第16話_JDMA岐阜支部

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 016_JDMA岐阜支部

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「あぁぁぁ……新米はぁ美味いなぁ!」

「アンッ」

「そうか、チャタも美味いか」

 新米のご飯に鰹節をかけてチャタにも出してやったら大喜びだ。パクッパクッと豪快にがっついている。


「それでこそ男の食い方だ!」

 新米には辛子明太子が一番合うと思う俺は、博多の有名店のものを取り寄せている。

 辛子明太子はビールのあてにも、ご飯のおかずにもなる至高の逸品である。


「問題は美味すぎて箸が止まらないところだな」

 少しの辛子明太子を箸の先でつまみ、それを熱々ご飯の上に載せる。あとはかき込むのみ! 男は黙って、ガツッガツッ!


 さて、2合炊いた新米がなくなってしまったから、休憩がてらあの話をしようかな。

 日本ダンジョン抑制機構の理事たちは会合を重ね、組織が形になってきた。

 同時にインフラ整備が急ピッチで進んでいる。

 ウチの周囲の土地には宿泊用設備、コンビニ、食堂、そして日本ダンジョン抑制機構の出先機関が整備されつつある。


 短期間でよく整備したと思う。国交省出身理事を少し見直してしまった。

 道幅の拡張についても進んでいる。土砂崩れが起こりやすそうな場所はコンクリートで固め砂防堰堤なども作り、台風などで道が塞がらないように配慮した計画だ。


 今までは沢から水を引いていたが、ダンジョンの入り口のそばにろ過装置があるため水道に変えることになった。といっても貯水槽を造ってそこから各施設や家に水を送るものだ。

 麓から水道を引くのは現実的ではなく、このような水対策が行われた。


 ご近所さんの土地にも色々な建物が建っていて、皆さんほくほく顔だった。しかも食堂はご近所さんが始めたもので、集落のお婆さんたちが田舎料理を振舞っている。これがなかなか美味しくて人気になっている。自衛隊員を含めて結構な繁盛具合だ。

 独り身の俺としては、食堂があるのは助かる。頼めば弁当も作ってくれるから、本当に便利に使わせてもらっている。


 スマホから着信音が鳴る。

 そろそろ日本ダンジョン抑制機構の岐阜支部の会議がある時間だから、気を利かせて教えてくれたのだろう。


「もしもし」

 電話に出たら、副支部長の声がした。会議の時間だから、俺の家に集まるそうだ。

 日本ダンジョン抑制機構岐阜支部はプレハブだから、会議を行う部屋がない。会議くらいなら俺の家ですればいいということで、貸し出している。


「はい、お待ちしてます」

 コーヒーと紅茶を用意し、岐阜支部の幹部たちを迎える準備だ。

 俺としてはビールでもいいのだが、会議でビールを出したらアウトだろう。


「「「お邪魔します」」」

「はーい。入って奥へどうぞー」

 チャタが3人の幹部を奥の和室に案内する。和室にはちょっと大きめのテーブルを設置してある。

 お尻を振りながら案内するチャタに、幹部たちもメロメロだ。


 コーヒーと紅茶をお盆に載せて、俺も和室へ向かう。

 幹部の3人は40代渋面の大槻おおつき副支部長、見た目20代だけど実は40近い美女である相田あいだ経理部長、そして超可愛い丑木うしき総務部長。


 大槻さんにコーヒー、相田さんと丑木さんに紅茶を出す。

「「「支部長。いつもすみません」」」

 俺は日本ダンジョン抑制機構の理事でありながら岐阜支部の支部長をしている。実務がある支部長は嫌だと言ったんだけど、モデル支部にしたいからと押し切られてしまった。

 そこで副支部長以下、優秀な人をつけてくれと頼んだ。俺がほとんど実務をしなくていいようにね。


 俺自身も席につくと、チャタが足元で丸くなる。

「では、さっそく会議を行います」

 大槻さんが進行役で丑木さんが書記、俺と相田さんは会議では特に何もしない。何もしないと言うと語弊があるかな。ちゃんと意見は言うよ。


「先週の鉱物回収状況です」

 現在はまだ自衛隊員しかダンジョンに入っていない。自衛隊員たちはツルハシや小型の重機を持ち込んでダンジョンの壁を掘削して鉱物を回収している。


「第1エリアから鉄が1258キログラム、銅が459キログラム、銀が35キログラム。第2エリアから鉄が8532キログラム、銅が3559キログラム、銀が1020キログラム。第3エリアからは───」

 まとめると鉄が12万5975キロ、銅が7万5621キロ、銀が2587キロ、金が152キロ。他にレアメタルが合計で3000キロほど。浅いエリアなのにこれだけの採掘があった。


 ダンジョン内で採掘される金属は、不純物が混じっていない高純度のものばかりで金だけでも時価で12億円を超える額になる。1週間で12億円。人員さえ揃えばもっと採掘できるから、とても美味しいダンジョンだ。

 自衛隊の消耗品を賄って余りある成果だと思うし、崩落の心配もない。さらに時間経過と共に鉱物は再生する。至れり尽くせりだな。


 10分隊が交代制でこれだけの採掘をしている。しかもモンスターを倒しつつだから、かなり儲けられるダンジョンになっている。

 ダンジョンからこういった鉱物が採掘できることが世の中に知られたら金などの価格は下落するかもしれないが、それはある程度許容するしかない。

 それでも鉄や銅などの金属が豊富に産出されるのは、資源の乏しいこの国にとって大きなことだ。


「自衛隊だから重機を持ち込めますが、民間ではそうもいかないと前回の会議で提議されました。そこで重機や運搬車両の貸し出しについての検討内容を報告します」


 裏山のダンジョンは、車両などを持ち込めるだけ広い。だから、岐阜支部で重機のレンタルをしようという話になった。

「第1エリアのボスを倒した方を対象に、進んだエリアに合う重機や運搬用車両を貸し出します」

 第1エリアのボスを倒さないと、クラスを得られない。クラスを得た者だけに、そういった重機を貸し出すということだ。


「全てが初めてのことですから、運用しつつ不具合があったら修正したいと思います」

「それでいいと思います。貸し出す重機と車両を速やかに集め、車両はモンスターの攻撃を受けても大丈夫なように装甲の強化を施してください」

 公道を走るのではないから、特攻野郎〇チームのようにしっかり改造してくださいね。


「承知しました」

 鉄だと1カ所の採掘ポイントから100キロくらいは採掘できる。すぐに荷物が一杯になってしまうため、こういった救済処置が必要になる。


 スキル・アイテムボックスを取得すればこういったことも解消できるけど、取得できるスキルには個人差があるから絶対にアイテムボックスが取得できるとは限らない。

「また、アイテムボールから得られるアイテムについてですが───」


 俺がOKを出せばそれで決まる。3人の意見を聞きつつ可否を判断している。暴君になるつもりはないから、ちゃんと意見を言ってもらう。


「最後になります。本部から通達がありました。ダンジョンを管理する日本ダンジョン抑制機構の下部組織として、日本ダンジョン管理組合、Japan Dungeon management associationが設置されます。呼称はJDMAとするとのことです」

「また無駄な役職を増やそうというのか。天下り圧力が強いんだろうな……」

 国と民間の第三セクターである日本ダンジョン抑制機構、その下部組織であるJDMAも第三セクターになるだろう。そこに一定数の天下り枠を作れと、官僚たちが圧力をかけたというわけだ。


「圧力がかかっているのは知っていたが、理事たちはそれに屈したか」

「仕方がないでしょう。彼らも官僚ですから」

「大槻さんも官僚でしょ?」

「ははは。私はとっくに出世を諦めた窓際族ですから」

 大槻さんは厚生労働省の課長級だった。


「もう野心はないのですか?」

「第2の消えた年金問題で、私の出世の道は閉ざされましたから」

 今世紀初頭に年金の問題が発生し、それから数十年経過した20年程前にも同じようなことが発生した。

 この問題が起こって厚労省はてんやわんや。入省したばかりの大槻さんも責任を取らされてしまったらしい。それ以来、窓際街道一直線だったと聞いている。それなのに課長級になっているのだから、優秀なんだと思う。


 それにしても入省したばかりの人に責任を押し付けるとか、腐っているし改善する気がないのがよく分かる。

 上級国民(官僚たち)の身は護るけど、庶民(国民)なんてどうでもいいという感じだ。呆れて物も言えない。


「続きをいいですか」

「どうぞ」

「では、ダンジョン内に入る民間人のことをダンジョンハンターと呼称することになりました。JDMAはダンジョンハンターの互助組織として支援を行うことになります」

「それは、妥当な線だな」

「でも、平凡すぎます。それではラノベと同じです」

 そう言ったのはノートPCのキーボードをカタッカタッ叩いていた、書記の丑木さんだ。彼女は所謂オタク系女子である。彼女を採用したのも、オタク系の知識が豊富でダンジョンのことを理解しているからだった。


「そう言ってあげないの。本部にはラノベを読むような人はあまり居ないからね」

 一流国立大卒のエリート様たちが、ライトノベルを読んでいる可能性はかなり低い。実際、俺と話が合わないところが多かった。だから、丑木さんを採用したのだ。

 頭の固いエリート様たちと違って彼女は柔軟な考え方をしている。ダンジョンハンターと接する受付の責任者としてもってこいだと思ったんだ。


 今日の会議は終了した。議事録は丑木さんがまとめて、あとからメールで送ってくれる。

 そこで大槻さんのスマホが鳴った。

「何だって!?」

 大槻さんが怒鳴るように声を出した。いつも冷静沈着な大槻さんが声を荒げたことに、俺たちは少し驚いた。


「支部長、大変です」

「どうしたの?」

「アメリカシアトルのダンジョンが、ダンジョンボンバーを起こしました」

「アメリカ政府には、日本政府からダンジョンボンバーの条件を伝えていたよね?」

「はい。アメリカ政府に伝えていましたが、シアトルのダンジョンを所管する州軍がモンスターの駆除をサボっていたようです」

 奥多摩のあの光景はネット上に拡散しているし、州軍ならちゃんとした情報を受け取っていたはずだ。その上でモンスターの駆除をサボるとか、信じられない暴挙だ。


 

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