第33話_モンスターは繁殖しますよ

 ■■■■■■■■■■

 033_モンスターは繁殖しますよ

 ■■■■■■■■■■



 首相官邸はかなり騒々しかった。

 いつもの会議室で総理たちと面会したが、今日はそのメンバーに外務大臣が入っていた。中国のあの会見の直後だからね。外務大臣としても、国の方針を決定するための情報を得るためにこの場に居るんだろう。


 挨拶もそこそこに、総理は話を始めた。

「中国の艦艇が台湾に迫っています。これは米国と我が国への牽制でしょうが、今の中国の状況を考えますと……そのまま軍事行動に移る可能性は捨てきれません」

 中国のことだったけど、台湾有事の話だった。ちょっと斜め上の話になっているようだ。


「台湾のことも重要ですが、現在我が国は放射能除去のために、護衛艦を広範囲で展開しております」

 以前聞いた情報では、京都の舞鶴港沖から九州、そして尖閣諸島までをカバーするようにエネルギーコアを載せた護衛艦が展開している。

 その尖閣諸島は台湾からほど近い場所にある。中国の艦艇が護衛艦を攻撃しない保証はどこにもないから慌てているんだろうな。


 炉心溶融メルトダウンから数カ月が経過しているが、放射能の発生源である山東省の原発跡を何とかしないと、護衛艦を年単位で展開し続けなければいけないだろう。それを攻撃されては堪らないというのが本心といったところか。


「中国軍がとち狂って護衛艦に攻撃をしてきたら、それこそ戦争になりかねません。それどころか貴重なエネルギーコアを失う可能性もあります」

 事態はそれほどひっ迫しているということだろう。だけど、それは俺がどうこうできる話ではない。外交問題のことで呼ばれても困るんですけど。


「1つ確認したいのですが」

「どうぞ」

 疑問に思ったことを確認したいと言うと、総理はすぐにOKを出した。


「その中国の艦艇ですが、どの勢力のものですか?」

 元々の中国軍なのか、独立した2つの国(?)に属する艦艇なのかが分からない。

 蜀国と名乗る独立勢力は内地だから軍艦を所有してない可能性は高いが、呉共和国は海に面した複数の省も参加しているため可能性はないと言えない。


「……現在調査中です」

 総理たちも分かってないようだ。

 どちらと交渉するか、迷っているのかな?


「これはあくまでも想像なのですが……」

 何か考えがあるようだ。


「台湾に接近している艦艇は中国軍のものでしょう」

「それは元々のほうということですか」

「はい、そうです。呉共和国にも軍が参加していることは把握していますが、呉共和国がこの時期に台湾に向けて軍を動かすとは思えません。もし動かすにしても、台湾ではなく陸上戦力を北上させるものだと私どもは考えています」


 呉共和国は独立宣言したばかりで、台湾に軍を出して米国を敵にすることはないというのが総理たちの考えらしい。

 それよりは米国を味方にして共産党が支配している地域を占領をしたほうが、理にかなっていると俺も思う。


 それはいい、それは。で、俺を呼んだ理由は?

「台湾のことはひとまず置いておきます。本日世渡さんをお呼びしたのは、山東省のダンジョンボンバーで地上に放出されたモンスターのことです」

 モンスターのことか。それなら少しは力になれるかもよ。で、何?


「あれらのモンスターは、いつまで地上に居るのでしょうか? ダンジョンに戻るか、自然に死ぬことはないのでしょうか?」

 モンスターの生態について聞きたかったわけか。

 ダンジョンボンバーが発生して数カ月が経過しているのに、未だにモンスターが猛威を振るっているから気になるんだろうな。


「ダンジョンから放出されたモンスターがダンジョンに戻ることはありません」

 ざわざわと会議室内が騒がしくなる。俺がこんなことを知っているなんて思ってなかった? あんたたちよりは、多くの情報を持っているよ。


 総理が咳払いすると、会議室内が静かになる。

「寿命は種族によって違いますから一概に言えませんが、10年や20年は生きるでしょう」

「その際……」

 ん、言いにくそうなこと?


「その際には交配して子孫を残しますか?」

 ああ、増えるのが気になるのか。


「増えますよ。交配なのか分裂なのかは別として、モンスターも人間同様に子孫を残します」

「「「………」」」

 そんなに絶句するようなことではないと思うんだけど。モンスターが数を増やすから、ダンジョンボンバーが発生するんだよ。それくらい想像できるでしょ。


 ダンジョンとモンスターの関係は、モンスターが一定数以下になるとダンジョンがモンスターを生み出す。

 そしてモンスターが外敵───この場合は人間だけど、俺たちに駆除されずに子孫を増やし続けているとダンジョン内が窮屈になる。それによって、強制排除されるのがダンジョンボンバーだ。


「たしか山東省のダンジョンボンバーが発生してから……4カ月ですか」

「ええ、4カ月になります」

「そろそろ新しいモンスターが生まれているんじゃないですかね」

「「「なっ!?」」」

 中国で猛威を振るっているモンスターは、植物型のモンスターだ。植物は花粉を飛ばして受粉し、そして種を落とす。その種が発芽するまでに数カ月かかる。さらに発芽したら新しいモンスターとなって地上を闊歩し、1週間もすれば成体になる。

 幼体だと成体よりも弱いから倒しやすいが、成体になれば厄介な存在だ。


「世渡さん。その情報を中国に渡してもよろしいでしょうか」

「総理が今の情報を中国に教えるのは止めませんが、また言いがかりをつけられるかもしれませんよ」

 自国のことを他国のせいにするような混乱ぶりを見せている中国に、この情報を教えたらまた何か言われそうだ。


「その懸念はありますが、人道的な観点から隠しておくわけにはいきません」

 俺に人道的な考えがないと言われているような言葉だな。

 でも隠していたわけじゃない。聞かれなかったから言わなかっただけだ。


 そもそも中国が日本からの情報を無視しなかったら、ダンジョンボンバーなんて起こらなかったのだ。基本は発生させないのが一番だ。中国には反面教師になってもらい、各国がダンジョン内のモンスター駆除に精を出してもらえばいいと思う。


「その種というのは、日本に入って来ないでしょうか?」

 神妙な顔をした外務大臣だ。


「ダチョウの卵くらいの大きさの種だと思いますから、故意に持ち込まない限りは大丈夫だと思いますよ」

 それだけ大きなものが何かに隠されて日本に入って来たら、それはモンスターマニアか悪意ある意志によるものだろう。


 話が終わったので帰ろうとしたら、食事でもどうかと総理に誘われた。

「お誘いは嬉しいのですが、家で待っている奴らがいますので」

「そうですか、残念です」

 あまり深く関わり合いになりたくない。と思っていても、もうどっぷりと首まで浸かっている気がする。


 いつもの目つきがキツい女性官僚に案内されるのだが、以前に比べると雰囲気が違う。

「あの……ありがとうございました」

「あなたにお礼を言われるようなことはしてませんが?」

 いきなり礼を言われても、俺のほうが戸惑ってしまう。


 この女性官僚は大内京子おおうちきょうこさんと自己紹介した。

 その上で再度礼を言われた。そう何度も礼を言われると、尻がムズ痒いから止めてくれと言っておいた。


「福島の除染作業にエネルギーコアが使われることになりました。これも世渡様のおかげです」

「あなたは福島出身なのですか?」

「はい。生まれは福島です。あの事故の後、東京に出てきました」

「それは大変だったでしょう」

 俺などが想像するよりも大変な思いをしたんだと思う。それで頑な感じだったのかな。

 福島の除染作業に目途がついたことで、張っていた気が抜けたようでなによりだ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る