第11話  私は強くなった?

誰かが恵理子の尻を触った。

いくらスカートの上からと言っても、触られれば、恵理子が下着を着けていない事に気づく、でも今の恵理子は違っていた。

自分の尻を触る手をつかんで、頭の上にあげると。

「痴漢」と大きく叫んだ。

回りの目がその男に集中する。

一瞬気まずい雰囲気が流れる。

でも発覚することのリスクを分っているのか、男は慌てなかった。

「何を言ってるんだ。ノーパンのくせに、触ってほしかったんだろう」と、うそぶく。

男は、ミスを犯した、うそぶくことにより、自分が痴漢だと言うことを告白したような物だった。

「ひどい、触っておいて、そんな嘘をつくなんて」たまたまドアーがあいたところで、開いたドアーとは反対の方に男を突き飛ばして、泣きながら恵理子は電車を降りた。

周囲の目が男に対して冷たくなる。

いたたまれなくなった男は電車を降りようとしたが、閉まるドアーに阻まれて降りることが出来なかった。

後はどうなるか恵理子の知ったことではない。

ただ確かに自分は変わったのかもしれないと思った。

それまでの恵理子なら痴漢に遭えば体がこわばって、ただ耐えているだけだった。

まして下着を着けていない、でも今日はただ耐えていることが出来なくなった。

恵理子は少しだけ自分が強くなったような気がしていた。

強い。

いやちょっと違うような気もする。

人は堅く閉じた心を、強い衝撃によって開くことができる。

今回の事は恵理子にとって、その強い衝撃に他ならなかった。

堅く閉じた心は忠志に対してもそうだった。

忠志と合う時、恵理子は自分の貞操にこだわっていたつもりはなかったが、自分は忠志から見ればセックスをしてくれない面倒くさい女と映っていたかもしれない。

今日のように、あんなに恥ずかしいこと、そして言葉を投げかけられ。

失禁してしまう。

それに比べれば忠志に自分の体を与えることに何の不都合がある。

むしろ捧げたいくらいだ。

そう思うと忠志に無性に会いたくなった。

今すぐに忠志の体のぬくもりが欲しいと言うことではない。

ただ逢いたかった。


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