第36話_JDSOの会合に出てみた

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 036_JDSOの会合に出てみた

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 東京の日本ダンジョン抑制機構(JDSO)のビルで行われる理事の会合。俗に理事会と言われるものだが、これに出た。

 いつもは大槻さんに出てもらっているから、本当に久しぶりの会合だ。


 最初の議題は言うまでもなくダンジョン管理省の立ち上げである。

 高台寺理事長が事務次官に内定、その他の理事も局長以上のポストが用意されている。JDSOの理事がそのままダンジョン管理省の幹部としてスライドすることになる。俺以外は。


「そこでこのビルでは手狭になりますので、新しいビルを建てることになりました」

 このビルが手狭になるのか? よく分からないから口を出さない。税金の無駄遣いかもしれないけど、それで市井にお金を落とす意味合いもあるからな。


 国が所有している古いビルがあるから、それを解体して新しくビルを建てるそうだ。

 前職ではこういった公共工事のコンペに参加したことがあるけど、今回も設計者の選定を行うらしい。国交省出身の十九条理事が活き活きして専門用語を語っていた。俺は理解できるけど、他の理事は難しい顔をしていたよ。


 ダンジョン管理省のビルについては、これから詰められて最終的にはこの理事会で承認され、総理の決裁をもらう運びになる。

 担当理事は言うまでもなく、十九条理事だ。


「さて、次の議題は中国のダンジョンボンバー関連です」

 中国のダンジョンボンバーは沈静化したかに見えた。核まで使っているんだから、誰もがそう思っただろう。


「すでにご存じかと思いますが、モンスターの幼体がおよそ500体確認されました」

 総理と話したことは中国に伝わっているはずなんだが、中国は種を放置した。種を放置しても生まれた幼体を早急に殲滅すれば問題は大きくならなかったが、これも放置したんだよ。正確には幼体を放置せざるを得なかったのだ。


 モンスターを核攻撃して倒した直後に、中国軍は呉共和国と蜀国に軍を進めた。両国に軍事侵攻したことで、激しい戦いが起こっているらしい。

 両国と激戦を繰り広げているところに、モンスターの幼体が現れたからさあ大変。中国軍はモンスターに十分な戦力を向けることができずに、北京までモンスターが入り込んでしまった。


「中国軍は両国と睨み合っており、引くに引けない状況とのことです」

 そう報告するのは防衛省から出向している徳大寺理事だ。


 モンスターの進行ルート上にあった天津市は、ダンジョンボンバーによって経済的にも物理的にも大きなダメージを受けた。

 天津市にある貿易港は原発の炉心溶融メルトダウンによって使えなくなり、モンスターの進行があって都市機能を失った。そこに核兵器による攻撃だ。

 天津市は泣きっ面に蜂で、核を使ったことで当面どころか数十年は復興できないんじゃないか?


 北京市も天津市同様、物理的に大きな被害が出ている。

 政治の中心である北京がこの状況では、混乱は相当なものだろう。

 本来であればダンジョンボンバーが発生した山東省から遠い場所に政治の中心を動かすところだが、呉共和国と蜀国が独立宣言したことで他の土地が信用できなくなっていて国家主席などの首脳陣はどこに居るか分からないらしい。

 おかげで外交もままならないのだとか。


「中国の状況はかなり混沌としていて、呉共和国と蜀国以外にも、各自治区のでも独立の機運が高まっているそうです」

 中国は広いことから、民族も色々と存在する。特に抑圧が酷いと思われている。新疆ウイグル自治区とチベット自治区は独立機運が非常に高いらしい。


「次は───」

 会議は2時間ほどで終わった。


 俺は自室に戻ろうと会議室を出ようとするが、高台寺理事長に呼び止められた。

 何かと思ったら、この後総理が面会したいと言っているらしい。

「なぜ高台寺理事長に?」

 まさか総理の愛人!?


「世渡理事の携帯に繋がらないと仰っていました」

 会議中だからスマホの電源を消していたのだ。

 まあ、愛人はないよな。失礼なことを言わせてもらうなら、もっと若くて体重の軽そうな女性を愛人にするだろう。高台寺理事長は50歳を過ぎているし、体重は俺よりも重そうだから……。いや、体重は関係ないか。総理の趣味嗜好は俺の知るものではないから。


「お手数をおかけしました。これから向かいます」

「よろしくお願いします」

 会議では他の理事たちが俺たちの会話を聞いていた。聞き耳を立てているのがよく分かる。

 総理が俺と既知の間柄なのは、皆さん知ってますよね。このJDSOの理事になったのも総理の頼みなんですから。


 会議室を出て自室に入る。そうだ、あの涼宮杏佳さんに何を贈ろうか? 女性にプレゼントを贈るのは、かれこれ……それはどうでもいいか。

 食べ物は変なものが入ってないか怖がられそうだし、服や靴など身につけるものはサイズが分からない。

 やっぱりここは無難に花か。バラの花は重いか? 何かよい花は……店員に聞けばいいか。


 自室でタクシーを呼んでおく。俺が住んでいる岐阜ダンジョン付近では無理だけど、東京ならスマホのアプリですぐにタクシーが呼べる。

 5分程でタクシーが来て、エレベーターを降りてエントランスから出る。もちろん身分証をゲートに通したよ。


「近くに花屋はないですかね」

 近くの花屋に向かってもらった。


「ちょっと待っていてください」

 タクシーを待たせて花屋に入ると色とりどりの花があり、目を楽しませてくれる。

 やっぱり俺には花のことは分からない。何がよいか店員に聞こう。


「どういったものをお探しですか?」

 聞こうと思ったら、店員さんのほうから声をかけてくれた。


「あの、女性に贈る花を……あまり派手じゃないものを」

「それでしたらピンクデンファレのアレンジメントフラワーなんていかがですか?」

 アレンジメントフラワーが何か分からなかった俺が困っていると、店員さんが実物を見せてくれた。


 ピンクデンファレというのは鮮やかな紫色の可愛らしい花だ。それとピンクの花と一緒に籠に盛られている感じのものがアレンジメントフラワーだとか。

「可愛らしい花ですね。それにします。届けてもらっていいですか?」

「はい。こちらへ」

 届け先はJDSOが入っているビルで、部署と涼宮さんの名前を書く。


「メッセージはいかがしますか?」

「メッセージ……」

 メッセージカードを添えておくものだと店員さんが言うので、一言「ありがとうございました」とだけ書いておいた。


 店員さんによろしく頼み、タクシーに乗り込んだ。

「首相官邸へお願いします」

「はい」


 首相官邸の門を普通に通るのは今回が初めてだな。最初は自衛隊の車両で乗りつけたから外は見えなかった。2回目以降は転移で直接入っているから、門を通るのは新鮮だ。


 タクシーの運転手さんに運賃を支払う。

「お釣りは取っておいてください」

「これは、ありがとうございます」

 タクシーを降りると、いつも案内をしてくれる大内さんが待っていた。相変わらず目つきは鋭いが、以前のような剣呑さはない。


「お待ちしていました」

「お久しぶりですね、大内さん」

 ビジネススーツに身を纏った大内さんと軽く挨拶を交わし、ついて行く。


 最近は福島の除染作業も進んでいると聞く。彼女の故郷が元のように人が住める場所になるのも近いだろう。


 いつもの会議室に通されると、すでに総理以下主だった人が揃っていた。

 いったい何の話なのか。と聞くまでもないか。この時期だと中国の話か、エネルギーコアのことだと思う。


「毎回お呼び立てしてしまい、申しわけないですね」

 本当にそう思ってる? じゃあ、呼ばないでよ。


「本日お呼びしたのは、台湾のことです」

 前回の時、中国の艦艇が接近していたよね。戦争になったとか聞かないから、威嚇だけだと思っていたんだけど?


「実を言いますと、台湾にもダンジョンが発生したそうなんです」

 聞けば、今まで台湾にはダンジョンがなかったそうだ。小さな国だとダンジョンがない場合もある。台湾を国と区別するかは別の話。


「台湾のダンジョンが発生したのは分かりましたが、それが何か?」

 ダンジョンはどこにでも発生する。今も地球のどこかで増え続けているが、どこに現れるかは俺も知らない。


「台湾の総督府から正式にオファーがあったのですが、日本の日本ダンジョン抑制機構とダンジョン管理組合を参考にさせてほしいとのことなのです」

 ダンジョンを管理するための組織をいち早く立ち上げた日本を参考にするのは悪い話ではない。でもなぜ俺に話をする? それこそ高台寺理事長でいいじゃないか。わざわざ高台寺理事長に電話を取り次がせる必要、絶対ないと思うよ。


「そこで台湾の代表団を日本で受け入れ、研修させてほしいとのことなのです」

 そう言えば、研修担当は俺だった。でも、それは日本人相手の話だし、今もその設定は有効なの?


「高台寺理事長たちと相談して返事をさせていただきます」

 俺の独断で返事なんかしないからね。


「それなら問題ありません。他の理事たちは世渡さんが良ければ受け入れて問題ないそうです」

 すでに根回し終わっていた!


 

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