才能

カレイカレー

一話完結

天才を残すところなく喰らえば、僕も天才というものになれるのだろうか。


ほとんど同じ造りの家がドミノみたいに並んでいる。あれだけ外観がそっくりだと夜に見分けがつかず帰る家を間違えそうなくらいだ。僕もあの数あるドミノのうちの一人に過ぎない。いつでも代替の利く消耗品のような存在だ。いや、ドミノは一つでもなくなると成り立たなくなるな。そうなると僕は、、つまるところ、BB弾か。考えてもどうしようもないことをバカみたいに考えてしまうのが僕の悪い癖だ。それにしても、ドミノみたいな光景がずっと続いているせいなのか、さっきから進んでいる気が全くしない。

窓の外を過ぎ去っていく住宅街の味気ない風景をあてもなく眺めた。

今何時くらいなのか、不意に気になった。しまった、今日に限って腕時計をしてくるのを忘れた。スマホを取り出して確認しようかとも思ったが、なんとなく気乗りしなくてやめた。

海まであとどれくらいだろうか。

父から言われた言葉が頭の中で渦巻いている。「大学に行くのなら、世間的に有名なところに行かないと金は出せない。」あぁ大好きなスパゲッティの味が途端にしなくなる。「そうでないのなら、高卒で公務員にでもなったほうが出世もしやすいだろう。」全くもってその通りだ。才能もなくやりたいこともない凡人は謙虚に勉強するしかないのだ。しかし、こうも直接、凡人などと言われると腹が立つ。そんなぼくの腹のうちなど露知らず、いや知ったところでどうすることもできないだろうな。父は、それだけ言うと仕事の時間だと言って出ていった。残された僕はというと、腹が立つのと悲しいのとでスパゲッティをまったくもって楽しむことができなかった。

あぁ、いつの間にか目の前には光を受けて輝く海が流れすぎていく。

電車からホームに飛び出して、静かな改札に僕の足音だけが響く。

静かな海を眺めながら思う。

自分が天才になったのならば、才能があったのならば、僕は何をしただろう。

少なくともこんな将来のことで悩む必要などなかっただろう。

僕は何をしたいのか。天才から見える世界とはどのようなものだろうか。「見てみたい。」

僕は昔から好奇心旺盛な方だった。まあ、その分飽きるのも早いのだが。

昔、なにかで読んだことがある。動物がみな思考するのは、脳みそからだ。つまりその脳みそを食べれば、その対象の思考を理解したことになるのではないか。ならば僕が天才に擬態することもできるのではないか。あぁ胸が高鳴る。

天才の脳みそとはどんな味がするのだろう。どうせ食べるのなら美味しく食べたいなぁ。

よし、帰りに調味料を調達して帰ろう。

僕は、鼻歌交じりに軽快なステップで駅へと急いだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

才能 カレイカレー @remonntyann

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る