第93話 【新年会】

初詣の後は当然、入江の側にある自宅に帰り、寝ました。


夕方。


万九郎は、また浦ノ崎別邸に、向かいます。


佳菜から、松浦家の新年会に、招待されていたからです。


「松浦家の新年会か。さぞかし、豪勢な食べ物や酒が、出るんだろう」


万九郎は、期待していました。


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浦ノ崎別邸の門は、サングラス2人が、守衛しています。


「ワカ。明けまして、おめでとうございます」


「ああ。おめでとう」


邸宅内に入ると、とても広い中庭があります。


その先に板の間、そして、とても広い畳の間があります。


万九郎は、畳の間に、入りました。


(佐世保別邸の、あの司令室ほどじゃないが、ここも、とんでもなく広いな)


これほど広い畳の間がある邸宅を持つのは、おそらく天皇家だけでしょう。


「万九郎。アケオメじゃ」


「明けまして、おめでとうございます」


「来たのね」


「ああ。招待されたからな」


「今日は、姉がホストです。もう、お酒も入っていますから、何があっても対応できるように、注意していてください」


「ああ。今の俺なら、たぶん何があっても、それなりに対応できるんじゃないか」


「そうだと、いいですね」


万九郎は、暢気です。


万九郎は、佳菜の本当の恐ろしさを、まだ知らないのでした。


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畳の間の所定の場所に座ると、豪勢なおせち料理、新鮮な海の幸、雑煮などが、次々と巫女さんたちによって、運ばれてきます。


「松浦酒造の日本酒を、どうぞ。とても美味しいですよ」


美香が、わざわざ酌してくれました。


とても美味しく、とても楽しいです。


「じゃ、そろそろ隠し芸の、披露会を始めるわよ」


佳菜が、言いました。


「はい!サングラスあの12号、ぽの257号です!男二人の永久機関をやります!」


「ゲーーーー!引っ込めーーー!」


“I’m Marty McFry, as you know. Now I'm gonna show you what I've been saving.”


マーティーです。


「カッコ♡インテグラ!」


「何十年前のネタだよ。引っ込めー!」


サングラスたちが、容赦ないです。


「次。万九郎クン」


(クン・・!?まあ、皆んなやってるから、何かやらないといけないな)


万九郎は立ち上がり、舞台に立ちました。


「何を見せてくれるのかしら。万九郎クン?」


佳菜が、言いました。


(佳菜の奴。今、少し笑ったよな)


万九郎は、少しずつ、不安になってきました。


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万九郎は、学生時代に友人が1人もおらず、コンパに参加したことも勿論、ありません。


社会人になってからも、最近まで異能者として独り立ちするのに必死で、飲み会に誘われたことも、行ったことも、ありません。


(困ったな。何か、歌でも歌うか)


万九郎は、そう思って、傍らにあったマイクを、手に持ちました。


「万九郎クン。山であったことを、詳しく説明してくれれば、いいわ」


佳菜が、言いました。


(あの山で、あったことか・・)


色んなことが、ありすぎて、1つにまとめることが、なかなか出来ません。


「あったでしょ。凄く、いやらしいこと」


佳菜が、言いました。


(えっ、何で知ってるんだ?)


万九郎は戸惑って、何も言うことが、できません。


「万九郎クン。男は女に対して、やることをやったら、責任を取るべきだと思うんだけど」


「・・何のことか、分からないんだが」


「そう。じゃ、やられちゃった女性を、お見せするわ」


佳菜が、そう言うと、向かって右側の襖(フスマ)が、大きく開かれました。


そこに、レイコが立っています。


「万九郎クン。思い当たることが、あるでしょ」


(そう言えば、あのときレイは、この時代の自分がどうとか、言ってたな。まさか・・)


万九郎は、あまりの衝撃に、立ち竦(スク)んでいます。


「じれったいわね。サングラス!」


佳菜の声に答えて、レイコの後ろに控えていたサングラスが、レイコを万九郎の方に、易しく押しやりました。


背中を押されたレイコが、万九郎に近づき、あっという間に2人の距離は、ゼロセンチメートルになりました。


「万九郎クン。男ならレイコを抱きしめて、『俺と結婚してくれ』と、言いなさいよ」


佳菜が、ニタつきながら、言ったのです。


もう、万九郎の頭の中は、真っ白です。


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「す、すまんレイコ。俺はただ、知らなくて」


そう言うと万九郎は、畳の間から板の間、そして広い中庭を全速力で走り抜け、浦ノ崎別邸の門から、出ていってしまいました。


靴さえ、履かずに。


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万九郎は、たった1人で、歩いています。


風が、冷たいです。


正月、元旦だというのに、あんな仕打ちされたことさえ、考えないようにして、たった1人で、歩いていました。


「ワカーーーーー!」


後ろから、サングラスの声がします。


「サングラスあの12号です。靴、持ってきました。お嬢はああなると、もう私たちでは、歯止めが効かなくて・・」


「ああ。分かるよ。お互い、大変だよな」


「お詫びに、ビールを1ケース、持ってきました。どうぞ」


「ああ。ありがとう」


「では、失礼いたします」


「ああ」


############################


万九郎は、たった1人で、家に戻ってきました。


「ビール貰ったし、あとはスルメ焼いて、一人正月を楽しむか」


結局、少し儲かったような気がしている、万九郎なのでした。


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レイコへの責任は、どうなるのでしょう。




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