第85話 【猿の世界(続き)】

しばらくすると、長老と思しき、長い白髪の髭を持つ猿と、見るからに好戦的な猿が、それぞれ1匹、万九郎の前まで来ました。


「おぬしの強さ。まさかとは思うが、言い伝えにある、『最後に来て、解放する者』か?」


「何のことか、分からん」


「まあ良い。今から、この猿と闘ってみよ。この集落で一番の手練だ」


好戦的な猿が、ずいと前に出ました。


万九郎と、相対します。


「ん?」


よく見ると、その猿は、背中に小さな黒いバックパックを背負っています。


(この猿が、ババアの旦那か)


############################


ババアと言っていますが、40代前半くらいでした。

この猿が年上好きなら、ちょうど釣り合っています。


############################


猿が、予感もさせずに、動きました。


(疾い。だが・・)


一瞬後には、万九郎の右手の拳が、深々と猿の鳩尾(ミゾオチ)に、食い込んでいました。


猿の姿が朧(オボロ)になり、とても小さい、無数の光の粒になって、消えていきました。


「なるほど。確かに、そなたは我らを、解放する者。無礼を働き、失礼した」


長老猿が、言いました。


############################


その後、長老の大きな家に案内されると、村の猿たちが皆んな、集まっていました。


皆んな、期待感に満ちた、顔付きをしています。


「皆の者、我らを解放する者が、ようやく、ようやく、現れてくれた。祝いの宴会じゃ」


「おおおーーーー!」


それから3日間、宴会は続きました。


############################


「そろそろ、行くか?」


「ああ」


「くれぐれも、気を付けてくれ。これより上は、まさに異形の世界。想像を超えた姿と力を持つ者共が、ひしめいている。おい、あれを持って来い」


長老の言葉に応えて、成人の猿たちが4匹がかりで、何かを引きずってきました。


「これは今朝方、近くの川に上流から、流れ着いた物だ」


(うっ)


酷い腐臭が、します。


その物は、大きな魚の様でした。しかし、脚が2本、生えています。


「分かったから、片付けてくれ」


そう言いながら、万九郎はソレに、カツオ君と密かに名前を付けました。


############################


「じゃ、行って来る」


「うむ。武運を」


万九郎は、さらなる上に向けて、歩き出しました。


############################


カツオ君すいません。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る