第87話 【巨人の谷】

オウムガイたちの進撃が、続いています。


雪が細かく、顔に痛いです。


どんどん傾斜の、角度が急になっています。


たぶん、今の角度は75°くらいです。


万九郎は、ダウンジャケットに包(クル)まって、身体が冷えないようにしています。


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風景が、変わってきました。


谷です。とても大きな、谷があります。


そこに向かって、オウムガイたちは、いっそう急速に、進撃しています。


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谷の入口を抜けると、開けた平原になっていました。


溶けることが、たぶん一度もなかった氷の床が、広々と、広がっています。


「おっ!?」


何かが、とても数多くて、とても巨大な何かが、遠い向こうの、雪で霞んだ中から、無数に出てきました。


オウムガイたちの進撃は、止まりません。


ドドドドーーン


ずっと先の方で、凄い衝突音が、上がりました。


「おいおい、マジかよ」


オウムガイたちは、個々の巨人に突撃し、激しい衝突の後、小さい小さい、金色の粒子になって、消えて行っています。


巨人を破壊できる場合もあれば、オウムガイだけが、虚しく消滅する場合もあります。


(・・・)


オウムガイたちの事情は、知りません。


でも、ここまで楽に乗せてきてもらった恩には、報いなければならないと、万九郎は、思いました。


「ゴーレム!」


万九郎の一声で、1万体のゴーレムが、召喚されました。


「あのクソ巨人どもと闘えゴーレム!」


ゴーレムとオウムガイと巨人たちの死闘が、始まりました。



「ゴーレム」


出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)

ゴーレム(ヘブライ語: גולם‎, 英語: golem)は、ユダヤ教の伝承に登場する自分で動く泥人形。「ゴーレム」とはヘブライ語で「未完成のもの」を意味し、これには胎児や蛹なども含まれる。

概要[編集]

作った主人の命令だけを忠実に実行する召し使いかロボットのような存在。運用上の厳格な制約が数多くあり、それを守らないと狂暴化する。

ラビ(律法学者)が断食や祈祷などの神聖な儀式を行った後、土をこねて人形を作る。呪文を唱え、「אמת」(emeth、真理、真実、英語ではtruthと翻訳される)という文字を書いた羊皮紙を人形の額に貼り付けることで完成する。ゴーレムを壊す時には、「אמת」(emeth)の「א」( e )の一文字を消し、「מת」(meth、死んだ、死、英語ではdeathと翻訳される)にすれば良いとされる。

また、ゴーレムの体にはシェム・ハ・メフォラシュ (Shem-ha-mephorash) が刻まれている。これは、『旧約聖書』「出エジプト記」14章の第19節を縦書きで下から上に書き、その左に第20節を上から下に、その左に第21節を下から上に綴り、それを横に読んだ3文字の単語の総称であるとされる(ヘブライ文字で書くと、19、20、21節ともそれぞれ72文字になるため、3文字の単語が72語できる)。



この戦いは熾烈を極め、何カ月も、おそらく何年も、続きました。


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戦いが、終わりました。


オウムガイたちも巨人も、一人として残っていません。


細くて固い雪が、降っています。


万九郎は、また、たった1人です。


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万九郎は、永久凍土の上に、雪が積もった傾斜を、たった1人で、登っていきます。


「うん?」


吹雪の霞の中から、巨大な巨人が1人、現れました。


腕を組んで、仁王立ちしています。


まるで、ここを通りたいのなら、自分を倒してみろと、そのような威圧を感じます。


「それにしても、デカいなあ」


おそらく、身長は60mはあるでしょう。


頭の方は、顎と、高い鼻しか、見えません。


「それなら、俺が、お前を殺す」


万九郎は、カチカチに凍った雪の上を、走り始めました。


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巨人のはるか頭上の雲が、濃く、暗くなっています。


すぐに、雷鳴が、聞こえ始めました。


「お得意は、雷の魔導か。ならば、さあ、撃ってこい!」


万九郎が、巨人に向かって、叫びました。


巨人が、右手をまっすぐ雲の方向に上げ、人差し指を立てました。


その次の瞬間、巨人が右手を振り下ろしたかと思うと、物凄い雷が、万九郎を直撃しました。


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「その程度か」


「俺が、本物の雷の魔導を、見せてやる」


「Tesla!」


一瞬、何かが、光っただけでした。


しかし、巨人は、もはや、居ません。


小さい光の粒になって、消えて行きました。


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万九郎は、さらに雪面を、登っていきます。


いました。


今度は、身長40mぐらいですが、全身が筋肉隆々の、巨人です。


両手に、いかにも丈夫で重そうな斧を、持っています。


「今度は、武器と体術か」


万九郎は、日本刀を構えると、両手で力を込めて、振り抜きました。


巨大な剣閃が、筋肉巨人を、さっきと同じように、光の粒にします。


「いまのところ、何とかなっているな」


万九郎は、そう呟くと、さらに雪面を登っていきます。


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雪の霞から、第3の巨人が、現れました。


巨大です。身長80mは、優にあります。


「魔道士巨人か。俺も魔導は得意なんだ。遠慮なく、来いよ」


万九郎が、不敵に笑いました。


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「うぬぅ」


万九郎が、驚愕しています。


巨人は、氷、炎、雷の魔導を自在に操って、攻撃してきます。


同じ属性の魔導同士なら、万九郎と、五分です。


ダムド!


効きません。


(だが、甘い!)


「ブー・レイ・ブー・レイ・ン・デー・ド。地の盟約に従い、アバドンの地より来たれ。ゲヘナの火よ。爆炎となり、全てを焼き付くせ!」


「エグ・ゾーダス(Eg Zodus)!」


万九郎自身が、2万度の炎を身にまとって、魔道士巨人に突撃しました。


「ぐぁ」


魔道士巨人は、短い呻き声を上げた後、金色の粒子になって、消えました。


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「さすがに今のは、強かったな」


万九郎は、短くそう言うと、永久に凍った斜面を、一歩一歩、登っていきます。


細かくて固い雪が、顔に痛いです。


いつの間にか、天中には、月が出ていました。


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ついに、現れました。


遠くからも、はっきりと視認できる巨体!


次の巨人は、身長120mは、ありそうです。


全身が筋肉質で、ブレード・アーマーを纏っています。


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「私が、最後の関門だ。殺せるものなら、殺してみればいい。できれば、な」


自信満々な巨人です。


それを裏付けるように、巨人の全身には、古代の極めて複雑で、万九郎でも解読できない魔法陣が、無数に浮いています。


「お前が、最後か。ならば俺も、全力で行かせてもらう」


両者の、熾烈な闘いが、始まりました。


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「盲死荊棘獄(ブランガーディアン:Bland Gardian)!」


万九郎が、魔導の名前を言うと、地面から無数の暗黒の蔦が湧き出し、巨人の全身に巻き付いて、束縛します。


「どうだ!」


「これが、何だというのだ?」


(はぁ!?)


暗黒の蔦が、何事もなかったかのように、消失しました。


巨人は、微動だにしていないのに、です。


「では、こちらから、行くぞ。絶対零度破(Abusolute Zero)!」


「なんだ、と!?」


絶対零度破は、万九郎の必殺技の1つです。


しかし、万九郎は、長い呪文を詠唱しないと、発動できません。


「ぐわっ」


もろに、食らいました。


巨人の魔導は、万九郎の1枚どころか、何枚も上を行っています。


万九郎はなすがまま、巨人の攻撃を、食らい続けます。


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もう万九郎は、ズタボロです。


「反撃する力も、残っていないようだな。ならばこれで、死ね!」


巨人は、両手を組むと、両腕を大きく上に上げてから、一気に撃ち下ろしました。


ズン


万九郎の身体が、永久凍土のはずの、固い固い雪と氷の中に、めり込みました。


上から見ると、万九郎の形の、穴ができています。


「・・死んだか」


雪が、降っています。


万九郎の穴の中にも、雪がしんしんと、降っています。


「・・カイザード・アルザード・キ・スク・ハンセ・グロス・シルク。灰塵と化せ!冥界の賢者。七つの鍵を持て、開け地獄の門!」


「ハーロ・イーン(Halo Een)!!」


「なっ!?」


巨人は、勝ちを確信して、万九郎の穴に、背を向けていました。


一瞬後、巨人は消し飛んで、何も無くなっていました。


「なんとか、勝ったか。だが、もう魔力が・・」


万九郎は、魔導の弾みで穴から出て、数歩、歩きましたが、そこでバッタリと、倒れてしまいました。


雪が、固くて寒くて冷たい雪が、月が輝いている暗黒の空から舞い落ち、万九郎の身体に、積もっていきます。


・・・


############################


「フゥ、フゥ」


誰かが、万九郎の身体を何とか担ぎ上げ、必死で引きずっています。


行く手には、洞窟が、あるようです。


「万九郎、私は、あなたを、絶対に、死なせない!」


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巨人編、終わりました。



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