第7話 空き教室

わたし、月島皐月はあの後もなんどか2年2組へ行き、柳下えみりさんに接触を試みた。


だが、なかなか手強かった。一人の時間がかなり少ない。


基本的に誰かと一緒に行動をしてるらしい。


そうして、ようやくチャンスがやってきた。


わたしは、昇降口前でまちぶせをしていた。


時間は放課後。この日は結花さんレッスンだったかな。


あの日以来、結花さんのスケジュールを少しだけ確認した。


レッスンは週三ぐらいで入っていた。そして、今日がその一日。


柳下さんが帰るタイミングを狙って、いかにも偶然のように声をかけた。


キラキラと宝石のように輝く金色の髪がとてもきれい。瞳が夕日に当たっていて、眩しい。お人形さん見たいだ。


「ごきげんよう、柳下さん」


「ごきげんよう、生徒会長さん。今日はどうなさいまして?」


「明日の放課後、わたしの教室に来て欲しいのだけれど、来てくださいますか? ちょっとお話したいことがありまして」


「お話……ですか。具体的にはどのような……?」


やっぱりそうきたか。これは、想定範囲内。


「うーん。それは、その時のお楽しみ、かな。大丈夫。悪い話ではないわ」


わたしは、柳下さんの耳元に近づけて言った。


「うーん、そうですか。生徒会長さんのお誘いには断れませんし、分かりました。明日の放課後ですわね」


物分りが早くていい子。好きになっちゃいそう。


「うん、話が早くて助かるわ。一応、連絡手段としてラインの交換しときましょう」


「大変嬉しいのですが、わたくしなんかが生徒会長と連絡先交換して良いのでしょうか?」


「うふふ、わたしがいいんだからいいに決まってるわ」


柳下さんは恐る恐る携帯を出して、次にわたしの携帯を重ねてコードを読みとって交換した。


「大体、10分ぐらいで終わるはずだから、長居はさせないつもりよ」


「わかりました。ありがとうございます。あの、結花さんにこのこと伝えておいても大丈夫でしょうか」


「ええ、構わないわ。よろしく言っておいてくれると嬉しい」


そう言って、今日は別れた。



次の日、放課後あたしは2年2組で待機していた。


えみりが皐月さんに、なんでも呼ばれたらしく、10分程度で終わるから待っていて欲しいと言われて教室で暇を潰していた。


「どんなこと話してるのかなあ」


あたしは窓越しの夕焼けを見ながら言った。


なんで、あたしじゃなくてえみりなんだろ。


直接言いにくいからえみりを通じて? いやいや、それとも生徒会入会の打診? まさかな……


そんな思考がぐるぐると巡っていた。


もうしばらくで、10分が経とうとしていて。


でも、来る気配がなかった。


「お話が長引いてるのかな。もう少し待って見よう」


20分が経った。未だに来ない。


「さすがに、長引きすぎじゃないかな……? ちょっとだけ、確認しに行ってみようかな?」


そして、あたしは4階の3年1組へ向かった。


夕焼けが窓から差し込む。それはとても幻想的で。


夕焼けに当てられた窓のフレームが、廊下に影になっていて、そして暖かくて。


進もうとした時、えみりの声が聞こえた。


「ん……。生徒会長さんそこはダメ……」


なんだか艶っぽい、湿ったい声が響いていて。


廊下を歩こうとしたあたしは、少し戻って階段に座った。


「は? えみり……? えっ?」


あたしは思考回路が停止して、動揺を隠せなかった。


「えみりと、皐月さんが? なんで? いつの間に?」


聞いてはいけないものを聞いた気がした。罪悪感のようなものを感じていて。


だけれど、なんだか、苛立ちを覚えていた。


よく分からなくなったあたしは、えみりにラインで『この後、予定出来たから先に帰るね。』と送信して学校を早歩きで帰った。

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