第39話_銀座のクラブ
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039_銀座のクラブ
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同窓会が終わって店の外に出ると、火照った体に夜風が心地よい。
「ジョージ、次行くぞ、次」
「お前、婚約者はいいのかよ」
「ばーか。独身の今の内じゃないと飲み歩けないだろ」
ごもっとも。
「いいとこ知ってるから、そこに行くぞ!」
コージに無理やり引っ張られていく。
でき上っているコージに何を言っても通じない。久しぶりに会ったことだし、付き合ってやるか。
電車に乗って東京へ。遠いな、おい。
「ここだ、ここ」
銀座のクラブじゃねぇか!
以前はゼネコンで働いていたから、何度かここら辺のクラブで接待したことがある。銀座のクラブで接待するような上客は、上司が全部もって行くから滅多になかったけど。
綺麗なお姉さんたちに囲まれて、コージは鼻の下を伸ばしている。
「あははは。フルーツ盛り持ってきてー!」
コージの奴、ノリノリだな。本当に独身最後の遊びって感じだ。
でも、フルーツ盛りなんて高いから、頼むなよ。
「ドン―――」
ドンペリを頼もうとしたコージの口を押える。銀座を舐めんな。
「仕立ての良いスーツですね」
横についたホステスが俺のスーツに目を止めた。
「これ、オーダーメイドですよね。どこで作ったのですか?」
「よくオーダーメイドだって分かるね」
「私の父はテーラーをしているから、スーツには詳しいんですよ」
「なるほど」
彼女はミチカさんと言うのだが、胸元がV字に大きく開いている白いドレスを着て、明るい茶色の髪をクルクル巻いている。どうしても胸元に視線がいってしまう。
スーツの話で盛り上がって、あっという間に2時間が過ぎた。彼女はホステスだけあって、話し上手で色々話し込んでしまった。
「ん、お前、世渡か?」
名前を呼ばれてそちらを見ると、嫌な顔があった。この人、今日も会社の金で酒を飲みにきたのか。
「久しぶりだな、世渡」
「ええ、久しぶりですね。後藤さん」
「お前、ここがどこか知ってるのか? 会社をクビになったお前が来れるような店じゃないぞ」
相変わらず厭味な人だ。そもそも俺はクビじゃなく自主退職だっつーの。それもあんたのミスを被って半ば無理やりのな。
「なにこのオッサン。馴れ馴れしいな」
「コージは黙っていろ」
「へいへい」
腰を浮かしかけたコージを座らせる。
「ふん。お前の連れか。ガラが悪いな。この店にはそぐわないんじゃないか」
この野郎、俺のことなら我慢するが、コージまで悪く言いやがって。
「後藤さん。どうかしたのですか?」
別の席に座っていた男が後藤のことを呼んだ。どこかで見たことのある顔だ。
今日はこのパターンが多いな。どこで見たんだったかな?
「ん、もしかして世渡さんですか?」
その男性も俺の名前を知っていた。
後藤が接待するような相手だと、国交省関係か? それとも……あ、思い出した! 名前は知らないが、この人はJDSOの職員だ。このパターンは2回目だな。
「あなたは九条さんのところの」
「はい。宇津木と申します」
そうそう、宇津木さんだ。一度だけ見たことがある。理事会の資料を配っていたよね。
「う、宇津木さんはこい……世渡と知り合いですか?」
「恐れ多いですよ。世渡さんはJDSOの理事ですから」
「へ?」
後藤が鳩が豆鉄砲を食ったような表情だ。
どうやら後藤は新しいダンジョン管理省の建屋の件で情報を取ろうとして宇津木さんを接待していたようだ。
「宇津木さん、今の時期に建設会社の人とこういう店に入るのはいただけませんよ」
「申しわけありません。どうしてもと誘われてしまい……」
バツの悪そうな表情だ。まあ、俺も接待で色々仕事を取った経緯があるから強く言えないんだけど。
「今日のことは俺の胸に納めておきますから、今後は気をつけてくださいね」
「承知しました」
宇津木さんは俺に軽く頭を下げて、後藤に今日は帰ると言って店を出て行った。
「それじゃあ、俺は友達と楽しく飲んでいるので」
口をパクパクさせた後藤を無視してソファーに座り直す。
「丈二さんてお偉い様だったの?」
「俺がそんなお偉い様に見える?」
「みえなーい」
「ははは。そそ、俺はただの農夫さ」
ミチカと楽しくお話。後藤はいつの間にか居なくなっていた。
「今のウマシカ建設の奴だろ? ぶっ飛ばしてやれば良かったのに」
「物騒なことを言うなよ、コージ」
「お前にはその権利があると思うぞ」
そうかもな。だから違ったことで仕返しはするつもりだ。
「キララちゃん、まったねー」
ベロンベロンに酔ったコージの体を支えて、クラブを出る。こいつ、結局ドンペリを頼みやがった。結婚祝いに全部俺が支払ったけど、今度は割り勘だからな。
「ジョージさん。また来てくださいね」
「気が向いたらね」
「もう、絶対に来てくださいね」
コージを抱えている逆側の腕に、あざとく胸を押しつけて来る。さすがは百戦錬磨のホステスさんだ。この強力な一撃でコロッといく男は多いんだろうな。
キララとミチカに手を振って分かれる。さすがに銀座のクラブだ。席代だけでもバカにならない上に2人を指名し、フルーツ盛りとドンペリ2本を飲んで2時間で、ん十万。コージの野郎、ドンペリを2本も頼みやがったんだ。ぶっ飛ばしてやろうかと思ったぞ。
▽▽▽ Side ミチカ ▽▽▽
「珍しいじゃない。ミチカちゃんがご執心だなんて」
ママがこそっと耳打ちしてきた。
当たり前じゃない。あんな上客滅多にいないわ。
ジョージさんはダンジョンを管理するJDSOの理事なんだもの。お酒を取りに行くフリして奥へ入ってちゃんと検索したから間違いないわ。
「スーツを見ていたようだけど、そんなに良いものだったの?」
あのスーツは生地だけでも数十万はする最高級のもの。それに縫製も丁寧にされていたから、きっと100万は下らないはずよ。そんなことも知らずに銀座のクラブのママをよくしてるわね。
しかしさすがはJDSOの理事様よね。
「たしかに現金は持っていたわね。財布の中に札の束があったわ。厚くて財布がしっかり締まらないほどだったわね。もっとも、それもほとんど巻き上げてあげたけど。うふふふ」
札束に目が行きがちだけど、彼の財布の中はそれだけじゃない。カードよ、カード。彼の財布の中にはピンクゴールドカードが入っていたのよ!
シルバー、ゴールド、プラチナ、ブラックの上のピンクゴールドよ! あのカード1枚でクルーザーでもジェット機でもミサイルでも、なんでも買えるという幻のカードがあったのよ!
最初は見栄を張って偽物を入れていると思ったわ。いくらJDSOの理事でも、あの若さでピンクゴールドカードを持っているなんて考えられなかったもの。でも私の目は誤魔化せない! あれは本物よ。間違いなく彼はスーパー億万長者よ! そこら辺の億万長者なんて目じゃないんだから。
権力があってお金持ち。これ以上の優良物件なんて滅多に会えるものじゃないわ。
「将来有望な人を常連にできたらいいですよね。うふふふ」
ママにはぼやかして答えておいた。ママにピンクゴールドカードのことを言うと取られちゃうから。私の常連になってから、皆に自慢するんだから。
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