第27話_エネルギーコア

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 027_エネルギーコア

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 ダンジョンマスタールームで作業をする。思った通り、いいものがあった。これなら大丈夫だ。


「あんな犬畜生ばかり増やして、マスターは私を捨てる気ですか!?」

 妖精はチャタとフウに、蔑視の眼差しを向けている。フウが増えていることが気に入らないようだ。


「そういう差別は嫌いだぞ、俺は」

「だったら私をもっと重用してください」

「重用してるじゃないか。お前にダンジョンのことを任せているのが、その証拠だ」

「そうですが、もっと重用してください!」

「これ以上何を求めるんだよ?」

「私に名前を!」

 返品したいけど、返品はできそうにない。しょうがないな、そろそろ名前でもつけてやるか。


「分かったよ、考えておくよ」

「本当ですか!?」

「嘘は言わない」

「それじゃあ、今名前をください」

「今は考えてなかったからな……」

 妖精は俺を見上げてうるうると目を潤ませてくる。別に妖精が泣こうと喚こうと、構わないけどさ。


「それじゃあ、ダンジョンの妖精だからダンコで」

「却下ですっ!」

 速攻で却下しやがった……。


「分かりやすい名前だと思うがな」

「じゃあ、ダンミ」

「却下!」

「ダン……」

「却下! ダンから離れてくださいよ! それに、この私の容姿に合った可愛い名前にしてください」

 自分で可愛いとか言うかよ、普通。


「えーと……」

 面倒だな。


「今、面倒と思ったでしょ」

「……いいや」

「嘘です! 目が泳いでいます!」

 俺、嘘がつけない正直者なんだよ。


「それならミヤコでどうだ?」

「その心は!?」

「ダンジョンは迷宮だから、宮をとって宮子だ」

「分かりました。マスターならその辺りが限界でしょう。それでいいです」

 無意識に妖精改めミヤコをデコピンで弾いていた。俺は悪くないと思うんだ。


 家に直接転移し、チャタとフウに家を任せる。

「それじゃあ行って来るよ」

「アン」

「ワウン」

 わしゃわしゃと2匹を撫でまわす。ああ、このまま今日は終わりにしたい。


「はあ……行きたくないけど、行かないといけないのだ。後ろ髪引かれるが、行ってくるな」

「アウ~」

「ワウ~」

 2匹に手を振って転移。


「世渡様。お待ちしておりました」

「お手数をおかけします……」

 首相官邸に移動すると、職員が待っていた。

 30前後のキャリアウーマンといった感じの人だ。キャリア官僚として入省したのにこんな案内係のようなことをさせられて不満なんだと思うが、もう少し表情を柔らかくしてほしい。


 俺だってこんなことは不本意で、国のことは国会議員たちが責任をもって判断して処理してほしいんだよ。


 すぐに総理と面会できた。官房長官と防衛大臣、それから環境大臣他多数も同席している。

 最近は大臣の顔くらいは覚えるようにしている。大臣以外はさすがに無理だ。名刺交換だってしてないし、今日初めて会うような人の名前なんて知らない。


「わざわざ来てもらって、すみませんね」

 俺が席に座ると総理から労いの言葉をもらった。

「いえ、緊急事態ですから」


 しかし、アメリカも中国も何をしているのか。ダンジョンボンバーは適切にモンスターを間引いていれば起こらないと言うのに。

 特に中国は日本とアメリカのダンジョンボンバーを知っているはず。それでもダンジョンのモンスターを間引かないとか、信じられない。


「まずは情報の共有からしたいと思います。と言っても今回のダンジョンボンバーの情報はあまりないのが現状です」

 家に帰ってからテレビやネットを確認したが、中国で起こったダンジョンボンバーの情報はほとんどなかった。もう終息したのかと思っていたんだが……そんなわけないか。


「中国当局はダンジョンボンバーが起こった後にメディアに圧力をかけて報道規制をかけ、ネットで配信されていた映像はすぐに削除されました」

 都合の悪い情報は、国内外に流さない。国家としてはある意味当然なことかもしれないが、今回はそれで終わらない話だ。


 不安を煽るのはよくないが、今回は原発が絡んでいる。地元住民の避難や近隣諸国への情報提供はするべきだと思うんだが、情報はアメリカ軍の偵察衛星からの映像しかないらしい。


「今から20分ほど前の映像です。モンスターの群れが原発にかなり近づいているのが分かります」

 蠢くモンスターが画面の左から右へ向かって移動している。画面の右側には原発と思われる大きな建物が見える。

 モンスターと原発の間に戦車のような車両が展開していて、激しい砲撃を行っている。さながら戦争だ。


「もし原子炉が炉心溶融メルトダウンを起こした場合、放射能が偏西風に乗って九州へ到達する可能性は否定できません」

 皆の眉間にシワが寄る。


「地理としては日本よりも朝鮮半島のほうが大きな被害を受けるでしょう」

 地図が映し出され、山東省の東に朝鮮半島があるのが分かる。


「米軍から韓国政府にも情報提供が行われているようですが、自国の原発ではないため見守るしかないようです」

 偏西風を考えると、北朝鮮も韓国も共に危険だと思われる位置関係だ。


 総理の説明が終わった。誰も口を挟まないことから、それ以上の情報はない。もしくは俺に聴かせられないような情報ということか。


「毎回世渡さんに頼ってばかりで申しわけないと思っています。ですが事が原発ですから、できる限りの対策はしておきたいのです。どうか協力をお願いします」

 総理が頭を下げると、大臣やその他大勢も頭を下げた。


 総理とか一般人とか関係なく、放射能汚染は極めて重大な案件だ。中国が原発を守り抜けばいいが、楽観視はできない。


「もし原発が最悪なことになった場合、これを使ってください」

 俺はスキル・極アイテムボックスから1つのクリスタルを取り出した。手の平に乗る程度の大きさで、ややピンクかかったクリスタルだ。


「それは?」

「エネルギーコアというものです」

 エネルギーコアと総理たちが反復している。


「これは指定したエネルギーを吸収するものです」

「それはつまり……放射能を吸収してくれるということですか?」

「総理の仰る通りです。エネルギーコアは半径100キロの範囲の指定されたエネルギーを完全に吸収します。これを自衛隊の護衛艦に載せて、日本海から沖縄方面に護衛艦を並べれば偏西風に乗ってやってくる放射能を吸収してくれるでしょう」

 別に護衛艦じゃなくても海上保安庁の船でも漁船でもなんでもいい。


「数は30個しかありません。どう使うかは総理に任せますが、紛失しても補充はできませんのであしからず」

「これが30個あるなら最大で6000キロがカバーできます。いや、上空のことを考えるともっと距離は短いですが、それでも沖縄から九州をカバーするのに十分でしょう」

 その他大勢の1人がそう言うと、総理の顔に笑みが見られた。ホッとしたんだと思うが、これは展開した場所しか守れないからね。

 朝鮮半島を護るなら、その西側にこのエネルギーコアを展開しなければならない。韓国はともかく、中国や北朝鮮がそれを認めるとは思えない。


「それと問題のない原発の放射能も吸収しますから、配備する場所は考えてくださいね。さもないと、いきなり電力供給が止まってしまうという危険なことになりかねない。もし米軍の原子力空母などが近くに居たら、その動力も消失しますから」

 半径100キロにそういったものがなければ問題ないけどね。


「そのエネルギーコアはオン・オフが可能なのでしょうか」

「可能ですよ」

 そうじゃなければ、持ち運びする時に問題が発生するからね。


「ありがとう。世渡さん。本当に感謝します」

 エネルギーコアの使い方を教えると、総理たちが頭を下げて来た。居心地が悪いから、そういうのは止めてくださいよ。


 あえて言わないけど、このエネルギーコアを使うことで東北の地震で発生した原発事故の除染作業も進むよ。

 そこに気づくかどうかは、総理の周りに居る人たち次第です。


 

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