第45話_人事を尽くして天命を待つ
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045_人事を尽くして天命を待つ
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総勢30人の台湾研修生を引率してダンジョンに入った。
通常は数人のグループごとに引率するが、台湾に出現したダンジョンでレベルを上げた経験がある人たちばかりだから戦闘ではなく採掘メインだから全員で行動する。
俺の他に自衛隊の一個分隊が同行して、くれている。
岐阜支部がレンタル用に用意しているトラック四台に分乗して、ダンジョンの中を進む。
採掘ポイントは深いエリアのほうが多くなるから、一気に走り抜けてエリアボスを倒して進む。
ダンジョンに入って2日目に第3エリアのボスを倒して第4エリアに入った。
研修生は全員戦い慣れている。ほとんどが軍人なのかもしれない。
「採掘ポイントを発見しました!」
「よし、採掘だ。キビキビ動けよ!」
「「「はい!」」」
掘削機などもあるけど、ここはツルハシで掘る。機械を使用するには研修が必要になるからさ、そういったことに時間をかけずに手で掘ってもらう。
気合入れて掘ってもらうと、銅を30キロほど採掘した。
岐阜ダンジョン内では、色々な鉱物が採掘できる。今回は銅だったが、運が良ければ金も採掘できる。そしてエリアが深くなると、高価な金属が採掘しやすくなり採掘量も増える。
彼らは研修生だから今回が最初で最後の岐阜ダンジョンだが、台湾でも鉱物を生み出すダンジョンができるかもしれない。その時は機械を使って大量に採掘してくれ。
4日目にダンジョンを出て、金曜日は研修を終えた終業式を行った。
これで肩の荷が下りた俺だったが、総理から呼び出しがあった。そんなにちょいちょい呼び出さないでほしい。
「先ずは台湾からの研修生の研修が無事に終わり、ありがとうございます」
「いえ、最後の仕事ですから」
JDSOがダンジョン管理省に完全移行すると、俺の理事という立場も終わる。そしてあと1カ月もせずに、JDSOは完全にその機能をダンジョン管理省に移管する。
「その件なんですが、世渡さんの言うように拒否権を持った局長クラスとしてダンジョン管理省を率いていってほしいと思います」
……は?
おいおい、マジか。第三セクターじゃないんだぞ。正式な政府の省なのに、拒否権を持った局長とかおかしいでしょ。
「ダンジョン管理省は内閣総理大臣が大臣を兼務します。つまりトップは私ですね。世渡さんは大臣直轄の査定局の長になっていただきます」
「査定局……ですか?」
「簡単に言いますと、ダンジョン管理省の予算案などを査定して、大臣に上げる部署です」
つまり俺がNOと言ったら、全て差し戻されるってことかよ。こう来るか~。総理も必死だな……。
でもさ、大臣の決定でも覆せるの?
「査定局が予算を通さないと、大臣でも何もできませんから」
そうくるか~。それ、ご自身の行動を制限するものですよ。本当にいいの? それに……。
「高台寺さんらが納得しないのでは?」
「納得しなければ、ダンジョン管理省で要職に就けないだけです」
うわー。強気だね、総理!
いくら出身省庁に籍があるからと言って、高台寺さんらは一度外に出た人だもんね。もしかしたら元の省庁に戻っても席はないかもしれない。それを考えれば、総理の提案を受け入れてダンジョン管理省で幹部になろうと思うかもしれないな。
しかしここまで言われたら、さすがに断れないぞ。総理は俺の要望を聞き入れたのだから、これで断るわけにはいかなくなった。
総理の作った沼にずっぽり嵌っていく気がする……。
「俺は岐阜を離れるつもりはないですよ」
「今どきは電子決裁とリモートでほとんどできますから!」
一番電子化が進んでいないのが、国なのによく言うよ。
この国は電子化を進めると言いながら、民間しか電子化が進んでいないんだよね。
「分かりました。そのお話、お引き受けします」
「そうですか! ありがとうございます」
総理が頭を下げ、数秒後ソロソロと顔を上げる。
「ついでに人材育成局のほうもお願いしますね」
おいおい、沼が底なし沼にランクアップしたぞ。
「さすがに無理ですよ」
「岐阜支部を副支部長の大槻さんに任せ、ダンジョン管理省に専念しませんか?」
「先ほども言いましたが、俺は岐阜を離れる気はないです」
「先ほども言いましたが、リモートでやって頂いて結構です」
「いや、いくらなんでも2つの局長を兼務なんて無理でしょ」
「私など総理とダンジョン管理省の大臣、他にも色々兼務してますよ。世渡さんならできますよ」
比較対象が総理とか、おかしいだろ。
「いやですね~、総理が忙しいのは当然じゃないですか。いち民間人の俺と比べないでくださいよ~」
「いやいや。こんな老人でもなんとかなっているのですから、世渡さんならちょちょいのちょいですよ」
あー言えばこう言う……。総理になるほどの人だから、口では勝てないよなー。
「はぁ……」
「そんな大きなため息を吐かないでくださいよ」
誰のせいだよ。
「……各省庁で窓際に追いやられたできる人をください」
「窓際なのにできる人ですか?」
「上司が無能でできる人材を生かせていないとか、誰かの尻ぬぐいのために窓際に飛ばされた人とかいますよね?」
「……いると思いますね」
その微妙な顔は、いくつか心当たりがあるんですよね?
「そういった有能なのに、窓際にいる人たちをください」
「それで査定局と人材育成局の局長を引き受けてくださるのですね?」
「断ってもしつこいのでしょ?」
「しつこいのが、私の持ち味ですから」
本当にしつこいよ。
「でしたら、最高の人材を揃えてください。それで引き受けます」
「承知しました。最高の局員たちを用意しましょう!」
「あと、本当に岐阜を離れませんからね。それにしつこいようですが、本当に俺の好きにやりますよ」
「はい。それで結構です。よろしくお願いします」
人事を尽くして天命を待った総理の勝ちだ。今回は負けておいてあげますよ。
しかし面倒なことになったな。
でも引き受けたからには、給料分は働かないとな。
「ああ、そうだ。隠岐の島沖に現れたダンジョンのことですが、本日外務省を通じて、正式に韓国の所有を認めると通達します。アメリカや国連にもそう通達します」
「今……所有と言いましたが、領土として認めるというのではないのですか?」
「ダンジョンを自然の陸地と定義するには、議論が尽くされていません。よって、あのダンジョンの所有を認めるという表現にとどまります」
それでも韓国にダンジョンを押しつけられるなら、それでいいかな。
あんな面倒なところにあるダンジョンなんて要らないよ。もっともどういった資源があるか分からないから、政治的な判断をするのは早急かもしれない。それを総理は判断して、ダンジョンボンバーが起きないように配慮したのだろう。
領土がどうの領海がどうのと言う人もいると思うが、そういった人たちは人命以上に大事なものはないことを理解してないようだ。
ダンジョンボンバーが起きたら、それでどれだけの人の命が失われることか。隠岐の島だって、破壊しつくされるかもしれないのだ。あの辺りで漁をする人たちだって、モンスターがうろつく海になったら漁ができなくなるのだ。
それなら領土ではなく所有を認めてダンジョンボンバーが起きないようにした総理の判断は、政治家としてとても優秀だと思う。決められない政治家が多い中、総理はよくやっていると俺は思う。
もちろん韓国がダンジョンボンバーを起こさない保証はない。
しかし日本がダンジョンボンバーを起こさないために引いたことを明言することで、韓国は国の威信をかけてダンジョンボンバーを起こさないようにするだろう。もし起こしてしまったら、日本は韓国を責める口実ができるのだ。外交的にそれは絶対にできないはず。
その日の夕方、総理が記者会見で【ダンジョンの所有を巡って議論している間にダンジョンボンバーが起きては隠岐の島が危険だと判断した】と記者会見した。
ダンジョンボンバーが起きた際は【全て韓国政府の責任であり、日本に被害があった場合は軍事的な行動も辞さない】と強い口調だった。
つまり、韓国がダンジョンボンバーを起こし、日本に被害が少しでもあったら【軍事侵攻された】と判断するというものだ。俺が考えていたものより、政府はかなり厳しい対応を明言した。
韓国はこれでダンジョンボンバーを絶対に起こせなくなった。それで日本に被害があった場合、日本に軍事侵攻の理由を与えることになるからだ。
総理は【ダンジョンボンバーによって日本に被害があった場合、それを軍事侵攻と定義する】と自国防衛法を速やかに整備した。
これには野党が猛反発したが、ダンジョンボンバーは管理できるもので、それを起こして日本に被害を与えた国を放置することはないと強い口調で語っていた。
日本は防衛に専念する国だが、攻撃されたら攻撃仕返す自衛権を持っていることになっている。だから攻撃されたと定義されることがあれば、攻めていいわけだ。あくまでも法解釈次第だが。
総理も戦争がしたいわけではなく、このように強いメッセージを送ることでダンジョンボンバーを絶対に起こすなと言っているのだ。
韓国は日本を非難したが、日本政府はダンジョン島の管理を日本がしてもいいんだよ? と言い返したらしい。正論だ。
まあ、ダンジョン島について日本は譲歩したのだから、韓国が責任をもってダンジョン島を管理するのは当然だろう。
それでダンジョンボンバーを起こしたら、本気でバカかと言いたい。
すぐ目の前に隠岐の島があるから、韓国は日本に配慮して軍を駐留しずらい。軍を展開したら、日本も隠岐の島に自衛隊を配備しなければいけなくなる。
総理は韓国に譲歩しておきながら、外交的、軍事的圧力をかけている。さすがというか、嫌がらせというか……。
さて、韓国はどうやってダンジョンボンバーを抑えるか、その手腕を見せてもらおうか。
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