第4話 呼び出し 前編

あれから一週間が経ち、生徒会長の月島皐月さんとラインでほぼ毎日やり取りをしていた。


ラインをしていたのはほぼ夜だった。こっちを配慮しての時間だったのか、生徒会長の習い事が終わってからの時間だったのか分からないけど。


ちなみにほとんど生徒会長からのラインだった。


自分から生徒会長にラインを送るのってとても恐れ多いし、何の話題を出せばいいのか分からなかったし。


生徒会長からの会話は、結構フランクで。


『好きな食べ物は?』とか『得意な教科、苦手な教科は?』とか本当に他愛もない会話だった。


だけど、昨日の一文にはかなり驚いた。


『明日のお昼休み、良かったら一緒に食べない?』


正直「え?」と思った。


断る勇気も出せなかったので、とりあえず言われるがままに受けいれた。


次の返信で、こう書かれていた。『大丈夫、周りには人は居ないよ。明日は2人きりだから』


思わずびっくりして「2人……きり……?」と声に出してしまうほど動揺した。


なんか凄く緊張するなあ。2人きりなんて……。


だって生徒会長とだよ?こんな急展開誰が予想する?


常に周りに人が居て、輝いている存在。


あたしみたいな無気力で自分がないような凡人とは住む世界が違うというか。そんな感じ。


明日はどうなってしまうんだろ……。失礼の無いようにしなきゃ。


不安と緊張が錯綜するなか、眠りについた。



登校時間には正門前に生徒会の皆さんが並んで朝の挨拶をしている。この学校の伝統らしい。


正門をくぐる時に生徒会長と目があって。


「ごきげんよう、結花さん」


ニッコリ笑って首をちょっと傾げて挨拶をしてた。


「ごきげんよう、月島生徒会長」


ぎこちない笑顔で交わし、昇降口へ向かった。


朝のホームルーム後、ラインに生徒会長から『今日はよろしくね。場所は生徒会室で』と通知が来てた。


あたしは事務的に『わかりました』とだけ返しておいた。


お昼はいつも、えみりと食べてたんだけど、今日は断りを入れて置かなきゃな……。


まだ1時限目まで時間があったのでえみりに声を掛けて「ごめん!今日ちょっと生徒会長に呼ばれちゃって……」と簡単に説明した。


えみりはびっくりした様子で。


「せ、生徒会長!? なら仕方がないですね。なんか呼ばれるようなことしました?」なんて言いながら快諾してくれた。


「なら今日は学級委員長を誘ってお昼を頂きましょうか」


と顎に手を当てて悩みながら今日のお昼をどうするか考えていた。



お昼休み。生徒会室前。


生徒会室は3階にある。


ただお昼を誘われただけなのにひどく緊張してる。職員室入る時みたいに。


ノックしづらい……。と思っていたのだけれど頭をふるふると振って意志を固めた。


(行くしかないな……)


意を決して、ドアに3回ノックしてみた。


「開いてるよ! 入って」


声が聞こえたので、ドアノブをゆっくり回して恐る恐る入った。


「……失礼します」


生徒会室に初めて入った。するとそこには『0』を表すような少し大きめの長く真ん中に空間ができた机。左壁には書庫、右側と奥の壁は大きな窓になっていて、日差しがよく入るお部屋だった。


生徒会長は凄くニコニコしていて迎えてくれた。


まるでひまわりのように。


生徒会長はあたしの元にきて、手を握って誘導した。


「ここに座って」


言われたのは、書庫側の机の奥側1つ手前の席。


「はい」


あたしは座って、生徒会長の準備ができるのを待った。まだ緊張が抜けない。


扉の方へ生徒会長が向かって、ガシャッと鍵を掛ける音が聞こえた。


「おまたせ、急に呼び出してごめんね? なんだかラインをしてるうちに楽しくなっちゃって。もっと会話したいなって思って」


と、言いながらあたしの隣へ座った。


「い、いえ! お誘い頂けて光栄です。とても嬉しかったです」


「そう、なら良かった。それじゃあ、食べましょうか」


ルンルンした様子でお弁当を開いた。そのお弁当には彩り鮮やかな見栄えになっていた。


「生徒会長は、いつもご自分でお弁当を作ってるんですか?」


「生徒会長ってなんだか距離が遠くて嫌だなあ。下の名前で呼んで欲しいな? ほら、わたしも結花さんって呼んでるし」


「で、でも恐れ多いというか……あたしなんかが下の名前で呼ぶ資格が……」


「ふふっ、じゃあ、その資格を今上げる♪ほら、呼んでみて」


少し恥ずかしかったけれど、独特の生徒会長の雰囲気に負けて。


「さ、皐月さん……!」


言う以外の選択肢はなかった。既に主導権は生徒会長だったのだ。


「ふふっ、かわいい……ねえ、ギュッてしていい?」


「え? ち、ちょっと待ってください……!」


生徒会長ってこんなにスキンシップ激しい方だったの!? とびっくりしていた。


「あははっ冗談冗談。お弁当は毎日自分で作ってるよ。気になる?」


「ああ、いえ、いつもお忙しそうですし、こんなにきれいなお弁当を毎日作ってたら凄いなあなんて思って」


「あははっ、そうなんだね。褒めてくれてありがとう。褒めてくれたお礼に卵焼きあげる。はいっ、あーんして」


お箸で卵焼きを掴み、あたしの口元まで寄せてきた。本気らしい。


「えっと……あ、あたしのところに置いて頂ければ……」


「だめ! あーん、がいいの! ほら、あーんして」


すっごく恥ずかしいよ……これ。他の人がきたらどうするんだろ。


「ふふっ、頬が赤い。照れちゃって」


「ほ、他の子がきたらどうするんですか……!? 一応お昼休みですよ!?」


「大丈夫、さっき鍵は掛けたし、問題ないよ。鍵がかかる音、聞こえてたでしょ?」


「そうじゃなくて……!」


必死に抵抗していたけれど、どうやら生徒会長は食べて欲しくて仕方がないっぽい。


ああーっもう、なるようになれ! と思って。目を瞑って口を開けた。


「ふふっ、ようやく素直になったね、かわいい。はい、あーん」


口の中にほのかに甘い味が広がった。とっても美味しかった。焼き加減が絶妙で、固すぎず柔らか過ぎず。


この状況で、さらに甘さが加速していくように感じた。


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