪んでいた。


「少し触りますね」


 肩の構造は二足歩行になっているためか、人間と構造は似ていた。


 軽く触ると筋肉が張っていたのはすぐにわかっていた。


「くーん……」


 完全に鳴く姿は弱っている犬だ。あまりの可愛さにもう一度押したくなったが本人は痛みに耐えているのだろう。


「治せるかはわからないですがやってみますね」


 俺はスライムの時と同様に肩に視線を向けているとウィンドウが表示された。


――上犬二頭筋じょうワンにとうきん、三角筋


「グフッ!?」


 まさかの表示につい笑ってしまった。上腕二頭筋ではなくて、上犬二頭筋になっていた。


 犬だから腕ではなく犬になっていたのかわからないが、構造は人の上腕二頭筋と同じだろう。


「何が面白いんだ?」


「いや、すみません。それでいつから腕が痛いんですか?」


 俺は普段の仕事をするときの顔に戻って……いや、戻した。


 相手は犬だけど困っている奴を笑うなんてできないからな。


「痛いと感じたのはつい最近だ。コボルト族は種族に変わらず、徐々に腕が上がらなくなると狩りから離れて群れの中で仕事をするんだ」


 まずはじめに犬はコボルト族という魔物の種類で、様々なタイプの犬がいるとのこと。


 モフモフ好きにはたまらないだろう。


 基本的に若い時は狩猟に出て、体の衰えとともに群れの中で子守や生産活動をするらしい。


「思ったよりも魔物って人間と変わらないな」


 俺の言葉にコボルトは怒っていた。


「根本は同じなのに人間は魔物だからといってすぐに攻撃を仕掛けてくるんだ! 言葉も通じる魔物や魔族もいるのに聞く耳を持たない人間が悪い」


 過去に魔族や魔物達は人間に対して友好的であったが、人間の裏切り行為によって変わっていったらしい。


 コボルトの話が全てではないが、その話が事実であればこの国から立ち去りたいと思うほどだった。


「まぁ、話を戻すけど大体種族的に痛くなるのは腕だけ? あとはみんな同じぐらいの年齢からか?」


「なんでわかったんだ!?」


 俺の問いにコボルトは驚いていた。


 俺は一つの疾患が頭をよぎってい。


――肩関節周囲炎


 いわゆる五十肩などがそれに当てはまる。


 肩の使い過ぎや日常生活で肩の痛みなどがあると、次第に筋肉が固まってしまい関節が動かなくなってしまう。


 そのため痛みがでたときには安静にして過剰に使わないようにする必要性がある。


 また筋肉の柔軟性を改善させ、関節の固定性を上げることで痛みは軽減される。


「とりあえず今は狩りに行ってないんだよね?」


「行きたくてもこんな様子だと引退じゃ……」


 話すたびにコボルトは落ち込んでしまった。

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