第17話_米軍の逆襲

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 017_米軍の逆襲

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 米軍と国防省経由で送られてくる映像を、岐阜支部の幹部3人と一緒になって見ている。

 丑木さんのノートPCからウチのリビングの大画面テレビに繋いでいる。これ、真上からの映像だから、衛星が撮影しているんだと思う。


「さすがは米軍だ。衛星の映像がとてもクリアですね」

 俺の呑気な声に誰も反応しない。緊張を和らげようとしただけなのに……。


  チャタがドンマイという顔で俺の膝の上に乗って来た。お前は、俺の癒しだよ。でも最近ちょっと重いぞ。最近計ったら10キロを超えたんだよな。日下のお婆さんに手渡された時は、とても軽かったのにな。

 そんなチャタを撫でながら、テレビ画面を見つめる。以前はゴワゴワの毛だったが、今ではフワフワだ。モフモフですよ。


「見たところ、Gランク以下のモンスターばかりですね」

 丑木さんはスキル・鑑定を取得している。幹部になるということは、それなりのレベルになってそれなりのスキルを取得してもらう必要がある。彼女は喜々としてモンスターを狩っていた。

 オタクというのはこういうものなのかと、レベル上げにつき合った時に結構引いた記憶が新しい。


「シアトルは人型のモンスターばかりなんですね」

「そうみたいですね」

 丑木さんの声に、大槻さんが答える。


 アメリカにあるダンジョンの場所は、ネットなどに上がっている。だけどダンジョンの情報はまったくない。アメリカ政府が意図的に隠していて、日本政府もどんなダンジョンがあるか把握してなかった。


「あの赤いオーガのレベルは180もあります。世界最強の米軍でも、あれを倒すのは大変そうです」

 赤いオーガはその太い腕で大木を薙ぎ払い、20ミリ機関砲を受けても傷1つない。米軍は撤退を余儀なくされ、後退が続く。


「市街地の避難が完了しているといいのですが」

 一見すると相田さんは現地の人のことを心配しているようだが、彼女はそんな人ではない。相田さんは経済活動のことを心配しているのだ。この人は経済以外のことにあまり興味を示さない。

 相田さんは今回のことで経済が悪化することを懸念している。逆にこのことで日本経済や俺たちに良い効果があるのなら、シアトルが滅んでも構わないと思っている。相田さんとは、そういう女性なのだ。


 こういったドライな考えをした人、俺は好きだ。我が道を行く感じがいい。だからこそ、俺は彼女を幹部としてこの岐阜支部に迎えた。


「もうすぐ市街地ですが、米軍はどうするつもりでしょうか?」

「M256(44口径120ミリ滑腔砲)を受けてもピンピンしていますから、非常にマズいことになりかねませんね」

 丑木さんと大槻さんの話を聞いていて、俺は思い出した。たしかにこれまでの武装では赤いオーガに勝てないと思うけど、米軍があれを入手していたら別だ。


 そこで俺のスマホが鳴った。表示は袴田総理だ。

「もしもし、世渡です。……はい。……はい。はい、構いません。あれはすでに政府のものですから、総理の判断で使用ください」

 俺が考えていたあれのことだった。総理は律儀に俺に使用許可を求めてきたが、もう俺のものではなく日本のものだから総理の自由に使ってもらえばいい。


「あれのことですか?」

 大槻さんが聞いてきたので、俺は頷いた。


「今から急いで空輸するとしても、シアトルまで10時間はかかりますね」

 こればかりはどうしようもない。俺でもシアトルには転移できないからね。そもそも、シアトルなんて行ったことないし。


「シアトルのことはアメリカ政府と米軍に任せ、通常業務に戻ってください。明日には、研修者が来るんですよね」

「はい。明日の昼には60名の研修者が到着します」

「大槻さんたちに任せておけばなんの問題もないでしょうが、不備がないか再度確認しておいてください」

「「「はい」」」

 明日から日本ダンジョン抑制機構の各支部に配属される人たちが研修のために、ここ岐阜支部にやってくる。各支部の幹部候補者たちだ。





 翌朝、米軍とモンスターとの戦いはまだ続いていた。

 残っているモンスターはGランクとHランクだ。レベルで言うと100から200といった辺りである。

 米軍の兵士がどれほどレベルを上げたか知らないが、さすがに100を超える兵士はいないと思う。


 6体のオーガが戦車を持ち上げて、投げる光景はなかなか見ものだった。米軍の戦車は軽く50トンはある。6体とは言え、50トンを持ち上げることができることに驚きだ。


 亀のようにひっくり返された戦車は、起き上がることはできない。その戦車にオーガのパンチが何度も炸裂して、装甲がボコボコになっていく。

 戦車の中に居る兵士は、生きた心地がしないだろうな。


「ん、米軍が戦線を押し上げた?」

 画面の中が慌ただしくなった。どうしたのかと見ていると、オーガの頭が弾け飛んだ。

「なるほど、あれが届いたわけか」

 2体目のオーガの頭も弾け飛び、他のオーガが何が起きているのかと周辺を窺う。


「あ、オーガが倒されてます。あれが届いたようでね」

 丑木さんが入ってきた。休憩のようだ。彼女はなぜか俺の家で休憩する。中身は腐っていても癒しを与える容姿だからいいけどね。


「米軍の逆襲ですね!」

 オーガを屠ったのは、ミスリル製のライフルだ。ミスリルは鉄よりも丈夫で大きな爆発力にも耐える。そしてオーガの頭を弾き飛ばした弾丸もミスリルだ。その破壊力は鉛の弾よりもはるかに高く、GランクやHランクのモンスター程度なら軽く屠れる。


 ただしライフルは1挺しかないし、弾丸も150発しかない。アメリカに貸し出したはいいが、そこで借りパクされたら笑えないことになる。

 そこら辺は政府同士でしっかり約定ができていると思いたい。


 このミスリルライフルは裏山のダンジョンを踏破した時、最後のボス部屋のゴーレム祭りでドロップしたアイテムボールの1つから得たものだ。まあ、造ろうと思えば、1挺でも2挺でもいくらでも造れる。俺、ダンジョンマスターだから。


 

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