第30話_ダイエットしたほうがいいようだ

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 030_ダイエットしたほうがいいようだ

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 スンスンとチャタが鼻を動かす。

「アンッ」

「モンスターだ」

「は、はい!」


 現在俺とチャタ・フウは磯山京子のレベル上げにつき合っている。

 言うまでもないが、磯山はスキル・武器錬成の所持者であり、俺直属の部下として岐阜支部で働いている。


 彼女のスキル・武器錬成を活かすには、レベル50くらいにする必要がある。エリアで言うと、第4エリアで到達するだろう。

 ここ第3エリアのウッドマンを相手にしているが、チャタとフウが弱らせたウッドマンを磯山が倒している。


「やったー! チャタちゃん、フウちゃん、ありがとうね♪」

「アンッ」

「ワウン」

 俺だとウッドマンを弱らせる前に倒してしまう。STRが高すぎて手加減ができないんだ。


 チャタとフウは丁度良い塩梅でHPを残して磯山にとどめを刺させている。俺より器用なのはちょっと納得いかないが、2匹ともモンスターのHPが本能で分かっているようだ。

 パワーレベルもいいところだが、磯山の場合は戦闘経験を積むのではなくレベルを上げるのが目的だからいいだろう。


 ちなみにフウはすでにレベル100を超えている。フウも俺の眷属だから、俺が倒した時の経験値1000倍の恩恵にあずかれる。


 磯山は厳しい訓練や戦いを希望していたようだが、俺にSの気はない。どうしてもと言うのなら、それこそ自衛隊に放り込んでやるつもりだ。

 研修で厳しくしたのは、生ぬるいことをして研修生が死んでは目覚めが悪いからだ。

 真正のドMの彼女につき合えるほど俺はドSではない。今のところそういった気配はないから彼女にとって何が本道なのか、分かってくれていると思うことにしている。


「やったーっ!」

 磯山はウッドマンクンフーにとどめを刺し、ガッツポーズする。


「支部長さん。レベルが41に上がりました!」

 第3エリアのボスを倒してレベルが上がったようだ。


「おめでとう。今日はこれで帰るからアイテムボールを拾え」

「はーい」

「チャタもご苦労さん」

「アン」

 第4エリアへ入り、転移キーに触れて入り口近くへ転移する。


 磯山とは岐阜支部の前で別れ、俺とチャタは自宅へ。

 自宅の前に誰か居るな。遠目からでも仕立ての良いスーツをビシッと着込んだ人物だ。見覚えはない。


「わたくし、佐藤弘さとうひろしという者ですが、世渡様でよろしいでしょうか?」

 俺が家の門に到着すると、50前のその男性は声をかけて来た。しかし佐藤弘か。どこにでも居そうな名前だ。


 佐藤さんは俺と話がしたいと言ってきたから、家に入れて話を聞くことにした。

 フウがまつわりついてきたから抱っこしてモフモフしながら話を聞いた。


 佐藤さんの話を簡単に言うと、引き抜きだ。某企業の役員待遇で来ないかと。

 日本ダンジョン抑制機構(JDSO)の理事職はどうでもいいが、ダンジョン管理組合(JDMA)の支部長職を放り出して転職する気にはなれない。

 それをしたら、さすがに無責任だろう。それになんで俺なんだろうか?


「世渡様は民間人でただ1人、日本ダンジョン抑制機構の理事をしております。私どもはそれに違和感を持ちまして、世渡様のことを調べさせていただきました」

 官僚出身理事ばかりの中に、俺1人だけ民間出身。田舎でスローライフを送っていた半ニートの俺が、官僚に混じっているのは違和感あるよな。ダンジョンの地権者というところを抜きにしても、納得できる内容だ。


 勝手に調べられるのは気分のいいものではないが、企業というのは、情報が命綱になることが多い。情報を軽んじる企業に、成長はないだろう。


「今すぐに返事しろとは言いません。ゆっくり考えていただいて結構です」

 最後に良い返事を待っていると言って、佐藤さんは帰っていった。

 かなり人当たりのいい人物だった。前職の時ならかなり心がぐらついただろう。


「さて、飯の準備をするか。チャタ」

「アン」

 小1時間程話を聞いていたら、かなり日が傾いてしまった。


 今日の夕飯は、昨年の秋に採って室で保管しておいた自然薯だ。

 1センチほどにスライスした自然薯をバターで焼いたもの。千切りにした自然薯に鰹節とめんつゆをかけたもの。麦飯にかけるとろろ飯。山芋を微塵切りにしてチーズを包んで焼いて甘辛タレを絡ませたもの。


「チャタとフウにはドッグフード・オン・ザ・牛肉だぞ」

「アンッアンッ」

「ワウンッ」

 牛肉の匂いに2匹の尻尾が激しく振れる。


「よし、食うか! いただきます」

「アンッ」

「ワウンッ」

 俺のいただきますの言葉と共に、2匹は器に鼻先を突っ込んだ。

 ガツガツッガリガリッ。勢いよくドッグフードと牛肉を食べ進める。


 俺もとろろを麦飯にかけて、ガーッとかき混ぜる。出汁でかなりゆるくなっているが、それでも自然薯の粘度はかなりのものだ。

「ズ、ズズーッ」

 モグモグ……。

「う……美味いっ!」

「アンッ」

「ワウンッ」

「そうか、お前たちも美味いか!」

 2匹のほうはすでに3割くらいしか残っていない。凄い勢いでなくなっていく。


 次はバター焼きを食べるが、これも美味い。バターの油分が良い感じだし、焦げた醤油の香りもいい。

 千切りも美味い。自然薯の優しい甘さが際立つね。

 チーズ包みは甘辛タレとチーズの相性が抜群だ。もちろん自然薯もしっかりと存在感を主張している。


 いかん、いかんぞ! どれも美味すぎてとろろ飯が止まらない。いくら自然薯でもこんなに食べたら太るというくらいに食べてしまった。

「ふーっ……食った、食った……。美味すぎるだろ……」


 無意識に腹を擦っていたことに気づき、その腹はぽっこりどころか中年オヤジの腹になっていた。

「………」

 可笑しいな、これでもそこそこ体を動かしているんだが……。


「こっちに来てご飯が美味いから食べ過ぎていたようだ」

 これはマズい。いや、飯は美味いんだ。

 ダイエットするしかないか……。

 食事制限はしたくない。そうなると、体を動かさないといけないな。


「どこか別のダンジョンを攻略でもしてみるか」

 一度入ってしまえば、後は好きな時に転移でこっそり入ることができる。

「よし、日本全国のダンジョンの視察をしよう!」

 こういう時に立場を利用すればいい。

 JDSOの理事として、全国津々浦々のダンジョンを視察だ!


 

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