第50話 【野菊の墓】

「サングラス5人、今すぐ、ダムの向こう側に回りなさい」


「ランクルの運転なんて、まっぴら」


走りながら、キーを投げます。


男どもを、華麗にインターセプト。

キーをゲットしたアスカが、運転席に乗り込みます。


佳菜が助手席。後部座席は、狂子様と万九郎。何か機材を持ったサングラス2人で、まるで埼京線のようです(謎)。


「一両目で痴漢はイヤん」


万九郎が、妄想モードに入っています。


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轟音を上げて、漆黒の闇の中、ランクルが走ります。

アスカ、凄い運転テクニックです。


停車すると、10メートルでダム。

駆け上がると、向こうに回ったサングラスたちと、坂口さんを挟む形になります。


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雪が、降っています。


坂口さんまで10m。ダムの両端10m。左側は、200m以上の漆黒の奈落。


雪が3cmほど積もっていますが、動きに支障は、ありません。


再び対峙。


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月が綺麗です。


何かが、凄い速さで、月光に光りました。


大羆の眉間に、深々と針が、突き刺さっています。


「哀れと思ったか、アスカ」


針を中心に、急速に獣毛が縮み、消えて行きます。

身体も、ずいずい縮んでいます。


154cmの、全裸の坂口さんが、そこに居ました。

伸びきったパンティーは、地面に落ちています。


「気温低下が、止まりました!」


サングラスが、言います。


機材は、温度計だったんですね。


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雪が、降っています。

月が、綺麗です。


坂口さんの右手には、あれは伝説の剣、ロンギヌスの槍。


「剣じゃないのに、嘘ついた。パンティーも盗んだ。お前を真っ先に殺す。次にアスカ、次に佳菜を、なぶり殺す。男たちの、泣き叫ぶ様を見たい」


言葉が話せるのか?


ですが、内容は獣、いや悪魔です。


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「身が軽くなった分、疾いぞ。空中戦も避けろ。距離をとって蹴りじゃ」


いきなり、突進してきました。残像が見えます。


「剣は、いや槍は俺が教えた!俺の方が速い!」


死角の左側から、渾身の蹴り!


左足の裏側を、こそばゆく掠める一閃、ロンギヌスの槍!


靴の踵を焦がして、万九郎、右に1転2転。お尻を上げて四つん這い。


万九郎は、戦慄しています。

完璧に、槍を使いこなしています。


「宝蔵院流槍術、免許皆伝の私以上ね。リーチが、3倍伸びてる。私達も、うかうかしてると、持ってかれちゃうわよ」


佳菜様、解説役ですか?


ならば、蹴りワザ。


ダッシュ!


スピードを乗せて、左立ち蹴り!


躱されます。


僅差の右蹴り!で、顎を狙います。


躱されます。


なんの!


左かかとで、死角の頭上から!


わずかに、ヒットしました。


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ですが、その結果、万九郎の胴体は、がら空きになっています。


背中の毛が総立った、その瞬間、もの凄い蹴りが、入りました。


2転3転、ふっ飛ばされる万九郎。


「昇竜脚と、降竜脚の合わせ技か。弱点を狙うのは良いが、相手が強すぎる」


坂口さん、右頭から、だらだら血を流して、ニヤリとしています。


「終わったわね」


焦げた踵の降竜脚で、右側の前髪が、ごっそり抜けています。


頭から流れる血が、眼球のない漆黒の右目に、流れ込んでいます。


勝利を確信したのか、ニヤリと笑いました。


万九郎は、萎えそうな脚を両手で叩いて、再び対峙します。


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雪が、降っています。


ロンギヌスの槍を、振り上げました。


冴え冴えと、月光に光っています。


およそ3.5m。槍の圏外ですが、圏内です。


振り下ろした瞬間、前から左から、あるいは右から斜めから、透明な剣が伸びて来ます。


ロンギヌスの槍とは、そういう武器なのです。


万九郎、ジャンパーを脱いで、左手に持ちました。


「服の揺れで風を読んで、槍が来る方向を察知する気か。万一、避けれても、万九郎には、もう技がない」


万九郎、右に回り込みます。


お尻に、チクリとするものを感じました。


いや、それどころじゃない。


来た!


一閃、ジャンパーが巻き上がり、前後左右から、剣が来ます。


上!

もう飛び上がるしか、ありません。


目の前に、坂口さんの顔が、あります。

勝利を確信して、唇が釣り上がっています。


短剣仕様にしたロンギヌスの槍が、万九郎の側頭部を、正確に狙って動いています。


その時、さっき、ちくりとしたものを、思い出しました。


残り1本の針。


ズボンの尻ポケットから取り出し、最短コースで坂口さんの、左目を狙いました。


ドサッ。


格好悪く、尻から着地した万九郎。

生きています・

左腕には、ゾッとする角度で、短剣が突き刺さっています。


坂口さんは?


立ち上がった坂口さんの顔から、針が2本生えています。


眉間と、左目。


もう何も、見えていません。


血だらけの顔の、鬼です。


「もう生かしておいても、獣としての、幸せもない。あの技を使え!」


短剣をポケットにしまうと。万九郎が、気を溜めます。


気が、雪を舞い上げています。


坂口さんの周りを、雪がズワーッと回って、まるで花見の桜のようです。


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月が、出ています。


「ザーザード・ザーザード・スクローノー・ローノスーク。漆黒の闇の底に燃える、地獄の業火よ。我が剣となりて、敵を滅ぼせ!」


ベノン!


ヤバイ!

左腕の痛みで、僅かに、左にズレました。


「えっ?」


坂口さんの身体が、その分動いたように、見えました。


宙に浮き上がる坂口さん。


その時、坂口さんが一瞬、万九郎に微笑みかけたように、見えました。


スローモーションのように、坂口さんが、落ちて行きます。


坂口さんが小さくなって、漆黒の闇に消えました。


############################


「放って、おきなさい」


さっそく確認に動こうとするサングラスを、佳菜が制しました。


「この高さだと、粉微塵じゃ。土に還れば、やがて野菊でも咲くだろうよ」


そういや、糸杉が、好きだったな・・


万九郎は、ふと思い出しました。


疲れました。


############################


坂口さん、死亡。

野菊の墓。

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