第49話 【月】

「月が、落ちてきている?」


「猛スピードで接近中。ここに落下するまで、あと5日」


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万九郎は、松浦家の佐世保別邸に、呼び出されました。


緊急案件、とのことです。


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佐世保別邸に着くと、ものものしい雰囲気になっていました。


「さぁCome on up. 司令部まで案内しますわ」


佳菜が、待ち構えていたように、言います。


アスカも、います。


佳菜と万九郎とアスカは、広い廊下を進みます。大きな部屋に、着きました。100畳ぐらいあります。


「状況は?」


「はっ!もはや待機できない状況です」


サングラスを掛けた、ナイスガイが答えます。


と言うより、この部屋(仮に「司令室」とします)には、同じようにサングラスを掛け、上下黒のスーツでキメた、おそらく28~32歳の男たちが、いっぱい、います。


「佳菜の部下に、男って居たんだ?」


「メイド部隊は、このような状況には、向いていません。生死を賭けた状況なのですから。


「お嬢!」

いきなりサングラス部隊20名が周囲を固めました。


「何かが、来ています」


「何か?報告は、はっきりクッキリ具体的に」


「はっ、巨大な熊のようなのですが、すでに20人が死傷、同期は頭をふっ飛ばされて、敵の詳細は不明なままです」

さっきから、肌が痛い。というか、寒い。12月初旬なのに、-12℃ぐらい?

「佐世保周辺の気温、急激に下がっています。このままだと、10分以内で零下40℃。部隊および施設の運営が、困難になります」


「あの子の心が、闇に落ちて、しまったのじゃ」


狂子様が、居ました。


それが、来ました!

4メートル近い巨体です。灰色の獣毛が、全身を覆っています。


「フン、獣化か。小娘にえげつないことを」


えっ、今なんて?


さらりと日本刀を抜く狂子さん。たのもしーーー、って。


「万九郎、これを使え」


何かを、投げ渡されました。長い針?

でも、3本だけです。


「目を狙え」


え、俺が?


「お前が、するしかない。お前のことを思い過ぎて、あの娘は、闇に落ちたのじゃ」


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雪が、しんしんと降って来ています。

地面にも、肩にも、大羆にも。


月が、綺麗です。


ポケットに入れてた両手は、かじかんでいません。


「ヒューー」


クンダリーニから、右向きの回転力を生み出す呼吸法を、します。

腹から頭に、鮮やかな大輪を、作ってます。


足も軽快。スターンスターンスタローン。イヤア!”I can make it."


「さすがに、形にするのは、早いようじゃの」


その刹那、ものすごい勢いで、大羆の左ジャブ!


冷気が一瞬で蒸発!

焦げ臭いニオイが、漂います。


タイミングを合わせて、大きく。優雅に、飛翔します。


「ああっあの動きは」

「知っているのか雷電?」


サングラス2人がタンカで運ばれて行きます。


「つまらないギャグは禁止」


佳菜さんが、怒っています。


振り向きざまに、針2本を投げました。

タイミングはバッチリですが、額に当たって、落ちました。


「フン、小娘が可哀想だとか、やはりダメじゃな」


睨み合います。


「え、あれは?」


大羆の下半身に剛毛に隠れていますが。あれは、間違いなくシャルの、じゃない。今のは記憶から消して、坂口さんのパンティーです。


坂口さんは、学部を卒業して、大学院には行かず、こちらに直接、帰って来ました。

気を休める暇も、碌に無かったのでしょう。


「坂口さん。寒くて、雪。故郷に帰ったのに、友達と楽しむ暇も、碌に無かったんだろうな。この雪は、冷たくて、心地いいかい?」


坂口さんになら、いいか。


「シャーー!」


覆いかぶさってきた大羆に、もの凄い蹴りが入りました。


狂子様です。


同時に投げた針が、大羆の右目に、深々と針が突き刺さっています。


「クッ、海馬まで達せなんだか。この馬鹿者が!獣化を逆転する手段はない!脳髄を針で貫通しても、思った通り、灰白質が無くなっとる。獣の脳に落ちた女は、人でなしじゃ。もはや、人間ではない。殺すしかないのだ!」


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「じきに、零下40℃、雪に閉じ込められて、佐世保の民が、全滅するぞ!」

俺がやるしかないんだ。


万九郎、再び対峙します。


1対複数の不利を悟ったか。大羆がくるりと回ると、逃げ出します。

疾い。


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