第28話_ランクを設定する
■■■■■■■■■■
028_ランクを設定する
■■■■■■■■■■
目を開けると、チャタの顔が目の前にあった。
「重いと思ったら、お前かよ」
夢でもいいから綺麗なお姉さんに乗られていたかった。
「人の顔をべろべろ舐めるの、止めてくれるかな」
「アンッ」
「ワウン」
フウと2匹して俺の顔を舐めまくっているんですけど。
「起きるから、止めろ~」
俺の顔はそんなにしょっぱいか? 脂ぎった中年にならないように気をつけているんだぞ、これでも。
「ほら、これだろ」
「アンッ」
「ワウン」
俺もコーヒーを淹れて、牛乳に浸したオートミールを食べる。
テレビのチャンネルを切り替えても、中国のダンジョンボンバーの話はやってない。どのメディアも中国に配慮しているのかな。それとも何も情報が入ってこないから、報道できないのか。
それでは報道の意味はないと思うのは、俺だけかな? まあいいや、どうせMCやコメンテーターの偏った見解を聞かされるだけだし。
食後に山の中を散歩といきたいところだが、雪が降っているのでダンジョンの中で2匹を離した。
2匹の運動のために、ダンジョンマスタールームの横に100メートル四方のドッグランを設置している。ダンジョンマスターならではの贅沢なドッグランだ。
ドッグランにはちょっとした小山と林、それと泉を設置してある。
2匹とも木々の間だろうと斜面だろうと、楽しそうに駆けまわっている。
「アンアン」
「ワウン」
走り疲れたら泉の水をチャプチャプと飲み、揃ってお尻をゆらす。その光景が可愛らしく、癒される。
チャタたちの気が済んだらJDMAのお仕事。これでも支部長だから、給料分は働かないとね。
ちなみに、ミスリルライフルやエネルギーコアについては、別途報酬をもらっている。いくらとは言わないが、一生遊んで暮らしても使い切れないくらいの額だ。
こんなに要らないのだが、無理やり押し付けられたんだよ。
JDMA岐阜支部に入ると、数人のダンジョンハンターたちがアイテムの換金を行っていた。
さらに奥へ進み、階段を上がっていく。
「おはよう、皆」
「「「おはようございます。支部長」」」
10人程の職員がこれから仕事を始めようとしているところだ。
「今日も安全第一で仕事をしてください」
「「「はい」」」
支部長室に入ると、すぐに副支部長の大槻さんが入ってきた。
「昨日は500キロのリチュウムを始め、レアメタルが8種2300キロ。金が800キロ、銀が3500キロ持ち込まれました」
「昨日はかなり多かったのですね」
「ハンターたちが育っています。特に城島茂雄率いる5人パーティーは、すでに6層へ到達しています」
「想像以上の早さですね」
「彼らはダンジョン内で4泊5日しています。それだけ濃密なダンジョン探索ができるようです」
通常は1泊か2泊するところだが、そのパーティーは4泊5日もしているらしい。
「無理はしてないのですか?」
「彼らの顔色を見ましたが、そこまで無理はしてないようです」
「せっかく稼げているのですから、無理して引退に追い込まれないように気を配ってやってください」
「承知しました」
大槻さんはペラリと書類をめくった。
「次はランク制度の件です」
ダンジョンとハンターにランクを設定しようという話が持ち上がっている。これはJDMAの上位組織であるJDSOが提起した案件になる。
その会合に俺の代理として出てもらった大槻さんから、その報告を受ける。
「まずダンジョンの難易度にランクをつけようという話になっています」
ダンジョンダンクは出て来るモンスターの強さや厄介さ、ダンジョンの構造、罠の多さや厄介さなどを総合的に考えてダンジョンの難易度を決めるそうだ。
特にダンジョン内の環境は大事だ。
たとえばダンジョン内が極寒なら防寒具だけで重装備になってしまう。吹雪いていたら視界も悪くなるし、雪が積もっていたら移動が難しい。
逆の灼熱の環境なら、そこに居るだけで体力を著しく消耗する。水分補給が欠かせない環境だが、水は意外と重い。
トラックのような運搬するものがあっても、それを運用できない場所だってある。通路が細かったり沼地のような場所では、自力で荷物を運搬する必要がある。
アイテムボックスのようなスキルがあればいいが、そうでなければ荷物の運搬だけで大変な思いをすることになる。
この岐阜ダンジョンの場合、ほとんどの場所にトラックで乗り付けることができる。
2トン車くらいなら余裕だし、4トン車でも運用は可能だ。さすがに10トン車は厳しいが、普通は2トン車で事足りる。
ダンジョン内では道交法など関係ない。荷台に人間が乗っても構わないし、多少の過積載も構わない。
ただし、トラックで人間を跳ねたら罪になる。魔物なら構わないが、人間を跳ねたらダンジョンでも地上でも関係ない。
岐阜支部が運用しているトラックには、ドライブレコーダーが備え付けられている。他の支部でも同じだから、人を跳ねたら分かる。
ドライブレコーダーをわざと壊す奴が居ないとは言えないが、岐阜ダンジョンではリアルタイムでその情報がサーバーに送られるから、不正できない。
また、ハンターランクは主にレベルを指標にするらしい。後はJDMAへの貢献度も加味され、上位ランカーには税制優遇などの特典をつけようという話になっているらしい。
ハンターランク制度はダンジョンハンターの目標になるだろうし、税制優遇も魅力的だろう。
「アイテム購入時の値引きも行えないか、提案してください。段階的でもかまいません」
「なるほど。承知しました」
今回のランク付けに関連して、総理たちはダンジョン内ルールを法令化しようとしている。
ネガティブリストを作り、やってはいけないことを明確にしようというものだ。
武力を持つことになるダンジョンハンターを縛る法律だが、ダンジョンハンターを護る法律でもある。
「これについては、徳大寺理事が主導して行っていくことになっています」
徳大寺さんは防衛相出身の理事で、今回のことに前向きに取り組んでいる。
その原因は自衛隊にある。自衛隊はネガティブリストではなくポジティブリストによって縛られているからだ。
ポジティブリストはやっていいことが書いてあるもので、ネガティブリストの真逆のものだ。
一見したら同じじゃないかと思うかもしれないが、ポジティブリストを運用する軍隊なんて自衛隊くらいなものだ。米軍でもヨーロッパの国の軍でも、ネガティブリストの運用だ。やってはいけないことがリスト化され、それ以外はやっていい。いざと言う時に自分の身さえ守れないのが、今の自衛隊なのだ。
ちなみに自衛隊は軍隊ではない。日本国憲法は軍事力を放棄している。憲法第九条というやつだ。つまり、自衛隊は警察の延長線上の組織であって、軍ではない。
あれだけの装備(武力)を持っているのに、軍じゃないというほうが無理がある。これが通るなら、なんでもこじつけできるレベルのものだ。
実際のところ、外国では自衛隊は軍と認識されている。それなのに、軍じゃないと言い張る。
別に国や政府を批判しているわけではない。むしろ政府は自衛隊を軍にしたいような感じだし、俺は自衛隊員が可哀想だと思っているだけだ。
今時はミサイルや砲弾が1発飛んで来ただけで数人か数十人が死ぬのに、撃たれるまで撃ち返せない。自衛隊員や民間人が死ななければ何もできないし、撃ち返しても後から問題になりかねない。
おっと、話が逸れてしまったな。
「ランク制度の草案とネガティブリストができたら、確認させてください」
「承知しました」
俺もネガティブリストの策定に参加しても良かったが、あっちこっちに首を突っ込んでいると目が回る。
家の裏にできたダンジョンを踏破して、俺は地球人を救った。それだけで十分だろ? あとは若い人たちに任せて、俺は最後のチェックをするだけに留めようと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます