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カール、という男がいる。シュヴァルツの部下で、僻地に飛ばされていない唯一の部下だ。筋肉がつきにくい彼は、細い。仲間からは「まるで針金のようだ」とよくからかわれる。彼にとって、シュヴァルツは理想であり完璧な上司だった。よく、シュヴァルツのことを自分の事のように自慢している男だ。だからこそ、牢獄に入れられているシュヴァルツをいまだキラキラとした目で見る。アルファードはこのカールという男を苦手としていた。仕方なく、ではあるのだが、話しかけるのを戸惑うほどに。

針金、と称されるだけあり、カールを見つけるのはたやすい。誰かに尋ねればすぐに居場所を教えてくれるからだ。もっとも、尋ねた人からの返答は「シュヴァルツのところか、事務室」という二択なのだが。

事務室の部屋を開ければ、一人の細い男が書類に埋もれていた。アルファードは顔をしかめながら、声をかける。

「カール」

「うへあ!?」


奇妙な叫び声をあげた男は、アルファードに向き直った。そして、ほっと息を吐くと「なんだぁ、アルファードさんじゃないですかぁ」とニヘラと笑った。


「珍しぃですねぇ、アルファードさんが僕のところへ来るなんて」

「少し話があるんだよ」

「話、ですかぁ?」

「ああ」

そう言ってアルファードはきょろきょろと周りを見渡した。それを観た男――カールは「ここには僕しかいませんよぉ」という。アルファードはため息をついた。


「シュヴァルツの処刑、お前はどう思うんだ?」

「シュヴァルツ隊長の処刑、ですかぁ?」


嫌そうに顔をゆがめたカールに、もしかして、とアルファードは期待を寄せる。


「今度は貴方ですかぁ。みんなみんな、シュヴァルツ隊長の処刑を止めたいだとか、いってきましたけど、もしかして、貴方も? おっと、質問を質問で返すのはやめましょう。まぁ、僕は賛成なんですけどねぇ」


カールの言葉に、アルファードは眉間に皺を寄せる。

いま、こいつは、なんといった?


「いま、なんつった?」

「だから、僕は賛成なんですってばぁ。どいつもこいつも、同じ質問ばっかで嫌になります」


カールはアルファードを睨むように見た。


「隊長がそうするって言ってるなら、僕はそれに賛成です」

「でも、あれは免罪なんだぞ!」

「だぁかぁらぁ、隊長が是というなら僕は是なんですってば。それに、カッコイイですよねぇ、隊長。罪を被ったまま、黙して死ぬ! あああ、カッコイイ! 憧れる!」

「憧れるなら、お前が変わりに死ねばどうなんだ?」

「やだなぁ、それができないから憧れるんですよぉ」


うっとりとしてそう告げたカールはどこか可笑しい。


「みんなみんな、反対反対って、シュヴァルツ隊長のことを理解してないんだから。隊長の恋人であるアリッサさえもそう言って、笑っちゃいましたよ。理解したフリをして理解してなかったんですよ、あの最低なクソ女」

「っそれはどっちだよ! お前のほうが理解してないだろ!」

「うるさいですよぉ、怒鳴らないでください。それに、僕が、隊長を理解してないですってぇ? 何言ってるんですか、僕が一番隊長を理解してますよぉ。隊長のことなら何でも知ってます。身長や体重から、初体験の年齢まで全部知ってます。例えば――」


カールの口から出てくるシュヴァルツの情報に、アルファードは身を引いた。この男、気持ちが悪い。


「ね、理解してるでしょう? 理解してないのは貴方達なんですよ。隊長は静かに黙したまま死にたいんですよ。罪を被ったまま、ね」

「――なら、お前は、シュヴァルツに罪を被ったまま死んで欲しいのか?」


低い声でアルファードが尋ねる。カールは自信満々に口を開く。


「隊長がそれを望んでますからねぇ」


アルファードはこみ上げてくる怒りを抑えようと必死だった。この男は、なにもシュヴァルツを理解していない、知っているのは表面の情報だけだ。それなのに、誰よりも理解しているフリをする。カールは何度も面会に行っていた。処刑に賛成なだけあり、偉い人物に自分のように反対はされないのだろう、とアルファードは予測する。


「とりあえず、僕はぁ、隊長の処刑に賛成ですよ」


時間の無駄だった、とアルファードは舌打ちをする。そして、「そうか、なら、ようはない、」とカールの部屋を後にした。


「ばかだなぁ、処刑されれば隊長はもっと英雄になるのになぁ」


ポツリ、と呟いた言葉は誰にも聞かれずに消えていった。




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