第94話 【ミッション】

1月2日。


晴れです。晴天です。


とても、いい朝です。


万九郎は一人暮らしですので、特に予定はありません。


今日は、初売りに行く人もいるらしいですが、わざわざ伊万里や志佐(松浦)のスーパーに行く気は、ありません。


「年末年始は、高いからなあ」


年賀状が届く日ですが、たぶん誰からも、来ないと思います。


高校生の頃に、年賀状を書くのは、やめました。


今日と明日は、久しぶりの完全オフです。


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万九郎は、釣りをしています。


以前、釣りをしていた赤い、寂しい灯台では、ありません。


自宅から50mほど離れた、土地がちょうど角(カド)になっている場所です。


持ってきたのは、釣り竿と魚籠(ビク)だけです。


ルアーを使うので、餌は要りません。


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今は、午前11時頃です。


ちょうど干潮の時間ですが、小潮なので、大して干(ヒ)きません。


海が、うまい具合に浅く、魚たちが良く見えます。


浅瀬に付き物の、ボラの群れを、たびたび見ます。


浅い海にいるボラは、美味くないらしいので、万九郎は無視しています。


沖のボラは美味しいと、誰かに聞いたことがありますが、どうせ青魚なのだから、大して美味くないだろうと思っています。


東京や関東の人たちは、妙にサバを有難がりますが、それと同じで、美味い魚が手に入る環境にいないから食べるのだと、思っています。


(自分には関係ないことだな。釣りをしていると、しょうもないことを考えるようになった。それだけ、余裕が出てきたってことなのか?)


クリスが死んで、浦ノ崎の家に住むようになって、あの赤い灯台の下で、寂しく釣りをしていたときを。思い出しました。


(あのときは、浮きを見ていると、何も考えなかったのにな)


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あのときとは違って、今日は晴天で、海は凪(ナ)いでいます。


ちょっとした、小春日和です。


万九郎は、改めて周りを見ます。


トンビが2羽、悠々と飛んでいます。


「あれは、番(ツガイ)だよな。たまに、もう1羽いるから、そっちは巣立ちして間もない子供なのだろう」


猛禽類は、番(ツガイ)で1つの縄張りを持ちます。


縄張りの中にいるということは、まだ十分に成長しきっていないということです。


(何だか、北米の家庭みたいだな。息子は成人すると、必ず家から出ていく)


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視線のちょうど向かいには、突端(トッパナ)と呼ばれている、いつの時代に作られたか分からない、石を集めた1本の堤防が、海に向かって伸びています。


その付近には、数え切れないほどのウミネコが、ニャアニャアと鳴いています。


万九郎の自宅前の入江は、シラサギの縄張りでもあります。


潮が引くと、シラサギが1羽、やって来ます。


(シラサギたちは、向こうの佐代川が縄張りだから、群れとうまく、やっていけないのが、こっちに来てるのかな?)


シラサギは、真夜中が干潮だと、夜中に「ギャァ」と鳴きます。


(あの鳴き声が惜しい。あれが無ければ、白鳥みたいにチヤホヤされただろうに)


確かに、白鳥の鳴き声は、シラサギほど汚くないです。


ほかにも、カラスやカケス、名前も知らない何種類もの鳥たちが、この寒い中で、生き生きと飛んで、鳴いています。


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万九郎は、海の方を見ました。


足元の波打ち際の海には、たくさんのトビハゼが、ピョンピョンと跳ねています、


「トビハゼ」


出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

トビハゼ(跳鯊)は、スズキ目ハゼ科トビハゼ属 Periophthalmus に分類されるハゼの総称だが、日本では特にその中の一種 P. modestus を指す。干潟の泥上を這い回る魚として有名である。

特徴・生態[編集]

トビハゼの成体の体長は10 cmほど。体は灰褐色で小さな白点と大きな黒点のまだら模様がある。眼球は頭頂部に突き出て左右がほぼ接し、平坦な干潟を見渡すのに適応している。胸鰭のつけ根には筋肉が発達する。同じく干潟の上を這い回る魚にムツゴロウ Boleophthalmus pectinirostris もいるが、トビハゼの体長はムツゴロウの半分くらいである。また各ひれの大きさも体に対して小さい。

汽水域の泥干潟に生息する。春から秋にかけて干潟上で活動するが、冬は巣穴でじっとしている。干潟上では胸鰭で這う他に尾鰭を使ったジャンプでも移動する。近づくとカエルのような連続ジャンプで素早く逃げ回るので、捕えるのは意外と難しい。食性は肉食性で、干潟上で甲殻類や多毛類などを捕食する。潮が満ちてくると、水切りのように水上をピョンピョンと連続ジャンプして水際の陸地まで逃げてくる習性があり、和名はこれに由来する。

通常の魚類は鰓(えら)呼吸を行い、代謝によって発生するアンモニアを水中へ放出する。このため空気中では呼吸ができない上にアンモニアが体内に蓄積され脳障害などを起こす。しかし、トビハゼは皮膚呼吸の能力が高い上にアンモニアをアミノ酸に変える能力があり、空気中での活動が可能である。


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海水が澄んでいるので、海底で動いているガシャガニ(ガザミ)やカブトガニ、タコの姿も、見えています。


「平和だなあ」


この日は結局、40cm級のコチを4匹吊り上げて、午後3時には家に帰りました。


「コチ」


出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

コチ(鯒、牛尾魚、鮲)は、上から押しつぶされたような平たい体と大きなひれをもち、海底に腹ばいになって生活する海水魚の総称である。ネズミゴチ、マゴチ、メゴチなど、どれも外見が似ているが、目のレベルで異なる2つの分類群から構成される。

概要[編集]

熱帯から温帯の海に広く分布する。全長5cmほどにしかならないものから全長1mを超えるものまで多くの種類がある。多くは海岸近くの浅い海に生息し、河口などの汽水域にも侵入するが、水深200m-600mほどの深海に生息する種類もいる。生息環境も砂泥底、岩礁、サンゴ礁など種類によって異なる。

上から押しつぶされたような左右に平たい体をしている。体の幅は鰓蓋の部分で最も広く、尾に近づくにしたがって細くなる。胸びれは大きくて丸く、すぐ下にこれも大きい腹びれがある。背びれは2つに分かれている。


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コチは白身魚で、唐揚げや天ぷらにすると、特に美味しいです。


万九郎は、3匹を日持ちする唐揚げにして、1匹は刺し身にしました。


近くのファミリーマートから、「のどごし」350mlを2本買ってきて、この日の夜は、とても美味しい夕飯になりました。


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1月3日。


万九郎は、伊万里の方にパジェロで走り、楠久と東山代の間にある、スーパー武田に来ました。


(新鮮な刺し身や魚は、案の定、売ってないな。正月三が日で漁師たちも休んでるから、当然か)


これは、思っていた通りだったので、全く気落ちしません。


(ここは、惣菜が美味いんだよな)


そう思いながら、惣菜売場に、足を向けます。


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(おお。コロッケとかメンチカツとか色々、美味しそうなのが並んでいるじゃないか)


万九郎は、心の中で、ガッツポーズをしました。


サラダとハムカツ、チャーハン、それとミックス野菜を、のどごし350ml 2本と一緒に買って、家に帰りました。


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万九郎は、1人で夕ご飯を終えて、2階の自室に戻ったところです。


寝室には、ベッドのほかに、海向きに机が据えられています。


椅子に座ると、窓の外に、海と空と、入江を挟んだ小高い丘の木々が、良く見えます。


今はもう、夕方です。


万九郎は、LOOKを吸いながら、ぼんやりと外の景色を、見ています。


「綺麗だなあ」


その間にも、波の音と、鳥たちの鳴き声が聞こえてきます。


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万九郎はベッドに入り、ふっくらとした掛け布団を被って、部屋の電気を消しました。


(この2日間は、本当に平和だったなあ。自営業だから、明日から仕事始めってこともなし、しばらくはゆっくりと過ごすのもいいな)


そんなことを考えながら、万九郎は、眠りに落ちました。


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ブルブルブルブルブルーーーー


iPhoneの、着信音です。


(誰だ?今の時刻は・・)


iPhoneを手に持つと、午前2時過ぎです。


とにかく、電話に出ます。


「はい。もしもし」


「万九郎!あなただけ平和な毎日を過ごせると思ってたら、大間違いよ!今日午前9時までに、来なさい!」


それだけ言うと、電話は切れました。


(自分の名前も言わないなんて・・まぁ眠いから寝よう)


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夜中の突然の電話。嫌なものですよね。

また長くなりそうですので、ここで一旦、区切ります。



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