赤い配線

@Kokko222

第1話

町の商店街の二本隣、そこの通りの裏道に、骨董品店があった。知る人ぞ知る、みたいな。

そこは不思議な場所で、ふと気づいたら迷い込んでいて、自分の悩みを解決してくれる謎の店…なんてことはなく。ごく普通の骨董品店だ。アンティークとも言うんだったか。

店主の物知りばあちゃんが言うには、「骨董品に導かれた人がくる」って。実際に、なんかで悩んでる人がよく来る気がする。でも普通の客もときどき来る。とは言っても、僕はこの店の店員とかではなく、ただの常連だ。今どきこんな店…とも思うが、いつもは機械ばっかいじってるし、たまにはこういうのも良い。店の雰囲気が好きだから、これまた古い揺り椅子に座って揺られながら本を読んだりしている。ばあちゃんは優しいから、ときどきお菓子をくれる。大体みすゞ飴か黒糖飴かチョコ。あったかい。


今日の客は、「運命の赤い糸」を探しているようだった。必死になって、ばあちゃんにお願いしてた。ばあちゃんが緩慢とした動作で取り出したのは、暗い色味の木でできた裁縫箱。それを見て客はばあちゃんにお金を放り投げ、ひったくるように裁縫箱を持って駆けていった。お金を拾うのを手伝いながら、今の客について考える。ばあちゃんの説明も聞かない不躾な人だった。

ちゃんと話を聞かないと、痛い目を見るってのは昔からずっと変わらないのに。ばあちゃんが出したあの裁縫箱。前に話を聞かせてくれたやつだ。いろんなものを切ったりくっつけたりできるんだって。ただ、うまくやらないと、切っちゃダメなものを切っちゃったり、余計なものをくっつけちゃったりするらしい。だから気をつけて使うんだよ、とばあちゃんは言っていた。あの人は説明も聞かずに飛び出していったから、失敗すると思う。


それにしても、どうして赤い糸なんかが運命なんだろう。たしかに糸は結ぶとはいうけれど、相手と結びつけるだけだ。何の役にも立たない。結局は自分の頑張りに決まってる。どうせなら、機械の配線とかの方が役に立つんじゃないかな。あれなら直接繋げるから、運命の相手と繋がっている感はある。せっかくだから、実際にやってみようか。

ばあちゃんに言って、そこら辺にあったラジオを買った。骨董品のラジオでも、基本の仕組みは変わらないはず。パパッと解体して、中の配線を取り出してみると、赤と黒の配線がくるくると連なってる。配線が千切れないように、丁寧に取り外し、赤の配線を一本出してみた。

何の変哲もない、くたびれた古い配線だ。家に持って帰って、何かと繋いでみようか。きっと僕の悩みも解決するに違いない。なんてったってこれは、「運命の赤い配線」なんだから。なんてね。

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