第参話 「鬼の三侠、遅れて推参!」

 羅刹鳥らせつちょうを手に入れてからの移動は様変わりした。

 一時的とはいえ、飛行ができることで跳ねても届かない場所や危険な罠などを回避できた。

 順調に望天は山の四合目を駆け下りていた。


「ボウちゃん、気付いてますか?」


「あい?」


「出現する妖怪の質が妙に上がってます。追手も強くなってますし、山全体が奇妙に荒れ始めてる。……フヘへ、これ、間違いなく龍玉が無くなったせいですねぇ。山を守護していた力の要が無くなって、山に強力な妖怪が入り込んで場が乱れてるんですよ」


 嫦娥はどこか楽しそうに現状を解析する。

 実際、望天を襲う妖怪は強さを増しており、吸魂すると霊力の高い良質な魂になる。


「脅威ですけど見返りも大きいですね。ボウちゃん、ここらで妖怪を狩って魂集めするのもいいかもしれません。追手の鱗人も強力なのが出てきてますし、強力な魂はあって困りません」


「あいあい」


                 ――――


 強力な魂を求めて妖怪や追手を狩っている望天。

 その頭上から、望天を制止する声が響く。


「待ちなッ、キョンシー!!」


「あい?」


 望天の眼前に三体の幽霊が降ってきた。格好つけて着地ポーズをしているが、幽霊だからそもそも浮いている。

 真ん中の女狩人が望天を指さす。


「キョンシー、あたしらの龍玉を渡してもらうよッ」


 両脇の幽霊――髭を伸ばしている男と外套がいとうで顔を隠している男もそれに続く。


「そういうことで一つお願いしますね、と」


「よろ」


「……あい?」


 望天が首を傾げていると女狩人が揚々と続ける。


「あたしらが誰かって? 知りたいなら教えてやる。あたしらは世にも恐ろしい幽霊の盗賊団『鬼の三侠』、頭目のきゅう!」


「頭脳担当のかんですよ、と」


「色々担当、ちょう。よろ」


 と自己紹介をしてから三人揃って決めポーズを決めた。

 とりあえず、ポーズが気に入った望天は拍手した。

 拍手が響く気まずい空気が数秒続いた。

 やがてして、頭目のきゅうの顔が真っ赤に染まった。きゅうは他二人を集めて、望天に背を向けて話始めた。


「ちょっと! 全然怖がらないじゃない、反応悪いじゃない。拍手してくれてるのが純粋過ぎて、逆に辛いんだけど!」


「や、きゅう姉御あねご。そもそも、うちら『誰だ』とかも聞かれてないのに自己紹介始めちゃってましたよ」


「だ、だって台本はそうだったでしょ!?」


羞恥心しゅうちしん、爆発」


「恥ずかしいからって台本通りに台詞読んでも、ね。適宜アドリブって書いてたでしょ?」


「こ、こんな名乗り恥ずかしいに決まってるでしょ! 大体、怖がってくれないし。幽霊なのに!」


「相手はキョンシー。怖がる訳ない」


「向こうも化けて出たみたいなもんですからね、と」


「ああぁぁぁ……超恥ずいぃ~……」


 羞恥で頭を抱え始めたきゅうを他二人が慰めている。

 未だに拍手を続けている望天に代わり、嫦娥が口を開いた。


「……いやぁ、変なのが現れましたねぇ。バカなんじゃないですか、こいつら」


 嫦娥の侮辱に、きゅうが反応する。


「ば、バカとは何よバカとは! こっちだってね、色々段取りってもんがあったの。グダグダでごめんなさいね!」


「はは、元気出た。これで問題なし、と」


「改めて」


 仕切り直した鬼の三侠が改めて目的を口にする。


「兎に角。あたしらの龍玉を渡しなッ」


「さっきも言ってましたね。龍玉はボウちゃんが持ってるんです。つまり、ボウちゃんの所有者である嫦娥ちゃんの物です」


「や、そりゃごもっとも。けど、ね? うちらも今晩、その龍玉を盗もうとしてたんですよ、と」


「早い者勝ち、盗賊の掟。横取り、盗賊の日常。OK?」


「龍玉を横取りしようって魂胆ですか。生意気な浮遊霊共ですねぇ。この嫦娥ちゃん手製のキョンシーが貴様等、下等霊如きに遅れを取ると思うわないことですねぇ?」


 珍しく嫦娥が凄む。邪仙モードだ。

 だが、嫦娥の邪気に怯むことなく、きゅうが言葉を発する。


「……そこの札、さっきからさ。やれ『所有者』だ、やれ『自分のだ』とか言ってるけど。その子を物として扱うんじゃないよ、性悪女。しっかり心があるだろう」


 きゅうは至極真面目に、キョンシーの望天を物扱いした嫦娥に怒った。

 呆気に取られていた嫦娥が気味の悪い笑いを漏らす。


「フヘ、フヘへへ。 言いますね、下等霊? この娘はキョンシーですよ。嫦娥ちゃんが死体を拾って作ったキョンシーなんですよぉ~?」


 あざける嫦娥に、きゅうは不機嫌を露わにする。


「だからなんだ、陰湿女。拍手してくれたその子にはしっかりと心がある。心がある存在を物のように扱うお前を、あたしは心底軽蔑するね」


 きゅうが嫦娥の声を届ける札に矢を射かける。

 寸分違わず飛来する矢を望天が弾く。


「……腕は達人級みたいっすねぇ。ボウちゃん。こいつらを吸魂しなさい。くそ生意気ですが使えそうだ」


「あい」


「あんたら、頼むよ。龍玉もだけど、あの邪仙もムカつく!」


「うちらのかしらは本当にやりがいのある仕事をくれるな、と」


「同意」


 鬼の三侠と望天の戦闘が始まった。


              ――――


 きゅうの放つ矢を亀の魂を盾にして防ぐ望天。

 鬼の三侠の連携は厄介だった。望天の用意する防御手段のことごとくをちょうがすぐに無効化し、かんが望天の弱点を看破しきゅうに伝えて戦場を支配する。弓は卓越した射撃技術で的確に弱点を射貫いてくる。

 だが、吸魂で羅刹鳥らせつちょうを仲間にし、手札を増やしていた望天に軍配が上がった。

 最後に、強力な妖怪の魂を使った範囲攻撃で鬼の三侠はまとめて倒された。

 鬼の三侠は望天に吸魂されてしまった。


「あい」


「ちょっと! ここ狭いんだけど。何このデッカイ鳥!?」


「まあ、こうなっちまったら仕方ないかね。役に立ちますよ、と」


「脱出不可能。オレ、手先器用」


「あいあい」


「……なんでちょっと嬉しそうなんですかねぇ、ボウちゃん~」


 鬼の三侠がなし崩し的に仲間になった。ちょっと嫦娥が拗ねた。

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