第2話 始業式と2学年のスタート

しばらく外を眺めていたら、ガタッと教室の扉が開く音がした。


担任がきた。ルンルンで教室に入ってきて、クラス内がざわめき出して黄色い声が響き渡った。「まじ?」とか「今年は恵まれてるわね」だとか「あらまあ」とか歓喜の声が聞こえた。


「静かにしてくださいね~? しーっ」


口元に人差し指をあてジェスチャーをしている。

妙に愛らしく、仕草がいちいち可愛い。ゆるふわ系の言葉が良く似合う雰囲気で凄く、モテそうな先生。


学年でもっとも人気がある先生で、相談が絶えないのだそう。


通る声に切り替え自己紹介を始める。


「2年2組の担任になりました、山崎優香です。ええーっと、よろしくね?」


ウインクまでキメた。さすがとしか言いようがない。これが人気度1位の先生か。

続けて先生が話す。


「この後直ぐに始業式があります。ホームルームが終わったら体育館へ向かって下さいね」


「「「はーい」」」


「それと、始業式が終わってからは基本的に解散なわけだけど、先生的に1度教室に集まって自己紹介をして、親睦を深めていきたいと思うのだけれどどうですか?」


自己紹介か。いいと思う。


みんなもうなづいてるから大方決まりみたいだ。


「じゃあ、そういう事で始業式が終わったらまた教室に集合で!」


山崎先生は教室を出て行った。続けてぞろぞろと体育館へ向かった。


水明女学園の体育館は、正門の横にある。


校舎との道は完全に繋がっており、屋外に出ること無く行く事が出来る。


校舎がきれいなだけあって、生徒もなるべく汚れないように配慮された作りみたい。


「結花さん、ご一緒してもよろしいでしょうか?」


「うん、大丈夫だよ。えみりさん」


素早く隣について手を握った。


「ご一緒出来る時間がたくさんあってわたし、とっても嬉しいです。結花さんもそう思いませんか?」


上目遣いで見てきた。

頬がオレンジ色に染まっている。春の日差しに当たっていたからかもしれない。


「あたしも、えみりさんのように話しやすい人が近くに居てありがたいよ」


「そう言っていただけるなんて、なんてわたしは幸せ者なのでしょう」


えみりは右手を頬に当ててニコニコしていた。




「続いて生徒会長、月島皐月さんお願いいたします。」


トントンと一定のリズムを刻むようにステージ横から演説台へ向かう。


長い黒髪がキラキラと、隙間から射し込む太陽光に照らされて輝く。凛とした顔つきでとても大人っぽい。背筋がピンと伸び、姿勢が崩れずに歩く姿はとても美しく思う。


生徒会長の月島さんは文武両道でテストは毎回学年トップ、所属している吹奏楽では、トランペットを吹いていて、ソロパートでは毎回抜擢されているみたい。あまり詳しくないから分からないけど。あくまで耳に入った程度のお話ね。


そして、あたしの所属しているアイドル事務所のグループ『フラワーライン』のセンターでもある。


まさに高嶺の花。近寄りがたい雰囲気。


目の前でミスしたらかなり言われそう。


そんな事を思っていたら、お話が始まった。


「皆様、ごきげんよう。わたくしは今期生徒会長の月島皐月と申します。皆様は今年から1学年は2学年に、2学年は3学年に進級しました。学年が上がった事により、求められるレベルは上がって参ります。それに恥じぬよう日々精進し仲間と共に切磋琢磨しあい、高校生活をより良いものにしていきましょう。また、学校生活でご不便を感じられた方がおられましたら、各学年のフロアにご意見箱を設置してありますゆえ、そちらにご意見を頂けますと幸いでございます。わたくしからは以上でございます」


生徒会長が演説台から一歩引き、姿勢を正し深くお辞儀をして、ステージ横へ戻る。


「生徒会長、月島皐月さんありがとうございました。続いては……」



始業式の帰り道。あたしたちは教室へ向かっいた。


「月島さん、とても清楚で勉学もスポーツも出来て憧れます」


「たしかに、凄いよね。何もかも抜けてて近寄れない」


あんなになんでもこなせる人はなかなか居ない。


休む時間があるのだろうかとふと疑問に思う時があるのだけれど、あれだけなんでもこなせる人はそういう時間も配慮して自己管理もしっかりしてそうだと自己解釈したのであまり考えないようにした。


考えても、接触する機会がないから気にしても仕方がないってのもあるし。


あたしたちは教室へ戻り席についた。


席は出席番号順で並ばれている。


あたし、天草結花は出席番号2番。なので一応窓際席。


クラスは30人構成で、えみりは29番みたい。


ドアがガラガラと空いて、先生が入ってきた。


教卓に名簿やら書類を置いて教室全体を向いた。


「皆さんお待たせしましたあ! 全員、揃っていますね? ではまずわたしから自己紹介しますね」


一気に静かになる。


「改めまして、2年2組の担任になりました、山崎優香です。担当教科は国語。部活は吹奏楽の顧問をしています。これから1年よろしくお願いいたします」


深いお辞儀をしていて、とても信頼出来そう、と改めて思った。


クラスメイト全員がパチパチと拍手をして、先生がその隙に「じゃあ、出席番号順から行きましょう」と促され、自己紹介が始まった。


そしてあたしの番が回ってきた。自己紹介は得意でもなければ、苦手でもない。ただ、ありのままを話せばいいだけ。だから、気楽に話す。


「皆様、初めまして。天草結花と申します。得意科目は数学です。部活は所属しておりませんが、ピアノを習っております。以後、お見知り置きを」


お辞儀をして席に座る。


順々に自己紹介が周り、学級委員長の出番が回ってきた。


「皆様、ごきげんよう。学級委員長をしております、岬舞香と申します。得意科目は国語です。部活は弓道をしております。以後、お見知り置きを」


さすがは学級委員長。全ての動作が美しい。見ていて惚れ惚れする。


その後も、自己紹介は順調に進んだ。まあ、ほぼ定型文になってしまったから止まる事はあまり少ないんだけどね。


「皆様ごきげんよう。柳下えみりと申します。わたくしの得意科目は英語です。苦手科目は数学が少し苦手で……もしかしたら皆様にお力を貸していただく事があるかも知れませんが、その時はよろしくお願いいたします。部活は習い事の関係で所属しておりません。以後、お見知り置きを」


えみりはこの優しい声音から、話しやすいってのもあって友達が多い方で。かなり顔が広いらしい。


あたしは友達があまり居ないから凄く羨ましい、なんて思っていたりする。


こんな事をたまにえみりに話すんだけど、そうすると「友達は数より質ですよ」なんて言われるからそれだけで凄く救われてて。


こんな友人、もとい親友が近くにいて本当に良かった、なんて思っていた。


そして明日から2学年がスタートする。不安と期待でぐちゃぐちゃになっていた。


窓の外、桜並木を見ながら考える。


「アイドルのグループはどうなるのかな……」


同時に4月からうちの事務所で新しくアイドルグループが結成されるらしい。それであたしがセンターを頼まれた。


グループ名は『カラーパレット』


中3の時に事務所に入った。それ以来ずっと下積みを続けてきてようやくグループ結成。


センターを任されたときは不安の方が大きかった。だけど絶対にものにする、と決意してセンターになった。


「グループのセンターで輝いて、彼氏をつくる!」


そう決めたから。絶対に掴み取る。


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