第3話 白い特製シチュー

僕の名前はカリー。

今日は、僕の兄であるカナタを紹介しようと思う。


「お〜い!!カリー!!」


どこか遥か遠くから、僕を呼ぶ声がする・・・。


「お〜い!!カリー!!聞こえてるんだろ〜!?!?」


僕は聞こえていない。

声も遠いし、耳も遠いから聞こえない。


正直言えば、この距離感で返事をしたくないほど、カナタお兄ちゃんは遥か彼方にいる。


だから、敢えて僕は聞こえないふりをする。


それでもやっぱり兄の姿が気になるから、二、五度見しちゃう。ニ、五だ。


バレるかバレないかの瀬戸際だと思っているから、よく使う。


このドキドキハラハラする感覚がたまらない。カナタお兄ちゃんに対して、興奮を覚えてしまっている。


おい、カリー大丈夫か!?

うん、大丈夫!そっちのカリーは大丈夫か!?

うん!!大丈夫!じゃあ、あっちの顔のカリーは大丈夫か!?


頭が大丈夫じゃない。

一人で三役やってしまっている。

僕は、とても器用だと思う。



「お〜、やっとカリーが近くなってきたよ〜」


と、カナタお兄ちゃんの声が聞こえてきたが

そういうカナタお兄ちゃんとの距離は、結構遠い。


まだ、返事をしたくない距離だ。



「シチューが冷めちゃうぞ〜!」


・・・え?シチュー?

僕、ランチ呼ばれてるの?


カナタお兄ちゃんの特製シチューか。

イケメンのような名前の人がこだわりを持って作った特製シチュー。

イケメンって、ずるいな。


仕方がない。今まで無視してきたけど、気になるからそっちに行こう。



「お〜、カリー!シチューができてるぞ!」


本当だ。シチューだ。別に嘘をついていたなんて思ってないぞ。

どんな特製シチューなのだろうか。

勝手に特製だと決めつけたのは、僕なんだけども。



「カナタお兄ちゃん、呼んでくれてありがとう」

「おうよ!カナタこだわり特製シチューだぞ!」


あ・・・。やっぱ、特製シチューなんだ。


外に大きな鍋が置かれており、美味しそうに煙がもくもくと広がっていた。


「カナタお兄ちゃん、いい匂いだね」


僕はそっと鍋の中を覗いた。

結構覗いた。覗いている時間は長かったと思う。

幼稚園生の妹が入っている風呂場を覗くくらいの時間は経っていたと思う。


真っ白な真っ白なシチュー。

ここまで白いシチューは今までに見たことがない。

こだわりぬいた特製シチューは、何色にも染まることがなく純白。


本当に強いて言えば、ハエが一匹浮いているくらい。

荒く削った胡椒が浮いていると、目をつぶってあげてもいいだろうか・・・?


そして、もう想像はついているだろうが、具材はカリフラワーだ。



やっぱり、目をつぶってもいいかい・・・?

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