第弐話 「吸魂とペット?」

 下山中、望天は嫦娥から念話で忠告を受けていた。


「ボウちゃん、その山には妖怪や幽霊、人間なんかもそこら中に居ます。逃げるだけじゃなく、雑魚を吸魂しとくべきでしょうね」


「あい? 何故なにゆえ?」


「追手として放たれたのは恐らく鱗人りんじん、龍に近付こうとした半龍人たち。スペックじゃボウちゃんも負けてませんが、如何せん逃走劇は予定外の事態ですから。取れる手段が多いに越したことはないですよぉ」


「あい、了解」


「おや? ……フヘ、ちょうどいいのが居ますよ。目の前にいる火鼠、あいつを吸魂するんです」


 嫦娥の命令に従い、望天は火鼠に襲い掛かる。

 死んだ火鼠を吸魂する。


「ゴクンッ。あい」


「……よしよし。この魂は戦闘で使えそうですね、火球にして敵にぶつけてやれそうです」


「あい。望天、蹴鞠、得意」


「ボウちゃん、跳ねる癖に球の扱い上手いですもんねぇ。吸魂すれば戦闘にも逃走にも使える便利な魂が手に入ります。だから、積極的に吸魂してください」


「あいあい」


 望天は嫦娥の忠告を守って道中に現れる邪魔者、妖怪や動物などを始末して吸魂していった。

 腹が吸魂した魂で満杯になるまで集めて、望天は新しいエリアに到達した。


「今は山頂から少し下った所、上から二合目ぐらいですね。山頂付近は険しい岩場で飛び降りれば良かったですけど、こっからは森林部で道が悪い。う~ん、ボウちゃんの移動に便利な魂があればいいんですがねぇ……」


「あい。なら、コレ」


 動物の魂を取り出す。ソレに獣道を案内させる。 

 道中、望天は何かの気配を察知した。

 下山ルートから少し外れて。林の中を進み、望天は気配の元に近付いた。


               ――――


 望天が見つけたのは、腹に矢が刺さっている若い花嫁。しかして、血に染まる花嫁衣裳から覗く足は鳥のよう。

 花嫁は矢傷を押さえながら、突如現れたキョンシーを警戒して睨みつけてくる。

 嫦娥が悪いことを思いついたときの声を出す。


「おやぁ? 珍しい、死にかけの羅刹鳥らせつちょうじゃないですか~。ボウちゃん、丁度いいタイミングです。こいつをさっさと殺して吸魂しちゃいましょう。羅刹鳥らせつちょうは大きいですから、ボウちゃんを掴んで飛ぶくらい出来ます」


「あい」


 望天がにじり寄ると、羅刹鳥らせつちょうが人語を発する。


「頼む。殺すならせめて、亡骸なきがらの一部でいい……生まれ故郷の墓所に連れていって欲しい。そうすれば、我等の亡骸なきがらが新たな羅刹鳥らせつちょうとなり、我等を射った憎き者に復讐できるのだ」


 懇願する羅刹鳥らせつちょう

 望天は首を傾げる。


「疑問。嫦娥、どうする?」


「メンドクサイっすねぇ、……んんッ。羅刹鳥らせつちょう、お前はこれから魂だけとなり、この嫦娥が使役するキョンシーの一部となる。望みは叶わん」


「我等の魂を取り込むと? なら、お前は伴侶だ。我等に代わり、伴侶となるお前が仇を取ってくれ。仇はこの山の守り人、鱗人りんじん棟梁とうりょうだ」


 己に都合よい方向に羅刹鳥らせつちょうは思い込んで吸魂を受け入れた。

 伴侶と言い張る羅刹鳥らせつちょうの仇討ちを押し付けられた。


「メンドクサ! 恨み背負わされちゃったじゃないですか!? とんだ押しかけ女房ですね!」


 望天の頭の上に、鳥の姿になった羅刹鳥らせつちょうの魂が現れた。


「あい、ペット」


「こんだけ大きければ移動手段としては使えそうですね。ただ、魂だけですから一瞬だけですかねぇ」


「仇、どうする?」


「えぇ~……あー……。まあ、機会があれば、ついでにぃ?」


「あい」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る