第15話_日本ダンジョン抑制機構

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 015_日本ダンジョン抑制機構

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 日本の政治家には珍しく、総理の動きは早かった。

 ダンジョン内のモンスターを間引くために、民間人にも協力してもらう法案を国会に提出して通過させた。

 その法案は、民間と国の第三セクターを組織するもので、モンスターを狩った数に対して報酬を出し、持ち帰ったアイテムなどを買い取るというものだ。


「それで俺にその組織に参加しろと?」

「はい。総理がどうしても世渡様に協力をと」

 黒服にサングラス。どこのスパイかと思ったら、防衛省のお役人さんだった。


「お飾りですか?」

「世渡様が望むポストを用意します」

「それじゃあ、拒否権を持つ幹部で」

「拒否権と申しますと?」

「その組織の決定を覆せる権利です。それがもらえるなら、参加します」

 こんな無茶な要望を聞くわけがない。そう思いながら提案した。


「では、そのように取り計らいます。新組織へ参加くださり、ありがとうございます」

 えぇ……。拒否権だよ。俺がノーと言ったら、全てが覆るんだよ。いいの?


「本当にいいんですか?」

「総理は世渡様の条件を全て飲むと仰られておりました。もちろん、犯罪にならない範囲ではありますが」

「そんなに買い被っていただけて嬉しいですけど、あとが怖いですね」

 黒服さんはにっこり笑みを浮かべた。それが怖いんですけど。


 あれよあれよと話が進んで、俺は新設される組織の理事に名前を連ねた。監査担当の理事ということで、理事長と同格とかわけの分からないものだった。




 俺の家には少しだが田んぼがあり、今日は米の収穫に精を出した。

 ご近所さんたちに教えてもらいながら、刈った稲を干していく。もうすぐ新米が食べられる。自分が育てた米だ。楽しみだと頬が緩む。


「チャター。おいでー」

「アンアン」

 裏山のダンジョンから出て来た自衛隊員に愛嬌を振りまいていたチャタを呼んで家に入る。


 裏山のダンジョンは陸上自衛隊の10個分隊が交代で入って、モンスターを駆除している。このダンジョンのダンジョンマスターが俺だとは知らない自衛隊員は、日々モンスターの駆除に明け暮れている。

 俺はそういった自衛隊員と挨拶するくらいだが、チャタは自衛隊員たちをその愛らしい容姿で癒している。


 食事をしたらネクタイをしてスーツで身を包む。

 チャタは縁側で日向ぼっこしながら、家を守ってくれる。

「俺は東京に行ってくるよ。夜には戻ってくるからな」

「アン」

 チャタは欠伸をしてから返事をし、また丸くなって寝に入った。それを見届けて、俺は転移で東京に移動した。


 東京某所。新組織、ダンジョン抑制機構の本部を置くビルの中。

 理事長の高台寺飛鳥こうだいじあすかは50代の女性で、法務省の官僚だったけど出向という形をとっている。


 他に5人の理事が居て、俺を含めて7人の初会合。初顔合わせということで、理事長から挨拶が始まる。

 事前に聞いていたように、俺以外は官僚ばかりだ。民間人を入れても、最初は役に立たないと思ったようだ。俺は民間人だけどね。


「世渡丈二です。岐阜県在住です」

 簡単に挨拶する。特に反応はない。俺のことなど眼中にないという感じかな。

 サラリーマン時代はパワハラ上司によって鍛えられて俺だ、そんな無視など通用しないぞ。


 初会合は6人の官僚たちが、スムーズに進めた。本当に俺のことはアウトオブ眼中だ。


「ダンジョンへ通じる通路の確保、宿泊設備の確保が優先されます」

 国交省出身の理事がインフラ整備の話を出した。このことは俺も考えていたことだから、特に問題はない。


「直ちに入札を行い、インフラ整備に入りたいと思います」

「ちょっといいですか」

 挨拶以外で始めて発言する俺に、理事たちの視線が集まる。


「入札になると、それだけで時間がかかります。どれだけの時間をかけるつもりですか?」

「入札までに最低でも3カ月ほどです」

「話になりません」

 俺の言葉が気に入らなかったようで、理事は鋭い目つきになる。


「現状、ダンジョンボンバーは自衛隊が抑え込んでいますが、数が足りません。宿泊施設はプレハブでもいいので半年以内に100人以上が泊まれる施設を各ダンジョン付近に整備するべきでしょう。道路の整備は突貫工事すると、土砂崩れなどの危険性もありますからその後で構いません。今は何よりも宿泊施設を用意するべきです」


 ダンジョンが出現した場所は、どこも田舎だ。主に山間部だから宿泊設備が足りない。俺の家の裏山のダンジョンは、一番近い宿泊施設から自動車で30分はかかる。そんな不便な場所にあるんだ。


「プレハブでも半年で用意するのは難しいです」

 できない理由を並べていく、国交省出身の理事。官僚の十八番おはこ、否定的な理由を並べて今までの慣例を踏襲させようとする。

 俺を除いた6人の理事は、どうせ東大卒の超エリート様なんだろ? できない理由を並べるよりも、やるための案を出せよな。


「あなたはなんのために、ここに居るのですか? それをするために居るのではないのですか?」

「っ!?」

 リタイアした俺が、官僚たちに配慮する意味はない。正論を吐かせてもらうぜ。


「やる気がないのであれば、理事など辞めたほうがいいですよ」

「世渡理事、それは言い過ぎではないですか」

 険悪な雰囲気になったから、理事長がたまらず口を出して来た。


「理事長はあの一件で自衛隊員や民間人が何人死んだか知ってますか? ここに居る理事次第で、またダンジョンボンバーが発生するのですよ。できないではなく、やってやるという意志がないのであれば、この場を去るのが当たり前ではないですか?」

 俺の言葉を聞いて何も感じずに居座ろうとするなら、物理的に排除するまでだ。


「世渡理事の仰る通りですね。インフラを速やかに進める案を出しあおうではないですか」

 防衛省出身理事が口を開いた。この中ではダンジョンボンバーで最も被害を受けた省庁が防衛省だ。国交省や農水省も被害はあったが、それは管轄している土地に対してで人的被害ではないから他人ごとなんだと思う。


 日本ダンジョン抑制機構を天下り先だと思っている人が居るなら、今すぐ辞めてほしいものだ。

「分かりました。すぐに取りかかれる案を考えます。ただし、費用は度外視になりますよ」


 今すぐ発注してすぐに納品される物資ばかりではないのだから既存の着工中事業に対して、建設資材を先に融通してもらわなければならない。そのための根回しもあれば、費用を負担しなければいけない場合もある。


「仕方がないでしょう。その費用を捻出するように働きかけるのも私たちの仕事です」

 理事長が財務省出身理事に目を向けると、その理事はため息を吐いて頷いた。まあ、がんばってくれ。そのためにあなたが居るのだから。


 話は進んで最後に民間人をダンジョンに入れてモンスターを狩ってもらうためのルールの話になった。

「命を懸けてモンスターを狩る以上、それなりの報酬を用意しなければいけないでしょう。しかし、自衛隊員と大きくかけ離れた報酬では、いけないと思います」

 経産省出身理事がそう言うと、皆が頷いた。


「自衛隊員がどれほどの手当をもらっているか知らないですが、むしろ自衛隊員の報酬を上げるべきでしょう」

 俺がそう言うと、またかという目で見られた。


「たとえば、理事長ならいくらもらったら、命を懸けてモンスターと戦いますか?」

「私ですか……想像したことないですね」

「では、自衛隊員の月給が危険手当含めて仮に30万円だとしましょう。理事長はその金額でモンスターと戦いますか? 皆さんはどうですか?」

 皆難しい顔をしてるけど、それが当然の感情だと思う。


「俺なら月収30万円で命を懸けて戦えと言われても、戦わないですね。自衛隊なら国から武器や必要な物資が支給されますが、民間人はそうじゃないですよ。経費も全て自己負担です。浅いエリアでお茶を濁す人に大金を払う必要はありませんが、報酬はできる限り高くしなければいけません」


 俺の時は10日という制限があったため、踏破以外のことは考えていなかった。だけど、ダンジョンの中には多くの資源がある。お宝があるんだ。

 俺が管理する裏山のダンジョンの場合、色々な鉱物が採掘できる。鉄、銅、銀、金、それ以外にも多くのレアメタル、そして地球では採掘できなかったミスリルなどの特殊な金属も採掘できる。


 日本は資源の乏しい国だが、ダンジョンからそういった資源が採掘できるんだから、モンスターを狩りつつ資源を採掘すればいい。そういったものを買い取る制度を作るべきだ。そうすれば、民間人に多くの報酬を支払える制度になる。


 

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