第26話_縁を掴むために動け

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 026_縁を掴むために動け

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 今シーズンの初雪はドカ雪となり、俺の家を覆い尽くした。除雪車がフル稼働して家の前にできた立派な道の雪を処理してくれる。

 こういった除雪車も国が揃えたものだ。二度とダンジョンボンバーを起こさないために、ハンターが移動できないような場所ではいけない。そのための除雪車である。


 屋根付きの車庫で、慌てて軽トラのタイヤをスタッドレスタイヤに替えた。

 去年は軽トラでも厳しい狭い道だったのに、ダンジョンのおかげで道が整備されて片道一車線になって除雪までしてくれる。

 そんな道を下りていき、左折して国道に出る。


 横には相棒のチャタ。そしてその彼女のフウが乗っている。フウはチャタのお嫁さんになった。つまり、今は俺が飼い主だ。

 いつか家族が増えると思う。それを想うと、楽しくなる。


 さて、俺たちは町に出て冬の買い物だ。

 食料だけでもめちゃくちゃ買い込む。お隣さんの4軒からも頼まれているからね。


 俺が買い物をしている間に、チャタとフウはシャンプータイム。トリミングとか言うらしい。

 トリミングの店に電話かけて予約しようとしたら、1軒目と2軒目は断られた。予約がいっぱいではなく、柴はやってないと言われたのだ。3軒目でOKが出て、ちょっと遠いその店に2匹を預けることになった。


 なんでも柴は気性が荒いらしく、トリミングを断る店もあるそうだ。うちの子たちはとても人懐こくて、可愛いのに……。


 世間には柴距離なんて言葉もあるらしい。飼い主の隣に座ったり、触られるのは嫌。抱っこは絶対にダメ。さらに犬でも犬種が違うとかなり警戒する。

 うちの子たちは抱っこ大好き、もふもふされるの大好きだぞ。2匹同時に抱っこしても怒ったりしないんだけどな。


 だから柴でも性格だと俺は思う。うちの子たちはいい子だぞ。(親バカ目線)


 2匹を店に預けて大量の買い物をしていると、スマホが鳴る。こんな時に誰かと思ったら、総理だった。

 あの人、毎回直接俺に電話してくるんですけど……。


「はい。世渡です」

 無視しようかとも思ったけど、出てしまった。こういうところが小市民なんだよな。


「世渡さん、今大丈夫ですか?」

 買い物中ですと言いたいところだが、総理だって忙しい中を電話してきているんだと思うと無下にできない。


「少しでしたら大丈夫です」

「ちょっと困ったことが起きてしまったんですよ」

「困ったことって、なんですか?」

 困ったことがなければ、俺に電話して来ないでしょ。一体何が起きたんですか。


「中国でダンジョンボンバーが発生したらしいんです」

「中国のことは中国に任せればいいじゃないですか」

「そうも言ってられない場所なんですよ」

 場所? どんな場所なんだ? まさか北京でダンジョンボンバーが発生して共産党のお偉いさんたちが殺された? まさかそんなことがあるわけないよね。


「ダンジョンボンバーの近くに、原発があるんです。しかも山東省だから、下手をすると日本にも影響があるかもなんですよ」

「はあ、原発!?」

 俺は思わず大声を出してしまった。


 スーパーの中で大声を出した結果、周囲の人の視線が痛い。

「すみません。ちょっと待ってください」

 荷物を載せたカートを置いて、店の外に出る。


 山東省がどこかは知らないが、原発はヤバい。でも、中国のことに日本が口を挟むことなんてできないだろ。


「お待たせしました。それで日本はどう対応するのですか?」

「どうにもできないというのが、正直なところですね。あの国はうちの支援なんて受け入れないでしょうから。しかし仮に原発が爆発でもしたらどれだけの被害があるか……福島やチェルノブイリ原発事故を超える大惨事になりかねない。こちらからは一応支援を申し入れていますが、向こうからはなんの反応もないでしょう」


 総理の声を聴くに、かなりお疲れのようだ。

 中国のことは共産党がなんとかするしかないけど、原発絡みとなると放置はできない。でも何もできないジレンマに陥っているのかな。


「その原発が爆発したら、日本にも影響があるのですか?」

「山東省は朝鮮半島の西にある場所なんだけど、日本にも近いのですよ。風向き次第では日本にも大きな影響があるかもしれない場所です。今、学者たちにどういった影響があるか調べてもらっているところです」

「……それで、俺にどのような要件で?」

「もし原発が爆発した場合、日本がその影響を受けないようにできないかと思って」

 そんなこと、できるわけがない。総理も無茶苦茶なことを言うよね。

 ちょっと待てよ……あれなら放射能の影響を押さえ込んでくれるか?


「えーっと、3時間くらいしたら折り返します。その間も情報収集をしておいてください」

「何か良い案があるのですか?」

「ダメで元々で考えてみます」

「助かります。どうか、よろしくお願いします」

 通話を切り、買い物を急いで終わらせる。考えると言っただけで、いい案が浮かぶとは限らないのにね……。


 軽トラの荷台に設置してあるコンテナに荷物を入れていく。大量の買い物だったけど、忘れ物はないはずだ。


「アンアン」

「ワウン」

 チャタとフウを迎えに行くと、チャタとフウに飛びつかれて2匹を受け止める。共にシャンプーの良い匂いがした。


「いい匂いだな。綺麗になって良かったな、お前たち」

 今回はシャンプー以外に、爪切りと耳掃除と肛門腺絞りというものもしてもらった。


「2匹とも凄く大人しくてお利巧でしたよ」

 チャタとフウはどんな犬にも引けをとらない立派な柴ですから、当然ですよ!(親バカ)


 次回の予約も入れて、俺はうちに帰る。

 もう、面倒だから途中で転移しちゃったよ。町中さえ抜ければ誰も居ない田舎道だから、転移しても騒ぎにならない。騒ぎになったらなったで、総理に頼めばなんとかなるでしょ。

 2匹は抱っこして降ろした。せっかくシャンプーしたのに、雪と泥で汚れるのはさすがに悲しい。


 2匹を家に残して、俺は買って来たものを食堂に届けた。ご近所のお婆さんたちが営んでいる食堂だから、一度に渡すのにちょうどいい。

「あら、もう帰ってきたの? 早いわね」

「この雪で一般車両はほとんど居ませんからね」


 町中は別として、田舎道のほうは本当に自動車なんて居ない。居るのはハンターを乗せたバスと自衛隊かダンジョン管理組合(JDMA)の自動車くらいなものだ。


「これ、頼まれていたものだよ。早くお嫁さん見つけないといけないよ」

 弁当を差し出されて、食事を作ってくれるお嫁さんを探せと藤ノ木のお婆さんに言われた。


 今時は女性だから家事をするというのは古いですよ。それに俺、これでも家事全般できますから。ここの弁当が美味しくて煮物とか入っていて栄養のバランスもよさそうだから買っているだけなんです。


「お嫁さんは縁ですからね」

「その縁を掴むために、動かないとね」

「ごもっともです」

 縁を掴むために動けか。どこかにいい縁は転がってないかな。


 

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