第6話 動く筋肉

――5分後


「全く何なんだよ。脊柱起立筋ってこんなに光るのかよ」


 文句を言いながらも視界がチカチカとした目を少しずつ開けた。


 目の前には手元にいた脊柱起立筋が伸びていた。


「あれ……動いてる!?」


 脊柱起立筋は何故か伸び縮みを繰り返して俺の周りを回っていた。


 見た目が半透明な脊柱起立筋が買ってに歩く……考えただけで不気味だ。


「お前は魔物なのか? それとも筋肉なのか?」


 俺の問いに脊柱起立筋は二つに折りたたまれていた。


 結局どっちなんだ。


「流石に脊柱起立筋っていう魔物は存在するのか?」


 最終的に俺の独り言にも反応していた。


 どうやら謎の物体は俺の言葉を理解しているようだ。


 このなんとも言えない形からして、俺は異世界の定番である魔物の姿を思い浮かべた。


「ひょっとしてスライムなのか?」


 さっきまでの動きが倍速……いや、三倍速で二つ折りになっていた。


 どうやら脊柱起立筋ではなくスライムらしい。


「おまっ、魔物なのか!」


 俺はとりあえずその場を離れたが、スライムは伸び縮みしながら近づいてきた。


「俺を溶かすつもりか……?」


 スライムはモゾモゾと体を傾けようとしていたが出来ないでいた。


「んーっと、あれ……?」


 俺はスライムを眺めているとウィンドウがまた表示されていた。


 そこには多裂筋と表示されていた。これも背骨と言われる脊柱を支える筋肉だ。


 俺はただ単にスライムを徒手アプローチで治していただけだった。


「ひょっとしてこれを解せば倒せるのか?」


 近づいてくるスライムに手を伸ばし、俺は徒手で多列筋を押した。


 正確に言うと半透明で何かわからない部分だがそこはスキルを信じるしかない。


 するとスライムはまた光を放った。


「くあー!! 何か言ってから光れよ!」


 俺はまた直接スライムから放たれた光を浴びていた。


――3分後


 二回目だと目もすぐに慣れてきた。


 俺の目の前でスライムの体は横に傾けていた。


「あっ、解れたんだな……ってまだ倒せてないじゃん!」


 俺の言葉に反応してスライムは反対側に体を傾けていた。どうやら何か考えているのだろう。


「とりあえず、俺のスキルは使えないことがわかったわ……」


 俺のスキルは攻撃にもならないスキルだった。


 スライムは自身の体を俺の足にぶつけて森の奥に逃げて行った。


「あいつ俺に攻撃していって……くそ、ムカつくやつめ」


 スライムの攻撃は特に痛みもなかったが、攻撃して逃げたスライムにイライラが止まらない。


 スライムにまで馬鹿にされたのだ。


 結局どこに行けばいいのかもわからないなら俺はスライムを追うように森の奥へ歩くことにした。

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