第20話_ダンジョンマスタールーム

 ■■■■■■■■■■

 020_ダンジョンマスタールーム

 ■■■■■■■■■■



 研修2週目が終わろうとしている。研修者たちのレベルは、班によってバラツキがあるものの、順調に上がっている。

 俺が受け持つA班のレベルは11。どんどんレベルが上がりにくくなっている。昨日からダンジョン内で野営をしてやっと地上へ戻ったところだ。


 座学が終われば、土日で休みになる。チャイムが鳴ってゾロゾロと研修者たちがプレハブの教室から出て来た。

 ゾンビのような緩慢な動きだから、疲れが溜まっているのだろう。


「気を抜くなよ。家に帰るまでが研修だからな」

 どこかの先生のようなことを言うが、気を抜くにしても遊ぶところがない。ネットは問題なく繋がっているが、町へ行くまでに1時間。歓楽街のある遊べる場所に行くまでに2時間近くかかるのだ。


 前回の休みはへとへとで動く気力もなかった研修者たちだが、今回は少し慣れたせいか遊ぶ元気はあるようだ。

「教官殿。どこかいい場所はないですか?」

 B班の40前後の男性が聞いて来た。研修者の中では最年長のかなり額が広い人だ。


「岐阜駅のそばに柳ヶ瀬という場所がある。岐阜で1番の歓楽街で歌謡曲にもなった場所だ」

「あぁ、あの歌ですか。聞いたことあります」

 かなり昔の歌だけど、よく知っているな。俺なんか日下のお婆さんからそういう歌謡曲があると聞いたことがあるだけで、どんな歌か知らなかったよ。


「教官殿もどうですか?」

「俺は色々忙しいから、いいよ」

「そうですか、残念です」

 そう言いながらも残念そうじゃないぞ、あんた。まあ、俺なんかが一緒に行っても、楽しめないだろう。


 遊びに行くやつらはバスに乗って出て行った。犯罪を犯さず、月曜日の朝8時30分にこの場所に居れば問題ない。大人なんだから、自分のことは自分で面倒を見てくれよ。


 さて、俺は久しぶりにダンジョンマスター用のマスタールームにやって来た。

 ダンジョンを踏破した直後、ダンジョンのことを色々学ぶために入り浸ったが、今はそうでもない。


「マスタ~。久しぶりなのです~」

 ダンジョンマスターである俺を補佐するフェアリー。性格が面倒臭い、口がとても悪い、性格も悪い妖精だ。

 ビューンッという感じで俺に飛びついてこようとする妖精。


「アンッ(パクッ)」

「っ!?」

 懲りない奴だ。


「チャタ、ペッしなさい」

「ペッ」

 ベチャッ。

 噛まないだけ偉いと褒めてやったほうがいいのだろうか。とりあえず、頭を撫でよう。俺も癒されるから、いくらでも撫でてやれる。


「うぅぅぅ……この駄犬がっ! 毎回私を涎でベタベタにしやがって、このクソ野郎! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね! いつか殺してやるからな!」

 惆悵ちゅうちょうではなく、怨毒えんどく意趣遺恨いしゅいこんといった悪感情を吐きまくる。

 さらに地面にツバを吐き、どこから出したのか妖精サイズのタオルで顔や体を拭く。風呂やシャワーをしたほうがいいんじゃないか?


 マスタールームは俺次第でいくらでも広くできるし、部屋も増やせる。実は風呂とトイレはかなり拘って設置した。

 風呂は温泉宿然とした石造りのものと、檜造りのものを用意した。本当は露天風呂が欲しかったが、ホログラムで色々な景色を映し出している。


 妖精は無視して掘り炬燵に入った俺は横になった。ここは田舎の冬を想定した部屋になっている。

 横浜生まれの横浜育ち。そんな俺でも掘り炬燵はいいと感じる。ほっこりする。


「癒されるわー」

「ますた~。酷いですよ、あの駄犬野郎は~いつも私をパクッてするんです~」

「そうだなー」

「そうだな~じゃないですよ~。私、いつかあのチン●スバカ駄犬に嚙み殺されちゃいますよ~」

「それはないと思うけどなー。チャタは遊んでいるだけで、妖精を食料だと思ってないから大丈夫だと思うぞ」

 むしろ、こんなのを食べたら腹を壊すって分かっているはずだ。


「ますた~。あの駄犬がそんなこと思っているわけないでしょ~」

「大丈夫だって」

「もう~、ますた~は~」

 寝転がっている俺の頭上をブンブンと飛びまくるから、目障りで仕方がない。蚊のように叩き落としたくなる。


「おい、パンツが見えてるぞ」

「もう~ますた~のえっち~」

「いや、見せてるのは妖精のほうだし」

「そんなことよりも~、いい加減に私に名前をつけてくださいよ~」

 チェンジを希望しているのに、名前なんかつけるわけないじゃん。


「えーっと、まあ、そのままでいいじゃん」

「よくな~いのです~」

「はいはい。いつかね」

「ちっ」

 今、ちって言ったよね? そういうところなんだよ、妖精さん。本当にチェンジしてほしい。


 妖精は置いておいて、今回の研修者たちのステータスを見ていく。俺、これでも責任感あるんだ。


 このダンジョンに1度でも入れば、そのステータスはいつでも見ることができるようになる。取得できるスキルの内容も見ることができる。ダンジョンマスターの特権というやつだ。


 60人のレベルは10前後。主に鑑定のような業務に有用なスキルを取得してもらった。これは強制だ。

 JDMAで働く条件としてレベル15まで上げることと、JDMA(俺たち)が指示するスキルを取得すること。レベルが15に達しなかった場合は不合格になってしまうが、取得したスキルに関してのクレームは受け付けない。もちろん保障もしない。そういう条件で公費で研修を行っている。


「お、こいつは」

 取得可能スキルは全部提出しなければいけないが、1人だけ正直に提出してない奴が居る。

 月曜日にもう1度確認して情報を提示すれば良し。そうでなければ、こいつはアウトだ。


「大槻さんにメールしておこう」

 このダンジョンマスタールームでは、スマホやネットが使える。やろうと思えば、モンスターが居る各エリアでも使えるようにできるから、繋げてやった。これで岐阜ダンジョン内ではリアルタイムでネット配信ができる。


 ダンジョンの中は閉鎖された空間だ。やろうと思えば、人殺しもできる。しかもダンジョンの中の死体は3時間でダンジョンに吸収される。

 ネット配信がリアルタイムでできれば、バカをする奴が少なくなると思ったんだ。

 何か問題があったらネットは切ってやるが、これくらいで問題になることはないだろう。


 他のダンジョンのことは知らない。俺の管理下にないダンジョンのことまで面倒見れないし、見る気はない。そこまで責任は持てない。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る