第35話_JDSOの会合に出ろと言われた
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035_JDSOの会合に出ろと言われた
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中国軍による台湾有事は、米軍を牽制する程度だった。中国本土で起きていることを考えると、これ以上中国に干渉するなというメッセージだと思われている。
中国本土のほうだが、北京に迫っていた植物型のモンスターは核兵器で殲滅された。1発じゃなく数発喰らわせたらしい。原発の
今回のモンスターはEランクだったから1発でも倒せたと思うが、中国軍はそのことを知らないから徹底的にやったらしい。
しかし自国の領土で核を使うかよ、普通? 苦渋の決断だったと思うが、民間人の避難とか大丈夫なのかな。
さて、磯山のレベルが70になった。50でレベル上げを終えようと思ったが、他にも良いスキルが取得可能になったから、レベル70まで上げた。
「ほれ、ミスリルだ」
「こ、これがミスリル……(ゴクリッ)」
国が買い上げたミスリルのインゴットを使って、磯山が武器を造る。
うちが国に売る時の価格交渉はJDSOがしたから俺は関知していない。また、いくらになっても俺の懐に入って来るものではない。
今のところ、スキル・武器錬成を所持している磯山だけがミスリルを加工できる。
ミスリルのインゴットは東京に行くことなく、岐阜支部内を巡って磯山の手に渡った。
「政府のオーダーは、射撃武器だ。ライフルがいいらしい」
拘る必要はないのに、ミスリルライフルをオーダーして来た。
「先に鉄でイメージを固めてから、ミスリルを使ってくれ」
「はい。やってみます」
いきなりミスリルを使って失敗したら目も当てられない。
失敗した武器のミスリルでスキル・武器錬成はできないのだ。これは鉄でも同じだ。
失敗した武器をインゴットにすれば、またスキル・武器錬成が使える。
ただしミスリルを溶かすのはかなり特殊な炉が必要になる。現在、政府は製鉄会社と協議してミスリル用の超高炉を造ろうとしている。
最近の磯山は各支部から武器のオーダーが来ている。
武器の材料は鋼だが、磯山はスキル・属性付与を取得して武器に属性を付与している。
火属性を付与したフレイムソードは、切った時に火ダメージの追加効果を与える。
水属性を付与したウォーターランスは、槍の先から高圧の水を放出して対象を穿つ。
風属性を付与した斬鉄剣は、とにかく切れ味のよい刀だ。
土属性を付与したメガトンハンマーは、振り下ろすと重量が3倍になって大ダメージを与える。
こういった武器が全体的に人気だが、中にはネタ武器もある。
光属性を付与したライトセイバーは、剣が光る。攻撃時に追加効果があるわけではなく、ただ光るだけの剣だ。
暗闇を照らすにはいいが、武器としては普通の剣と何も変わらないんだよ、あれは。
そうそうこのライトセイバーだが、思わぬところで活躍している。
奥多摩ダンジョンと沖縄ダンジョンでは、このライトセイバーが聖剣と呼ばれているのだとか。
この2つのダンジョンに共通するのは、出て来るモンスターがアンデットということだ。アンデッドは光属性に弱く、ネタ武器のライトセイバーが役に立っているというわけである。
外国でもアンデットが出るダンジョンはあるらしいが、ライトセイバーは武器だから輸出はされていない。政府に何度かオファーがあったようだが、今のところゼロ回答で表向きは通している。
まぁ、どんなことにでも裏はあるよね。
余談はさておき、今回は黒アイテムボールからたまたまミスリルインゴットが出たが、アイテムボールからミスリルが出ることは超稀なことだ。
基本的には鉱山よろしく、ダンジョン内で採掘するものだ。ミスリルが採掘できるのは第10エリア以降だから、しばらくは採掘できない。
ミスリルを採掘できるまでに、まだ時間がかかる。政府はその前に超高炉を造ろうと考えているようだ。
捕らぬ狸の皮算用にならなければいいんだが……。
最近、チャタとフウの
顔の皮膚がこそげるかと思うような強烈なものになっている。
「お前たちなぁ……」
ベタベタになった顔を寝巻の袖で拭き、2匹を連れて1階へ下りる。
今日は東京でダンジョン管理省について、色々話し合いがある。俺も呼ばれたから、顔を出さないといけない。大槻さんじゃなくて、俺が直接来いと言われている。
2匹のごはんをあげ、俺も朝食を摂る。
着替えたら磯山の工房に2匹を預けて、俺は東京に転移する。2匹が磯山によく懐いているし、磯山の工房の番犬として丁度いい。
最近は2匹をあまり構ってあげてないな。それで朝の目覚ましが激しくなったのだろうか……? このままでは俺の顔の皮が全部剥されそうだから、近いうちに2匹と遊ぶ時間を作ろう。
今回は首相官邸でなく、JDSOが入っているビルの中に直接転移した。俺に当てがわれている部屋だから、誰も居ない。
身分証をゲートにかざして入門記録をつけなければいけないため、非常階段から外に出て正面玄関から入り直す。なんとも間抜けなことをしていると、ため息が出る。
ゲートを通ってエレベーターの前にできている列に並ぶ。一番前に見覚えのある後ろ姿があるな。たしか理事の1人だったはずだが、名前は思い出せない。
他の10人くらいはその理事と少し距離を取って並んでいる。
エレベーターが来たから皆が入っていく。
理事が一番奥へ入ってこっちに向き直った。顔を見たら名前を思い出した。たしか国土交通省出身の官僚だ。名前は
エレベーターは1回では乗り切れないから、俺は次の回で乗ることになった。
その時、十九条さんと目が合った。
「世渡さんじゃないですか。久しぶりですね」
「はい。お久しぶりです。十九条さん」
全員の視線が俺に集中して「こいつ誰だよ?」という目をしている。
「乗ったらどうだね」
「満員ですから、次ので行きます」
「ああ、そうか。そうだね……」
これが無言の威圧と言うやつか。俺に威圧を向けているわけではない。
エレベーターの入り口に一番近い20代のボブカットの女性に、十九条理事は降りろと威圧を向けている。そういうの止めてほしい。
その威圧に耐えられず、ボブカットの女性がエレベーターからおずおずと出て来た。かなり可愛い顔をしている。
「あの、どうぞ……」
「いや、俺は大丈夫ですから」
「せっかく気を利かせてくれたんだ。乗ったらいいじゃないか、世渡理事」
理事と聞いた全員が「えっ」という驚いた顔をして、俺の顔と身分証を交互に見た。マジで止めて……。
「す、すみません……」
この雰囲気の中じゃ、俺が断ってもこの人はエレベーターに再度乗り込むことはできないだろう。
身分証で彼女の名前───
気まずい雰囲気でエレベーターが上がっていく。くそ、十九条め。これでは俺が悪者じゃないか。
最初の会合の時に俺に「できないと言うな」と言われたことを根に持っているんじゃないだろうな。
いや、官僚ならこういった忖度をするものなのかもしれない。上司や上位の立場の者を立てるのが官僚だと思っておこう。俺は上司でも上位の立場……ではないと思うが。
十九条理事と同じフロアで降りて、無言で廊下を歩く。十九条理事の部屋の前で「それじゃあ」と言われ「後ほど」と返して別れる。
俺の部屋は非常口に一番近い場所にあり、エレベーターから一番遠い。その部屋に入ってソファーに沈み込む。なんでこんなに疲れなきゃいけないのか。
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