第14話_面会

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 014_面会

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 自衛隊の輸送機に乗るの初めてだ。民間人の俺が自衛隊機に乗ることなんて、ないと思っていた。

 自衛隊機に乗るのも悪くはないが、どうせならファーストクラスにしてほしかった。まさか輸送機とか、考えもしなかったよ。

 それと自衛隊員が俺と目を合わせてくれない。傷つくわー。


 着陸して後方のハッチが開いていく。自衛隊員が目も合さずに安全ベルトを外してくれる。

 ハッチを歩いて降りて、リムジンのような黒塗りの高級車に乗せられる。

 2人の自衛隊員が一緒に乗り込むが、一切喋らない。時間を持て余すので、何か喋ってくれないかな。


 首相官邸に横づけされると、今度はスーツの人が案内してくれるようだ。この人も目を合わせようとしない。俺、サルじゃないから、目を合わせた相手に飛びかかったりしないよ。


 広い会議室のような場所に案内される。誰も居ないけど、すぐにぞろぞろ入って来た。

 内閣総理大臣が俺の目の前に座り、その左右に10人が座る。自衛隊の偉いさんも居るようだけど、総理以外は顔も知らない人たちばかりだ。


「わざわざ来てもらって悪かったね」

 目の前と言っても、俺と総理の間には5メートルくらいの距離がある。これ、俺を警戒してのことかな? まあいいや。


「構いませんよ」

 総理は俺に目を合わせて、言葉を紡いだ。やっと目を合わせてくれた人が、この国のトップですよ。


「私は内閣総理大臣をしている袴田檀次郎はかまだだんじろうです。知っているかな?」

「これでも社会人ですから、総理の名前と顔くらいは知ってます。あ、俺のことはご存じですよね? 知らないのに俺を呼ぶことはないでしょうから」

「ええ、存じてますよ。世渡丈二さん」

 モンスターを倒す俺を見ていたのに、こんな5メートルしか離れてない場所で向かい合うんだね。俺がこの距離を一瞬でゼロにできることは、理解しているはずだ。

 今どきの政治家に胆力なんかないと思っていたけど、この総理はなかなかどうして。


「単刀直入に聞きますが、貴方が奥多摩のダンジョンから出て来た化け物を倒してくれた。そういうことでよろしいですね?」

 本当に単刀直入だ。政治家ってのは、もっと回りくどいものだと思っていた。


「はい、そうです」

 俺の返事を聞いて総理は声を出さなかったが、周囲の10人は声を出した。こんなに簡単に認めると思っていなかったのかな?


 総理が立ち上がって、深々と頭を下げた。

「世渡さんがあの化け物を倒してくれなければ、もっと大きな被害があったでしょう。国民を代表して感謝の意を表します」

 建前なのかもしれないが、自分の年齢の半分も生きていない俺なんかに頭を下げるのか。意外と総理は人格者なのかもしれない。


「大したことはしてませんから、気にしないでください」

 そう、俺は大したことはしていない。あの程度のモンスターでは、俺に傷をつけることさえできないのだから。


「そう言っていただけると、助かります」

 総理は座り直し、真っすぐ俺を見た。これまでは世間話で、これからが本題という目をしている。


 水を一口含んだ総理が、口を開く。

「世渡さんのその力は、ダンジョンで得たものですか?」

「そうです」

 俺、正直者だから嘘は言わない。


「一体どれくらいのレベルなのですか?」

「それは秘密です」

 正直者だけど、なんでも話すわけじゃない。


 そんな俺の返事に不満そうな表情だったのは、総理以外の人たちだ。この人たち、なんのために居るのかな。俺の話を聞いて、総理に何かしらの助言をするのかな。

 俺から見れば無駄に映るこういう人たちだけど、国を導くのに必要なのかもしれない。


「では、そこまでのレベルになるのに、どれほどの時間がかかりますか?」

「それは個人差があると思います。俺と他の人が同じだとは思わないほうがいいと思います」

「だが、1つの指標になると思う」

 指標ねぇ。俺の場合、その指標にさえならないと思うけどね。


「申しわけないですが、指標にはなりません」

「どういう意味でしょうか」

 総理は極めて丁寧な対応を心がけている。俺を怒らせてはいけないと、考えているのがよく分かる。


「そのままの意味です。俺に関しては、他の人が目標にしたり指針にしたり指標にできるものではない。そう思ってください」

 その言葉で総理は諦めてくれたようだ。

 俺のレベルやあの10日間の話をする気はないから、他の質問にしてほしい。


「では、あの化け物がダンジョンの外に出てくるのは、普通にあるのか教えてもらえますか」

「あの現象はダンジョンボンバーというものです。ダンジョンボンバーはダンジョン内のモンスターの数が、一定数以上になると発生します。ですから、封鎖せずにダンジョンの中に入ってモンスターを狩ってください」

「一定数というのは、どのくらいですか?」

「ダンジョンによって違いますし、それを知ったからと言って、総理にダンジョン内にどれだけのモンスターが居るか知る術はないのでは?」

「君、総理に失礼ではないか」

 総理の右横に座る人物が鋭い視線で俺を見る。


「何を失礼だと仰るのか、理解できません」

「そういう物言いだ」

 その人物はバンッと机を叩いた。今までそれで皆が委縮したのかもしれない。

 サラリーマン時代にもこうやって声を荒げて部下を恫喝する上司が居た。そういった恫喝が、非生産的だというのをまったく分かっていない人物だった。


「それでは俺はここで失礼します。総理にこれ以上失礼をしてはいけませんから」

 俺は立ち上がって、会議室から出て行こうとする。

 この人物は、俺が総理に呼ばれてここに来たということが理解できていない。俺は客であり、あんたたちは俺に教えを乞う立場だ。政治家か役人か知らないが、いつまでもその立場を弄んでいられると思ってはいけないと思うぞ。


「待ってくれ。矢畑大臣、失礼なのは君のほうだ。世渡さんに謝罪したまえ」

「総理!」

 矢畑大臣……大臣、大臣……矢畑……矢畑大臣……ああ、防衛大臣か。

 矢畑大臣は奥歯をギリギリと噛み、と口惜しそうに「すまなかった」と言った。


 こんな気持ちのこもっていない謝罪が通用するなら、人間同士の争いはなくなるかもしれないな。

「総理は賢明な方ですが、その周囲の方が賢明な方とは限らないようですね」

「くっ」

「世渡さんも、そのように煽らないでいただきたい」

「本当のことを言われて怒るくらいなら、日頃からその言動を改めるべきだと思います」

「その辺で。矢畑大臣のことは、私からも謝罪するから許してほしい。この通りだ」

 総理が頭を下げると、矢畑大臣も渋々下げた。


 総理が頭を下げる必要はないが、上司として部下の言動に責任があると言われればその通りだ。

「俺も少し大人げなかったですね」


 席に戻った俺は、ダンジョンについて語った。

「ですから、早くダンジョンの封鎖を解いて、ダンジョン内のモンスターを狩ってください。奥多摩のダンジョンのようにダンジョンボンバーがまた発生することになりますから」

「本日はとても有意義な話がお聞きできました。感謝します、世渡さん」

「同じ過ちが繰り返されないことを、願ってます」

 総理との面会は終わった。

 久しぶりに東京に出て来たから、横浜の家に顔を出そうと思う。



 ▽▽▽



「彼の話、全部信じていいのでしょうか?」

 廊下を歩きながら陸上幕僚長がそう口にした。


「信じるしかあるまい。彼の手紙は君も見ただろ? 彼の言っていることは、これまで全て的中してきた。我らにとっては未来のことが、彼には見えている。そうは思わないか」

「総理の仰る通りです」

「であるなら、すぐにダンジョンの中に自衛隊員を送り込んで、モンスターを狩ってほしい。浅いエリアであれば自衛隊の装備が十分に通じると彼は言っていたからな」

「直ちに部隊を投入します」


 もう二度とあのような悲劇は繰り返してはいけない。彼の言ったことを信じて進むしか、我々に道はないのだ。


「しかし自衛隊をダンジョンに投入したままでは、国防に不備が生じますが」

「それも彼が言っていたではないか。民間人の力を借りるしかないだろう」

「国民はそれで納得しますでしょうか?」

「すると思う。しなければ国防費や自衛隊員を増やしてダンジョンのモンスターを狩るしかない。そうなれば税率を増やすことになることになる。国民はそれらを両天秤にかけなければいけない。国民は増税よりも民間ダンジョン探索者のほうを選ぶと思うがね」

「増税を毛嫌いする国民性ですからね」

「タイミングとしては今が一番いい。あの惨事を忘れる前に、法案を通したい。速やかに草案を作成してくれたまえ」

 矢畑大臣と国防省の幹部たちにそう指示し、私は執務室へ入った。


 

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