第2話  高津恵理子

 高津恵理子は中堅の食品卸会社の経理をしている。

普段は地味なルーチンワークの繰り返しで、そこに発展性はない。

会社も、経理も、女子社員などいずれ壽退社をする腰掛け要員としか思っていない。

事実そういう娘ばかりだった。

そして恵理子もそんな一人だった。

そんな恵理子が天才坂本に写真を撮ってもらえることになったのはほんの偶然の事だった。

たまたま休みの日に街を歩いていて、人気のアイドルが司会をしている番組の街頭インタビューにカメラを向けられた。

企画はこうだ。

「街の素人娘を一流モデルにしてみょう」という企画だった。

ランダムにカメラを向けた娘をスタジオにいる司会者が選んでゆくというものだった。

恵理子はそこで選ばれた。

テレビ局に行って見ると、恵理子以外にも五人の娘がいた。

別のところで選ばれた娘たちだった。

全員二十歳を越えていた。

一番下で二十二歳。上が二十七歳だった。

テレビによくある、ヤラセのような物はなかった。

実はどこぞのプロダクション所属と言うような娘は一人もいなかった。

全員OLでまぎれもない素人だった。

だからこそ力が入った。

審査員の前でなぜ自分が写真に撮ってもらいたいかを言う。

はじめはそんな気は全然なかったのに、不思議な事に段々自分は写真を撮ってもらいたくなって行った。

写真を撮るのはあの天才坂本。

無論スタジオも一流のところだ。

誰もが自分の姿を坂本に撮ってもらいたくなってゆく、恵理子もそうだった。

別に芸能界とかそんな事を考えた訳ではない。

モデルに憧れた分けでもない。

きっと他の五人に負けたくない、そんな気持ちが全てだった。

相手は天才坂本。

ヌードを撮らせれば、その過激さは他の追随を許さない。

撮ってもらうのが坂本である以上裸にされる可能性がなくはない。

でもどこかで恵理子は高をくくっていた。

素人の自分たちにヌードまで要求するはずはないと、そして自分を含めてみんな、平凡な顔立ちをしている。

きっと一回こっきりで終わりだし、それなら、いい思い出になっていいだろう。

そして高津恵理子が選ばれた。

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