第10話  シチュエーションプレー


「さあ、想像するんだ」と孝夫がその優しい声で話しかける。

「回りにいるのは君と言う娘の状態を見るために集まった紳士。淑女だ。

中には君と同じか、さらに年下の娘や息子もいる。

君は、今は没落して貧しくなってしまったが、プライドのある家庭で育ったお嬢様だ。

君はどうしても返さなければならない借金のために、ここに連れてこられた」

「それがシチュエーションプレーですか」

「そうだよ」

「いい恵理子さん、始めるわよ」理恵子の鋭い声とともに手がたたかれた。

「それが今日の娘ですか」孝夫の声はあまりに冷たく、まるで恵理子を一人の人とも思わないそんな感じだった。

「ええ、薄汚く、知性のかけらもない。恥知らずの娘ですわ」

「本当だね、恥も外聞もない。何をしても、何を見せてもなんとも思わないようだね」

「そんな事はないです」思わず恵理子はその言葉に割って入る。

「言っただろう、これはゲームなんだから。だめだよそんなゲームを壊すようなことを言っては」

「だって」

「ゲームよ、ゲーム」理恵子が諭すように優しく言う。

「それでは皆さん、この薄汚い、小娘の汚い下着をお見せいたしましょう」理恵子の口調が代わる

ゲームが再開されたようだった。

今の優しい声とは打って代わって、張りのある、そして冷淡にさえ聞こえる鋭い声だった。

恵理子のスカートがまくり上げられ、安全ピンのような物で止められ、恵理子の下半身が 丸出しにされているのが分る。

目隠をされているので、大勢の人に見られていると想像することは容易だった。

だから大勢の人に見られていると想像してみる。

想像してみると、回りの状態が分らないことで、本当に大勢の人に見られているようで、恥ずかしさが増大してくる。

「生理中か。シミがついているじゃないか」冷たく孝夫が言う。

「そんな事ありません」はじかれたように、目隠しされたままの恵理子が否定する。

誰かの手が恵理子の下着を下に向かってめくった。

そして膝まで下ろされる。

下着を下げられた事で、下半身が大勢に見られていると感じる。

なまじ完全に脱がされていない事が余計が恥ずかしさを増大させる。

「下の毛の手入れなんて、全然していないのね。ぼうぼう」

おそらく理恵子の方だろう、恵理子の陰毛を指でつまんでぐりぐり引っ張った。

「やめて、やめてください」思わず恵理子が叫んだ。

「そんな、だだをこねると、お仕置きをするぞ」と言って孝夫の方が恵理子のクリトリスを少し強くつまんだ。

その時恵理子は感じたことのない感覚に包まれた。

エクスタシー。

これがそういう物なのか分らなかったが、恵理子は失禁してしまった。

一端出てしまうと、自分では止めようがなかった。

だらだらと股から足を伝わり床に流れた。

恵理子は泣いた。

それがどうしてなのか分らなかった。

人前で失禁してしまったからなのか、恥ずかしさからなのか。

ただ止めどもなく、股から足へと流れる。

尿の温かさを感じている間、恵理子は泣き続けていた。

「ゲームオーバーだ」孝夫の声が響いて恵理子の手は自由になった。

いつのまにか足下にはビニールシートが敷かれていた。

恵理子はいたたまれなくなって、自分の下着が濡れているのも関わらず、まくられたスカートを戻そうとした。

「だめよ、濡れてしまうわ。シャワーを使いなさい」恵理子はそのままの格好でバスルームにつれて行かれた。

シャワーを浴びている恵理子をきちんとした服を着ている理恵子が眺めている。

自分だけが裸と言うのが一番恥ずかしい。そうすることによりこの人は、人が最も恥ずかしいと思う状況を作っている。

でも、そんなことはどうでもよかった。

とにかくシャワーを浴びてここから出て行きたかった。

自分はここでは好奇の対象でしかなかった。

「帰ります」服を着た恵理子は自分の声がひどく沈んでいることが分る。

さすがに濡れた下着をつける気にはならなかった。

でもどうでもよかった。

「よかったらまたおいで」と言って孝夫が電話番号しか書かれていない名刺を恵理子に渡した。

「今度はもっと楽しいことをしましょう」と嬉しそうに理恵子が言った。

そんな言葉に恵理子は目を伏せて、その場を後にした。

一刻も早くこの場からいなくなりたかった。

スカートの下は何もはいていないから早く帰りたかった。


帰りの電車はそれほどの不安感はなかった。

スカートの下は何もはいていない。

いつもの恵理子なら、いつめくれるのではないだろうかと、不安に駆られ正常な状態ではいられない。

でもさほどの違和感はない。

何かが自分の中で変わったのかもしれないと思った。

この電車の車両の中に、自分の裸をテレビで見た人間がいたとしても、どうでもいいくらいに思えた。


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