第13話  救われたのは?

ホテルを出て恵理子は当てもなく歩いた。

なんとなく家にも帰りたくなかった。

どこをどう歩いているのか恵理子自身に分からなかった。

ただ当てもなく夜の街を歩いていた。

シャワーを二度も浴びていたので、肉体的にはさっぱりはしていた。

でも心は別だ、自らの羞恥心の崩壊と、それを押しとどめる理性、その揺れ動きのなかで、すがろうとした者から突き放された絶望、そしてそれは仕方の無いこと、という寛容の気持ちと、その寛容の気持ちが表れている自分の心の弱さ、そしてその寛容自体が、助けを求めたことの羞恥心の緩和のための物かもしれないという自分のふがいなさ、すべてがカオスのように恵理子の中で渦巻く、全く収拾がつかない精神状態。

もし忠志に抱いてもらえていたら少しは救われていたかもしれない。

でも忠志は自分の事を救ってはくれなかった。

それが忠志の優しさであり、気遣いなんだという事は分っていた。

忠志とはそういう人なんだ。

でもあのときは。

と言う言葉が恵理子の中でこだまする。

忠志を恨むことはない。

忠志の事は分る、あのときはこうするだろうなと。

でも忠志は自分を救ってくれなかった。

そのことが、ただ悲しかった。


いったいどれ位の時間がたったか、どこを歩いたか分らなかった、ただ気づいたら恵理子は自分が写真を撮られたスタジオの前に来ていた。


坂本真市が自分を救ってくれるとは思えない。

ではなぜ自分は無意識のうちにここに来たのだろう。

どう考えても恵理子は分らなかった。

そもそも、ここに坂本真市がいるのかさえ分らない。

でも写真を撮られたときの恍惚とした時間の事は覚えている。

その体験は恵理子にとっては貴重な体験だった。

少なくともあの写真を撮られている時間は、全てを忘れる事が出来た。

今の自分の状態を少しでも忘れるには、あの体験しかないのかもしれない。

でも実際はこの時間に坂本真市がここにいるかどうかはわからない。

それに、ここは坂本真市のスタジオではない。

あのときテレビ局が借りたスタジオだった。

とは言え坂本真市のスタジオを知っている訳でもない。

また、坂本真市に会えたからと言って、何をしてもらえるというものでもない。

疲れ果てた恵理子はなにも解決しないことが分っていて、その玄関先に座り込んだ。

そしてその時になってひどい眠気に襲われた。

そして立てた膝にうつぶして眠りについた。

どれ位の時間がたったのかわからなかった。

誰かに抱きかかえられるような感覚があった。

無意識のうちに忠志に抱きかかえられているような感覚にひどい安心感があった。

そしてさらに深い眠りについた。


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