第34話_JDSOの件

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 034_JDSOの件

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 岐阜支部所属のダンジョンハンターとして最前線を行く【チーム・V5ビクトリーファイブ】というパーティーが存在する。

 城島滋じょうじましげ(34)を筆頭リーダーに、国文太こくぶふとし(33)、松島昌まつしままさ(32)、小岡啓こおかけい(32)、長池智也ながいけともや(31)の5人組のパーティーだ。


 運のいいことにV5は第6エリアのボスから黒のアイテムボールを得た。その黒アイテムボールからミスリルのインゴットが10キロ出て来たのだ。

 世界で初めてのミスリルのインゴットが出たことで、マスコミが連日押しかけて来た。

 尚、政府に渡したミスリルライフルについては、自衛隊が得たアイテムボールから出たということになっている。


 以前のようにマスコミの車両が道路を塞ぐことはなく、岐阜支部の駐車場や近くの空き地をちゃんと借りていた。

 マスコミ対応は全て大槻さんに丸投げしたが、さすがは官僚出身なだけあって手際よく対応してくれている。


「ミスリルのインゴットは国が保有することになります。用途については、検討中とのことです」

 JDSOの高台寺理事長がわざわざ岐阜までやって来て、記者会見をしている。こういう時に存在感を出してJDSOの有意性を示そうというのだろう。


 高台寺理事長の横にはV5の面々が雁首を並べている。

 ミスリルインゴットはキロ5000万円、つまり10キロを5億円で岐阜支部が購入し、それを国が買い上げてくれる予定だ。


 V5は1人当たり1億円もの大金を手にすることになる。これが安いか高いかは、これから相場が決まっていくことになるので分からない。

 ただこういった情報が拡散すれば、一攫千金を狙ったダンジョンハンターになろうという人が多くなるだろう。


 一応、ダンジョンハンターは中卒の15歳以上なら誰でもなれるが、18歳未満は保護者の許可が必要になる。

 高校生くらいの若者がアルバイト感覚でダンジョンハンターになるのも珍しくない。親はどうして許可を与えるのか。子供が大怪我を負ったり、死んでしまうかもしれないと言うのに……。

 俺がこんなことを思うなんて、おかしいって? 大人なら自己責任で全て片付けるけど、若年者が死ぬのはやっぱり良くないと思うわけ。


 記者会見は岐阜支部のビル内で行われた。100人くらい入る部屋もちゃんとあるから問題なく対応できた。ただし記者会見の会場設営などで職員の負担が増えてしまった。手当を出して労おうと思う。


 会見後V5は帰って行ったが、当分の間はインタビュー攻めにあうだろう。マスコミがあまりにもウザイようなら、こちらで対処すると言ってある。と言っても、大槻さんにお願いするんだけどさ。


 俺は貴賓室で高台寺理事長と向かい合い、コーヒーを飲んでいる。

「今日は記者会見以外に、世渡理事に話があって来ました」

 そういえばJDSOの理事会は最初のほうは出たけど、あとは大槻さんに代理出席してもらっていたから高台寺理事長や他の理事たちと顔を突き合わせて話したことないな。JDSOのほうは名前を貸しているような状態だから、理事たちとあまり接点はないんだよね。


「どんなことでしょうか?」

「JDSOは近く解体されることになります」

 ほう、そりゃ初耳だ。

 JDMAと違ってJDSOは国民の目に触れにくい。そういったことから官僚の天下り先と揶揄する人も居る。

 でもそれは違う。JDSOはJDMAから吸い上げた情報を元に、法案(草案)作成など政府との橋渡しを行っている。現状ダンジョンやモンスター、ダンジョンハンターを所管する省庁がないため、JDSOがそういったことをしているのだ。


「実を言いますと、ダンジョン管理省が設立される運びとなり、JDSOはそちらに吸収合併されることになるのです」

「そういうことですか。納得です」

 外からあーだこーだと言われる第三セクターよりも、省のほうが公権が使えるからな。

 それに俺以外の理事は全員官僚だ。今でもそれぞれの省庁に在籍しているから、そちらのほうが都合がいいのだろう。


 JDSOが解体されるんなら、俺の役目も終わりだ。どうせ大槻さんに丸投げしていたから、JDSOがあろうがなかろうが大して変わりはない。

 あっ、でも大槻さんをくれと言われたらどうしようか。大槻さんの出世になりそうだけど、俺がめちゃくちゃ困る。うーん……大槻さんの代わりか……居ないよな。


 経理部長の相田さんも総務部長の丑木さんも、その分野ではプロフェッショナルだ。現在の職を100パーセント以上に行ってくれている。不満は全然ない。

 だけど大槻さんの後釜に据えるとなると、足りないかなと思う。やらせてみたら意外にできるかもしれないけど、難しいだろうと思う。


 高台寺理事長が言うには、早ければ夏頃にはダンジョン管理省が立ち上げられるそうだ。

「そこで世渡さんに大臣政務官をと総理が仰っております」

「はい?」

 何を言っているんだ? 大臣政務官と言えば、基本的には政治家がなるものだろ。なんで俺がそんなものにならなければいけないのか。


「私が事務次官として世渡さんをお支えします。お引き受けいただけないでしょうか」

 今さらりと重要なことを言ったよね? 事務次官というのは官僚のトップの座だよね。俺を隠れ蓑にして自分が事務次官になろうというのか?


「勘弁してくださいよ」

「それでは大臣ではどうでしょうか」

 断ったらポストを上げてきたよ!

 どうやらこの考えは高台寺理事長ではなく、総理辺りの考えのようだ。


「これまでの活動を見て来て分かると思いますが、俺がダンジョン管理省で何かすることはないでしょう。それにJDMAの支部長もしているんですから、こちらだけで十分でしょ」

「総理はどうしても世渡さんを近くに置きたいようですよ」

 総理って言ってるし。隠さないんだね。


「総理にお伝えください。非公式の協力は……少しだけします。と」

 表に出て何かをするのはごめんだ。マスコミに揉みくちゃにされたり、勝手にテレビやネットに名前や顔が流されるのも勘弁してほしい。

 だから俺は裏方でいい。本当は支部長だって嫌なんだよ。


「世渡さんの言葉は、総理にお伝えします。それではこれで失礼しますね」

「お構いもせずに、すみません」

 朝やって来て、昼過ぎには東京にトンボ返りか。新しい省を立ち上げるから高台寺理事長も忙しんだろうな。

 東京で記者会見を開けばよかったのに。東京にV5たちを向かわせたほうが、彼らも実感が湧くんじゃないかな。


 高台寺理事長を見送って、先ほど聞いた話を大槻さんにする。

「大臣政務官の話、お断りして良かったのですか?」

「俺が大臣政務官になっても恥をかくだけで何もできませんよ。俺はここの支部長だけでも持て余している男ですからね」

「ご謙遜を」

 いやいや、マジで言っているんだからね。


 

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