第13話_内閣総理大臣

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 013_内閣総理大臣

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 なんだあれは? 私は何を見ているのだ? 特撮? そんなわけがない。この映像は自衛隊から直接送られてきているものだからだ。


「……り……うり……総理!」

「む、何かね、官房長官」

 私を呼んだのは、15年来の付き合いになる赤羽官房長官。私が総理になった時から2度の内閣改造を行ったが、彼だけは官房長官の職を全うしてくれている。


「あの者はなんでしょうか?」

「私のほうこそ、教えてほしいよ」

 私と官房長官は防衛大臣を見た。防衛大臣は顔を横に振る。


「誰か、あの人物……と言っていいのか分からないが、知っている者は居るかね?」

 私の問いに答える者は居なかった。


「総理、あれを!」

 自衛隊の陸将がモニターを指差した。モニターを見ると、件の人物が巨大なドラゴンと思われる生物を斬り裂いた。まさに一刀両断だった。


10式ひとまるしきの44口径120ミリ滑腔砲を受けてもピンピンしていた化け物が……」

 陸上幕僚長が啞然としている。その気持ちは分からないではないが、陸上自衛隊をまとめ上げる立場にある君がそれでは困るよ。


 モニターの中では、あの人物が他のドラゴンを倒していく。どれも瞬殺で、最後に残ったミイラ男も真っ二つにした。

 誰もが声を失う圧倒的な武力だ。自衛隊が多くの被害を出して、まったく倒せなかった化け物どもを一瞬で倒したのだから無理もない。


「防衛大臣。あの人物に会いたい。すぐに現場に連絡を」

「は、はい。あっ……」

 モニターに映っていたその人物がどこからか黒い外套を出して、それを纏うと姿を消した。


「直ちに彼を捜すのだ。なんとしても私の前に連れて来てくれ」

 私は彼の捜索を指示した。

「あの人物は、化け物への対処方法を知っている。それを聞きたい」


 あの日から3日が経過した。民間人132名、警察官58名、自衛官355名が犠牲になった大惨事の後始末に追われる日々だった。

 あの人物のことはまだ掴めていない。だが、あの人物の情報が思わぬところから上がってきた。


「これはどういうことかね、国交大臣」

 ダンジョンが出現する前から、国交省にダンジョンの出現を預言するような手紙が届いていたらしい。

 私がそれを知ったのは、防衛大臣宛てに届いた手紙だった。その手紙には、これまで国交省にダンジョンの情報を送っていたが、総理の元に届いてなかったようだから防衛大臣宛てに手紙を書いたとある。


 その手紙にはダンジョンのことについて色々と書いてあり、その中にはダンジョンに入らなければ知りえないこともあった。

 防衛大臣からその手紙を見せられた私は、あの人物が書いたものだと思った。そして国交大臣を呼び出して手紙を見せた。


「私は何も知りません」

「その手紙に書いてあることが本当なら、国交省の責任は非常に重いものだよ」

「た、直ちに調査を」

「調査は内閣官房が主体になって行う。国交大臣は口を閉ざしておいてくれ」

「……承知しました」

 恥ずかしいことだが、内部調査では隠蔽されかねない。国交省だけではない。他の省庁でも身内を庇って、不都合なことは隠蔽する体質は今も昔も変わらないのだ。


 調査はすぐに結果が出た。件の人物から手紙を受け取った者は、上司にその手紙のことを報告した。その上司はさらに上司に、最終的には副大臣のところに話が行った。それを副大臣が握り潰したのだ。副大臣は悪戯だと一笑に付したらしい。


 あの惨事後に副大臣が国交省内に箝口令を敷いたが、元々国交省となんの関係もなかった副大臣を庇う者はほとんど居なかった。

「これがその手紙です」

 副大臣が箝口令を敷いた直後、手紙を受け取った者は手紙を廃棄したと報告した。しかし実際にはその者が手紙を持っていた。私はその手紙の全てを読んだ。


 ダンジョンの情報を握り潰した副大臣を処罰することは難しい。誰もが悪戯だと思うようなことが書いてあるのだから責められない。

 だが隠蔽を指示したことに対する処罰はできるだろう。彼には今回の責任を全て背負ってもらわねばならない。


「更迭になりますが、構いませんね」

 連立を組んでいる光明党の党首に、国交副大臣を更迭することを確認する。国交省に関しては、大臣以下主だった職を光明党に与えている。

 545名の尊い命が失われた責任を副大臣に背負ってもらわねばならないが、勝手に更迭すると面倒だからこういった根回しが必要になる。


「残念なことですが……」

 言質は取った。副大臣を更迭する辞令を出し、その理由をマスコミにリークするように段取りする。

 彼は政治家として終わるが、彼1人の犠牲で他の者のクビが繋がる。


 官房長官が書類を持って私の部屋に入って来た。

「総理。例の者の身元が判明しました」

 官房長官をソファーに誘い、私も座る。


「聞こう」

「岐阜県のダンジョンが発生した山の地権者である世渡丈二という人物です。例の映像から想定した背格好と酷似した人物であり、岐阜のダンジョンを発見した人物です」

 封筒に押された消印は岐阜県の郵便局のものだった。そこから世渡丈二なる人物を特定するのに、大した労力はなかったらしい。


「おそらくですが、何が何でも身元を隠そうという意図はなかったようです。投函したと思われるポスト周辺の防犯カメラの映像でも、この世渡丈二なる人物がしっかりと映っておりました」

「我々を試しているのか?」

「どうでしょうか?」

 官房長官も首を傾げた。


「その世渡丈二なる人物の経歴は?」

「生まれは神奈川県です。高校までは神奈川の学校に通い大学は東京ですが、自宅から通っていました。大学卒業後はゼネコン大手のウマシカ建設に入社。昨年末まで約9年間勤め、今は祖父が残した旧家で農業をしているそうです」

「経歴に不自然なところは?」

「まったくありません。彼の学生時代の友人、ゼネコン時代の同僚上司、そして両親にも確認しております」

 彼の写真と調査報告書を見ても不自然なところはなさそうだ。


「彼があれほど強いのは、レベルだと思うかね?」

「ほぼ間違いなく、レベルでしょう」

「あのドラゴンのような化け物を倒すのに、どれほどのレベルが要ると思うかね?」

「想像もつきませんな。自衛官でも最もレベルが高かったのは15でした。レベル15のその自衛官はあの化け物にまったく歯がたたず戦死しております」

 あの戦いではレベルを上げた自衛官を含めて、545名の尊い人の命が失われた。


 この世渡丈二なる人物がもっと積極的に情報を出してくれていれば、このようなことにはならなかっただろう。彼が先頭に立って戦ってくれていたら、被害はなかったかもしれない。そう思うと、やりきれない気持ちになる。


「世渡丈二なる人物に会いたい。丁重に連れてきてほしい」

「そのように手配します」

 官房長官に彼を連れて来てもらうように頼み、次の面会者を部屋に入れる。


 

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