夏帆side

 「おーい!雅也ー!いるかー?」

圭介くんがチャイムを連打しながら、大声を出している。時計を見ると、今は20時。近所迷惑だよ。と思っていると、

 「近所迷惑だって。静かにしなさいよ。」

と咲輝が注意してくれた。

 「あれっ?鍵、開いてたじゃん。」

と言って勝手に部屋に入っていく圭介くん。

 「ちょっとー!勝手に人の部屋に入っていいの?ダメじゃない?」

 「いいでしょ。俺ら、仲良かったし。」

そう言って圭介くんはズカズカ入っていく。

 「夏帆、私達も入ろうよ。鍵かけてなかった雅也も悪いんだし。」

あれ?咲輝、さっき言ってたことと違うじゃん。と思ったけれど、二人とも入っていくので、私も入ることにした。

 玄関に入ったとき、「ヒュンッ」という変な音が聞こえた気がしたけれど、その音と重なって、

 「痛っ!!」

と、圭介くんの声が聞こえた。何かにぶつかったらしい。昔とあまり変わってないな。

 「なんだこの箱…?」

圭介くんの目線の先には、黒い箱があった。どうやらこれに足をぶつけたらしい。

 「しかし、変な箱はあるくせに、雅也はいないのかよ。せっかく来てやったのに。」

 今日、私達三人は、ドッキリ作戦として、雅也くんの30歳の誕生日のお祝いをしようということになり、集まったのだ。また雅也くんと会えるなんて、嬉しいなと思っていたけれど、雅也くんはいないらしい。

「雅也が帰ってくるまでここで待ってようぜ。」

 「そうね。話して待っていよう。」

ということで、私達はいろいろ買い込んできたおつまみを食べながら、昔話で盛り上がることとなった。

 「30歳にもなって、俺らみんな独身って、どうなんだよ。」

 「夏帆、雅也くんに告白すればよかったのに。」

咲輝が突然言い出したので、飲んでいたお茶を吹き出してしまうところだった。

 「ムリムリ。だって、絶対、雅也くんは私のこと好きじゃなかったよ。」

 「それはどうだろうな〜。」

圭介くんがニヤニヤしながら言った。

 「好きでしたって言ってみたらいいんじゃない?あいつ、喜ぶんじゃないかな?」

圭介くんが意味不明なことを言ったので、私は話を変えた。

 「雅也くん、遅いね。夜遅くまで仕事かな。」

 「そうかもな。次はドッキリじゃなくて、連絡取ってから会いに来るか。ところで  ここに来てから、どれくらい時間経った?」

 「んー…」

私は時計を見た。20時30分。

「ちょうど30分経ったよ。」

 「チーン」

 なんの音?みんな不思議そうな顔をした。

 「これじゃね?この大きな電子レンジみたいなやつ。さっき、俺の足を攻撃してきたやつ。」

 圭介くんが指さした。すると、そのままためらわずに勢いよく扉を開けた。

 その箱の中には‥‥ポツンと腕時計が入っていた。これ、雅也くんがつけていたやつだ。でも、こんなにピカピカだっけ?なんだか、この腕時計がとても気になった。

 「なんだ。ただ腕時計が入ってるだけかよ。もっと面白いのが入ってたら良かったのに。」

 そう言って、圭介くんは扉を閉めてしまった。

 「よし、そろそろもう帰るか。」

 「残念だね。久しぶりに雅也に会えると思ったのに。ね、夏帆。」

 「うん‥‥。」

 私はあの腕時計のことが頭に引っかかって取れなかった。なんであんなにピカピカになっていたのだろう。高校のころ、そういえば、割れたスマホを、キレイになおして次の日に持ってきたことがあったな。あれと、なにか関係はあるのかな。

 今度雅也くんに会えたときに、聞いてみることにしよう。そのときに‥‥「好きだった。」なんて、言ってみようかな。迷惑かな。

 夜空に浮かんだ、まんまるの月を見ながら、次に雅也くんに会えるのはいつだろう。楽しみだな。と思った。

 

 

 

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