第21話_日本政府とアメリカ政府
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021_日本政府とアメリカ政府
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シアトルダンジョンで発生したダンジョンボンバーは、2000人以上の犠牲者を出して終息した。アメリカ政府は州軍の怠慢が原因だとして、調査を進めているとのこと。
そして恐れていたことが起きた。いや、別に恐れていたわけではないな。懸念していたことと言うほうが正しいと思う。米軍に貸し出したミスリルライフルが、借りパクされたんだ。
実際に借りパクなのかは分からないが、誰かが横領して裏ルートで横流ししたか、それともアメリカ政府または米軍が今後のためにポケットに入れたか?
日本政府は猛抗議したらしいが、戦闘のどさくさに紛れて紛失したというのが米軍の言い分らしい。そういうこともあるだろうが、日本政府はかなりご立腹だ。俺の手を離れたものなので、どうでもいいことなのに俺のところに連絡がくる。
「そのようなわけで、ミスリルライフルをもう1挺用立てていただけないでしょうか」
まさか呼び出されて、こんなことを言われるとは思ってもいなかった。
たまの休みで、俺はチャタをもふっていたんだぞ。邪魔をしないでほしい。
そして、答えは簡単だ。
「持ってませんので、無理ですね」
「そうですか……」
総理がとても残念そうな表情をするが、年配男性のそういう表情は可愛くない。
「ですが、手はありますよ」
「それはどういうことでしょうか?」
総理の表情が明るくなった。
「JDMAの幹部候補生の60人が、研修のために岐阜ダンジョンでレベル上げをしているのはご存じですか?」
「はい。伺っております」
「その中の1人が武器錬成というスキルを取得しました」
「そのスキルがあれば、ミスリルライフルを作ることが可能ですか!?」
「レベルを上げれば可能になります」
「そのレベルとは?」
「武器錬成だけにスキルポイントを振れば、最低でもレベル50ですね。しかし戦闘スキルを持たないと、さすがにレベル50まで上げるのは無理でしょうから、レベル60以上は必要になると思いますよ」
「かなり高いですね」
ミスリルゴーレムはレベル250のモンスターだ。そのことを考えれば、レベル50や60でミスリルの武器を造れるのだから、かなりお値打ちなスキルだと思うけどね。
「その人物をそのレベルまで上げていただくことは可能ですか?」
「本人次第でしょう。本人さえ良ければ、あとは自衛隊の部隊に放り込んでレベル上げの日々を送らせればいいのです」
「世渡理事がレベル上げを行っていただけないのでしょうか?」
「正直言って、相当な時間がかかります。その間、彼女だけに時間を割くのは現実的ではないですね」
俺のパーティーメンバーなら経験値1000倍の恩恵が受けられるが、それを知られるのはさすがに嫌だ。めちゃくちゃ面倒なことになりそうだからね。
「そうですか……。その人物の意志を確認する面接を行いたいと思います。担当の者を岐阜に送らさせていただきます」
「研修はあと2週間で終わります。そのタイミングでお願いします」
「承知しました。本日はお休みのところを、ありがとうございました」
転移で一瞬で移動できるから、総理と面談した30分くらいしか時間はかかっていない。それでも日曜日に呼び出されるのは、休日出勤を思い出してしまうので嫌だ。
しかし総理ともなると、日曜日も関係なく働いているんだな。
その数日後に、日本政府は米軍にミスリルライフルを貸し与えたが、返却されなかったことを公表した。
防衛大臣と官房長官が時間差で会見を行って、米軍とアメリカ政府を批判した。世界で1つしかないミスリルライフルを、いい加減に扱いやがってこの野郎的な会見だった。
日本政府がこれほどアメリカ政府に怒りをぶつけることなんて、かつてなかったと思う。
この強気の理由は世界に1つしかない武器だからというものだが、その裏事情としてあるのがダンジョンだと俺は思っている。
ダンジョンからは多くの資源が得られる。岐阜ダンジョンのような鉱物資源が多く採掘できるダンジョンもあれば、食料が得られるダンジョンもある。さらに言うとウランに変わる超エネルギー物質もある。しかも無害のエネルギー物質だ。
日本はダンジョンによって、物質的な懸念が解消される見込みが立ったのだ。
経済は物質的な懸念が消えたからと言って安定するものではないが、資源があることは武器になる。
ダンジョンは外国にもあるが、超エネルギー物質を産出するものが多い。これだけでも世界のエネルギー事情が変わってしまうと思うが、岐阜ダンジョンのような金属を産出するダンジョンは日本にしかない。
資源をダンジョンから得るとして、国防はどうするのだろうか? 自衛隊だけで国防は成り立たない気がする。米軍と仲違いしていいのだろうか? まさかとは思うが、国防で俺を頼らないだろうな。人の褌で相撲を取るのだけは止めてほしいと切に願う。
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