第3話 放課後、アイドル事務所にて
あたしはアイドル事務所に来て、近くのソファーに座って待機している。
自己紹介が終わった後、解散になった。
あたしはラインで、マネージャーから打ち合わせがあるとの連絡を帰り際にもらってそのまま事務所に直行した。
学校から電車で大体30分移動したところに事務所はある。
打ち合わせの時間は13時からで、今は12時半くらい。
若干早かったか……と思いつつ、ドアノブに手をかけた。
「おはようございます」
「おはよう、結花さん」
「あ、マネージャー。今回の話はなに?」
「えーっとグループの今後の方針と、メンバーのレベルチェックとかかな。あとは親睦を深めてもらいたいかな」
レベルチェックとかどんな事するんだろう?
とか思いつつそう、とうなづく。
15分前になって、メンバーがぞろぞろと入ってきた。
ソファー向かって右手に座っていたあたしから順番に座っていって、メンバーが並ぶ。
このグループ『カラーパレット』は5人。
よくあるオーソドックスなアイドルグループみたいな感じ。
ちなみに、メンバーにしっかり会うのは今回は初めて。
「よし、揃ったね。では打ち合わせを始めようか」
みんなバラバラに返事をしていて、とても楽しそうなのが伝わってきてて。
自分もそれに乗せられるように返事をした。
「まず、大前提なんだけど一応アイドルを始めるにあたって、恋愛禁止だから注意してね」
「は? マジで!?」
あたしは思わずびっくりして口に出してしまった。
あっ、と口を両手で塞いだ。
アイドルというものは知っていた。好きなアイドルも一応いるけれど、表面的な事しか知らない。
それ以上に調べる必要がないと思ったからで。純粋に推している程度のものだ。
それに他人の恋愛事情とか全く興味のないあたしにとっては、その辺どうでも良かった。
スマホでニュースをたまに見るけど色恋の話題については基本スルーを決めていて、むしろなんで、他人の恋愛事情とか記事にするのだろうかと思ってる。
面白半分で記事にしているとしか思えない。
アイドルの恋愛禁止なんて、世の中では常識みたいだが、推しの曲が聞ければいい程度に思っていたあたしはあまり関心がなかったので知らなかった。
あのアイドルも実は恋人がいて、隠しているのだろうか?
「ちなみに、今恋人がいる人も活動を始める時には別れて欲しいかな。そのくらいの覚悟を持って、挑んでもらいたい」
メンバーはうなづいていた。
「もし、仮にいた事が週刊誌とかに載ったらかなり厄介になっちゃうから徹底してね」
「「「「わかりました」」」」
「わかりました……」
とりあえず返事をするしかなかった。
それから話は続く。渡された資料をパラパラとめくった。
◇
各メンバーのレベルチェックが終わったので、帰り支度をしていると忘れ物に気づき、事務所に併設されているレッスンルームへと向かった。
軽快なリズムが聞こえ、レッスンルームの方へ振り向いた。
あたしの学校の生徒会長、月島皐月がいた。同時に『フラワーライン』のセンターでもある。
これは新曲なのだろうか?知らない曲だ。
曲をもう何枚も出しているだけあって歌はとても上手だった。
「凄いなあ。生徒会長。本当になんでもできるんだ」
今はレッスン中みたいなので、ひと休憩が入ったタイミングで入ることにする。
自販機で飲み物を買い、しばらくベンチに座って曲を聞きながら休んでいた。
「お疲れ様。一旦ここで休憩にしましょう」
そんな声が聞こえたので、ベンチから立ち上がって扉をノックした。
「……失礼します。忘れ物を取りに来ました。」
「ごきげんよう、結花さん」
生徒会長に挨拶されてしまったのであわてて、学校の作法で挨拶をした。
「ご、ごきげんよう、月島さん」
めちゃくちゃ緊張する。オーディション並の緊張かもしれない。お辞儀したままで顔を上げたくない……っ
「忘れ物はもしかして、この水筒かな?」
「は、はい、そうです。この水筒です」
「可愛い水筒だね。見慣れなかったから誰のだろうと思ってたそしたら結花さんのだったのね」
なんだろう、凄く気さくな方だ……そして話しやすい。
生徒会長の周りは常に人が多いけれど、納得出来るな。
「そんな……可愛くないですよ。そういうことなのであたしはこれで……」
「あっ、ちょっと待って。一応連絡先交換しておかない? 同じ学校なんだし」
今なんて? 連絡先?
「え? は、はい、構いませんけど……」
生徒会長がラインのQRコードを見せてきたので、あたしは読み込んで交換した。
「情報共有出来ればと思ってね。ふふっ。時間が出来たらまた話そうよ」
「は、はい、こちらこそよろしくお願いいたします」
「じゃあ、またね」
お辞儀をして、レッスンルームを後にした。
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