第25話_武器錬成
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025_武器錬成
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有り余る体力で畑仕事をする。今はネギ、白菜、大根、タマネギを育てている。
ネギは今頃から収穫が始まって、年を越して春先まで収穫できる。
白菜はもう少し早くから収穫が始まっていて、年を越しても収穫できる。
玉ねぎはまだ育っていない。来年の初夏頃に収穫だ。
大根はそろそろ収穫時期が終わる。でも、
去年漬けたものをおすそ分けでもらったが、これがまた美味かった。酒のあてにもいい感じだ。来年は自分の沢庵をあてに1杯だな。
うちの田んぼだった土地の多くはJDMAに貸し出した。今は何かしらの建物が建っている。
今後は田んぼ1反と畑半反で、自分が食べるくらいの米と野菜を作る。余ったら神奈川の実家に送るつもりだ。
「アンッアンッ」
「ワウン」
「お、彼女を連れてきたか」
チャタがメスの柴を連れてきた。藤ノ木のお婆さんのところの子だ。チャタと生まれた年は同じだけど、やや小さい。
チャタが11キロくらいだけど、この子は8キロあるかどうかかな。そうか、チャタもこの子も1歳になるんだな。
チャタも愛嬌のあるくりくりっとした目をしているが、この子は顔自体が愛嬌のある優しい顔をしている。もちろん目はくりくりだ。しかも薄い茶色の毛は柔らかく超がつくモフモフで触り心地が最強だったりする。
2匹は楽しそうに追いかけっこをしている。微笑ましい光景だ。
「この子、たしかフウって言ったか?」
「ワウン」
「道は車が多いから、気をつけるんだぞ」
「アンッ」
「ワウン」
チャタなら車よりも強いと思うけど、その子は普通の柴だから護ってやれよ。
畑仕事が終わる頃、チャタと共に藤ノ木のお婆さんのところにフウを送っていく。
最近は道が広くなって車も多いため、2匹だけでは心配だ。
フウを藤ノ木のお婆さんの家に送って帰ってくると、5台の車がJDMAの駐車場に入って行くのが見えた。
ダンジョンができるまでは地元の俺たちしか通らなかった道に、今ではどこの誰かも知らない奴らがひっきりなしにやってくる。
「変われば変わるものだ……」
これもJDMA岐阜支部のビルができたからだ。まさに突貫工事だが、手抜き工事はしてない。これでも元ゼネコン社員だから、そういう目は持っている(多分)。
ビルが建っているのは俺の土地。JDMAに貸している。毎月賃貸料が入って来る。夢の家賃収入です。
ご近所さんの土地は道路の拡張に関しては国が買い上げ、JDMA関係には貸し出している。田舎故かこの集落の5軒は広い土地を持っていた。その半分ほどをなんらかの形で貸し出すことになった。
先祖代々の土地だから売りたくはないけど、年を取って多くの田畑の面倒を見るのは辛くなってきた。そこに貸し出し案件が出てきたことで、意外と好意的に受け止められている。
そんな中でダンジョンハンター登録が始まり、ここ岐阜支部でも連日多くの民間人が登録を行っている。命を懸けてモンスターと戦うことが分かってない軽いノリの若者が多いが、それはいずれ沈静化すると思う。彼らが痛い目を見て、それが後進の人たちに伝わっていくんだと思う。
JDMA岐阜支部ビル内には、ポーションなどの薬品や武器防具を売る売店もある。
初心者向けの武器防具は、槍がメインだ。スライムに対しては一番戦いやすい武器だ。もっと言うなら、槍じゃなくて棒でもいい。ただ、そこら辺に落ちている木の棒は止めてくれ。攻撃したらポッキリ折れたなんて、笑い話にもならない。そんなことで死なれては、俺たちのほうが目覚めが悪い。
他のダンジョンについても、基本は槍がお勧め武器になる。銃を持たせるわけにはいかないし、銃だと対応するスキルが滅多に出ない。ただし、弓は対応スキルが出る。ここら辺は謎仕様だ。ダンジョンマスターでも分からない。
磯山専用の工房も完成している。工房といっても、ちょっと広い部屋と倉庫だ。磯山のスキル・武器錬成には材料と錬金釜があればいいからだ。
「きょうか、じゃなかった。支部長さん。おはようございます」
「おう、おはよう」
磯山は朝から、いや、徹夜で武器錬成をしていたようだ。目の下にクマがある。
「お前、寝てないな」
「ちょっと面白くて、あはっ」
あはっじゃないよ、まったく。
「自分の体調管理するのも、社会人の努めだぞ」
「心します」
そう言って錬金釜の中に素材を入れていく。俺の話を聞いていたのかと、頭痛がする。
昔のご飯を炊く釜のような形で、それよりは大きい。がんばれば磯山のような小柄な女性ならすっぽりと入れそうなくらいの釜が錬金釜だ。がんばらなくていいんだけどね。
もしかしたら、小さな五右衛門風呂のほうが近いかもしれないな。
その錬金釜の中に材料を入れるが、今回は鉄のインゴットと檜を適度に切ったものを入れている。
磯山は錬金釜にMPを流して、材料が発光して融け混ざり合っていく。やがて、その光が細長くなっていく。
「それで剣ができるとか、何度見ても凄いな」
「まだ剣と槍が造れるだけなんですけど、ちゃんと切れますよ」
切れない剣は鉄パイプに毛が生えた程度の武器でしかない。それだったら槍のほうがよほどいい。
「ちょっと見せてもらうぞ」
「はい」
錬金釜から剣を取り出して、鞘から抜く。ちゃんと鞘があるのも凄いと思うが、それ以上に檜のような柔らかい木が、武器の柄や鞘になることのほうが驚きだ。
剣は幅広のもので、頑丈そうだ。両刃で長さは150センチくらいある。両手で扱うものだな。
精々50センチくらいの深さしかない錬金釜から、よくもこんな長いものが出てくるものだと不思議で仕方がない。でも出てくるんだよ。
片手で剣を振ってみる。俺にとっては軽い剣だが、一般的には両手で扱うものだな。
「どうですか?」
「うーん……まあ、いいんじゃないか」
言葉を濁して答えると、磯山がズイっと前にでてきた。
「正直に言ってください!」
それなら正直に言わしてもらおう。
「せっかくなんだから、もっと遊び心を働かせてみろよ。せっかくお前のイメージで造れるんだから、こんなありきたりな形の剣を造って楽しいか?」
「っ!? さすがは支部長さんです! 目から鱗が落ちました!」
スイッチが入った磯山は、無我夢中で武器錬成に没頭した。
「いや、休めよ」
俺の言葉は磯山の耳に入っていない。
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