─3─ え、これを祀ってんの?

『一生に逃げられた!!』

 スピーカーなわけでもないのに俺のほうにまで聞こえてきた。

「うるっさ!落ち着け!お前どこ?」

『学校出たとこー!一緒に帰ろうとしたら断られてぇ、隠れてついていこうとしたらいなくなったぁ。』

「めそめそすんなよ!とりあえずお前も裏山来い!」

『わかったあ』

 ブチッと電話を切る。

「…逃げられたってよ。」

「聞こえてたよ。取り敢えず俺らは祠に急ごう。」

「ああ。」


 しばらく歩いて祠についたとき、祠には祭壇に果物などがあった。

「俺ら吞気に歩いてる暇じゃなかったな。」

 視線を上げると、白いローブを被った一生がいた。

「やっぱ、神社から直通の近道とかあるのかね、一生くん。林くん寂しそうだったよ?」

「え、お前ら、何でここに。」

「説明は後だ。このマネキンとすり替わってくれ!」

 当たり前に一生は驚いた顔をしている。

「マネキンなんて、そんなんですり替えれるわけないだろう!お前らは、なにもみなかったことにして帰れ!!」

 途端に一生は叫ぶ。そこで、恐らく走ってきたであろう林が、山道から来た。

「え?どういう状況?」

「林も、何で来てしまったんだ…。早く、早くしないと…!」

 その時、ガダーン!と、町一体に広がるような音が響いた。雨も降っていないのに、大きな雷が鳴った。

「やばい…!」

 一生が呟いた途端、空が暗闇に覆われ歪み出した。その歪みから、生きていて、本でも見たこともない生き物が降りてきた。体はゾウのような、けれど頭は潰れ、タコのような、太い触手が何本も生えた、何とも形容し難い生き物だ。それを見ていると何故だか段々と気分が悪くなってきた。

「はは、現代版の鵺か…?龍の要素も犬の要素もないじゃん。」

 和巳が現実逃避気味に呟く。

「そんな事言ってる場合か!見つかる前に逃げろ!」

「あ?…ああ、一生が一緒に来てくれるならな。」

 挑発的に和巳は言う。

「はあ?お前は何を!」

「龍犬様だろ?」

 あれがそうなのか。思ったよりでかいな。

「まさか、お前ら昨日質問とか!!」

「よーし、お前らあれどうする?」

 何とも綺麗なスルーだ。

「和巳なんかないのか?」

「なんかってなんだよ。俺もあんなでかいと思ってなかったから持ってきたもん全部使える気がせん!!」

「計算が甘いな。」

「…お前らほんとに立ち向かう気か?」

 俺らを帰すことは諦めたらしい。こいつも存外寂しがり屋だからな。

「まあ、お前も最期の思い出が補習ってのも嫌だろ?それに、俺らも仲間の欠けた生活に面白味を感じなさそうだからな。」

「?」

 そりゃあ一生にはわからないだろう。とは言え本当にあれに立ち向かう術がない。他の生贄…あるわけない。どうすれば…。


「あっ!和巳!!」

「「!!」」

「千年後?何言ってんだ?」

 この場でそれを理解出来ないのは一生だけだろう。なぜなら、俺たちだけはそれを体験した事があるからだ。

「なるほどな、林の割には賢い!」

「喧しい!」

 そして、また和巳がどこからか見覚えのある鉄の塊を取り出した。そう、俺たちが使ったタイムマシンだ。

「なんだそれ?」

「一生!!説明は後だ!これをあいつにぶつけるんだ!」

「さっきから全部説明が後回しなんだが⁉」

「お前を生贄に出さないためだ!!」

「はあ、後で全部話せよ!」

「よし!じゃあ作戦会議だ!」


 話し合った結果、一生が生贄のふりをして、龍犬様が近づいたとき、それを投げる。一応俺たちは祭壇の裏に隠れる事にした。


 そして、龍犬様が地面に着いた。タイムマシンが届く距離だ。

 

 一生が龍犬様に向けタイムマシンを投げた。


「あっ!ボタンの説明してない!」

 突然衝撃的な言葉が和巳の口からこぼれた。それと同時に、タイムマシンが龍犬様にぶつかり、跳ね返った。

 やばいやばいやばい。そういえば一生は球技が苦手だ。必然的にボールを投げるのが下手だ。

「グダグダすぎ!!」

 そこですぐに反応できるのは林だ。すぐに走ってタイムマシンを拾いにいく。

「3秒だ!ボタンを押してから3秒後にとんでいく!」

 和巳もハッとして叫ぶ。そこで、耳をつんざくような呻き声が聞こえる。

 こんなにわちゃわちゃとしていれば龍犬様の気にも障るだろう。

「二人は一生を!」

 それを聞いて、咄嗟に一生を祭壇から引きずり落とす。

「ってぇ!!」

「ごめん!取り敢えず走れ!」

 そして、一生がいた場所は、龍犬様が踏みつぶしていた。

「林早く!!」

「わかってる!!よし!」

 やっとタイムマシンに届いたようだ。そして、龍犬様に気づかれないように足元へ行き、ボタンを押してから龍犬様に触れるように置いた。そして、一斉にみんなで離れる。

 早く、速く!


 3秒が長く感じた。


 ずっと聞こえていた声が途端に聞こえなくなった。

 …これで終わったのだ。

 つい、一生のいるほうへ視線を向けた。


 そこには、何が何だかわからないような阿呆面を晒す、一生の姿があった。


 それから、三人で一生へ抱きつきに行った。その存在がしっかりといることを嚙み締めながら。


 俺たちは、また同じ一年を過ごすことになった。正確には、一生がいるのだから同じではないか。新しい一年をやり直すのだ。四人全員がいる一年を。

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夏と遡行譚 @meoooon_1125

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