第79話 【魔境】

万九郎は今、鬱蒼とした密林の中に居ます。


密林は延々と続き、果の見えない大森林を、形作っています。


############################


「割と、楽だな」


すべての木々が、とても高く、太い、大木になっているため、雑草もありません。


光は差さず、夜のように暗いのですが、魔導で鍛えた万九郎の目は、はっきりと視覚します。

太い木の根にさえ注意すれば、ずいずい進めます。


############################


自衛隊からも、演習地としての潜在性を、評価するように依頼されています、


特徴のある大岩や、おそらく川へと繋がる渓谷を、記憶に留めるだけでなく、iPhoneで社員を撮ったり、メモを書いたりしています。


そうすることで、同時に、帰りが易しくなります。


万九郎は、ひたすら歩いています。


もう、何日歩いているのか、分からなくなりました。


############################


不意に、視界が開けました。


今までは、暗い上りの斜面でしたが、広々とした明るい草原が、広がっています。


風が、吹いています。


心地良い、風です。


草の背丈は高いのですが、魔導でサクサクと、道を切り開いて行きます。


############################


「おおっ」


今、万九郎の目の前には、とても広い湖が広がっています。


ところどころ、水平線が見えているところも、あります。


風が、それなりに強いため、湖なのに波が立っています。


歩いていくと草原が途切れ、砂浜になっています。


広い、砂浜です。


まるで海の砂浜のように、カニが軽やかに歩き、イザリエビや鉄砲貝の穴が無数に空いています。


そのまま歩いて、湖の浅瀬まで、行ってみます。


オキアミのような小さなエビが、無数に泳いでいます。


さらに、腰の高さまで進みます。


「おっ!?」


太くて長い魚影が、いくつも見えます。


「あれは、鱒(マス)か」


鱒とは基本的に、水棲の鮭です。


「サクラマスかニジマスだろうか」


無数のエビを食べて育っているからには、身は見事にピンク色でしょう。


############################


いやらしい意味では、ありません。


############################


万九郎は、何日も掛けて、この湖を一周しました。


「流れ落ちる川がない」


水は、地下水になっているのでしょう。


「川を作って、松浦川にでも繋げれば、下り鱒の大きな漁場になるな」


万九郎は、さっそくiPhoneで、狂子にメールを送ります。

画像も、いくつか添付しました。


「小此木3佐にも連絡だな。自衛隊の訓練に最適と」


あまり強い魔獣はいませんでしたが、それでも、魔獣と戦いながら、ここまで来るのは大変です。

だからこそ、自衛隊には最適なのです。


############################


湖の反対側から、さらに行くと、かなり強い魔獣が次々と、現れるようになりました。


「ここまで来るのは、自衛隊にはNGと」


############################


さらに登っていくと、魔獣は、現れなくなりました。


広々とした草原の向こうに、田畑と、いくつもの家が見えます。


家には灯りが、灯っています。


今日がいつか、分かりませんが、今日はもう、暗くなっていました。


「あの家まで行けば、久しぶりに屋内で眠れるな」


万九郎は、ずんずんと、進み始めました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る