第11話 【京都】

7月16日。

木曜日。

午前10時37分。


佐世保の松浦家別邸。


「貴方に、行って欲しいの。貴方という、超一流のコマにね」


今回の依頼は、苛烈である。


「とにかく、剣呑なのよ。あなたしか、使えない」


行き先は、京都。


今回も福岡空港から、今度は大阪の伊丹空港に到着する。


顧客側としては、ASAPが必須。

一刻も手早い対応が、不可欠。


今回も、危険すぎるので、セレスは自宅で留守番だ。


さっそく、活動を開始する。


13時30分に、オペレーションが始まった。

今回の作戦は、泊まりが前提。

それほど、厄介な敵だと、そういうことだ。


三菱パジェロを福岡空港の駐車場に停めて、万九郎本人は、伊丹空港まで飛行機で飛ぶ。


座席の緩いシートベルトを締めると、しばらくしてJAL737便が飛行を開始した。


アナウンスがあった後、暫くすると、胃が下に、地上の方へ押される、何とも言えない感覚があった。


その他は国内便、食事もアルコールも出ることなく、あっさりと伊丹空港に到着した。


その後、JRに乗り換えて、京都を目指している。


##################


JR京都駅。漬物を買いたい誘惑に、少しだけ駆られたが、そのまま直進。


今晩の泊まり宿になる京都タワーホテルに到着した。

到着は14時30分。


剣呑な相手とやらは、真夜中に出没している。

そこで、ここで仮眠をしておく。


20時15分。


夜の帷(トバリ)が、降りた。


「さて、行くか」


最初に行くのは、蓮華法院 三十三間堂。


黒のTシャツを着た万九郎が、漆黒の闇に紛れた。


【蓮華法院 三十三間堂】


三十三間堂は、京都市東山区三十三間堂廻町にある天台宗の寺院。本尊は千手観音。建物の正式名称は蓮華王院本堂。同じ京都市東山区にある妙法院の飛地境内であり、同院が所有・管理している。元は後白河上皇が自身の離宮内に創建した仏堂で、蓮華王院の名称は千手観音の別称「蓮華王」に由来する。洛陽三十三所観音霊場第17番札所。


「佳菜の話によると、今度の敵は、相当に優秀な使い手だ」

「俺も気を引き締めて行かないと、キツイかも知れない」


万九郎が、珍しく気の弱いことを、言っている。


淡々と、万九郎が言う。


「三十三間堂と言えば、神社じゃなくて寺だ。建物の中は、物凄い数の千手観音で、さぞや見ものなんだろうが、中には用はない」


「五重の塔の天辺、要があるなら、そこだ」


透明飛翔の術で、スタっと、五重の塔の一層目の、灘らかにスロープの付いた瓦の上に乗る。


塔の先頭の尖端に、裸の女がいる。


痛々しい、たった1人の全裸を、十六夜の冷たい月光に晒している。


「来たのね」


「俺を知ってるのか?」


「当然。地獄の閻魔様でも、知ってるだろうさ!」


痛々しい、尖端の真上の女は、斜め上から万九郎に、全裸の裸を晒している。


頭の真後ろで腕を組み、


「アッはぁーん」


と言いながら、背中を反っている。


角度から、臍の下の真っ黒い陰毛が、丸見えになっている。


「私の名前を、聞きたいかい?」


女は、万九郎の返事を待たずに言った。


「私の名は、加賀谷 深雪。深雪よ!」


痛々しい白い全裸の深雪が、高く飛翔した!


「あれは、伏見神社の方向か」


万九郎も直ちに、透明飛翔の術で続いた。


【伏見神社】


伏見稲荷大社(ふしみいなりたいしゃ)は、京都市伏見区深草にある神社。式内社(名神大社)、二十二社(上七社)の一社。旧社格は官幣大社で、現在は単立神社となっている。


深雪の姿は、漆黒の闇世の中、見失ってしまった。


だが、行き先は伏見神社、そんな気がしている。


万九郎は素早く走り、飛翔を混ぜて、伏見神社に向かう。


漆黒の夜。


風の音すら、しない。


万九郎は、伏見神社の、無数の鳥居の中を、斜め上に飛んでいる。


最後の鳥居が、見えてきた。


「ヒュッ」


最後の鳥居から出て、神社の敷地の細かい砂のような砂利を敷き詰めた、一画にスタッと、直立で立った。


正面に、女がいた。

たった1人で、いた。


神社の巫女姿、上が白、下が明るい赤の、あの姿だ。


万九郎と女の間に、闇よりも黒い、寂しい闇が、満ちている。


女はふと、両腕を猟奇な好色な闇の中、真っ直ぐ上に、伸ばした。


「アッはぁーん」


背中を、精一杯に逸らしている。


両手の手のひらを合わせ、伸ばした両手の指を、ピッタリとくっ付けている。


「何をする、つもりだ?」


突然、女の間の上にある十六夜の月から、金銀に輝く、小さい小さい小さな粒子が、女に向かって、ゆっくりと降りて来た。


何とも言えないほど、悲しい、たった1人の永劫の孤独の時間が、流れていた。


「私は、寂しい月の中にある、永劫の過去の時間の流れを、感じることができる」


「これは、やがて来る我が主人。超巨大宇宙船の、かつて26億年以上前に栄えた我が母星の王女、アスカが再びお前に出会うまでの、2人だけの、冷たく寂しい、約束の証」


「何のことだ?」


「ついて来い!」


女は、神社の寝室に飛び込むと、追って来た万九郎を、そこで迎え撃つ。


「ハぁ!」


ん?その呼吸法・・。


「おい。その呼吸方法、どこで習得した?」


「私は、読んだのさ。あのやたら難しい、読めない文字も混ざっっている本らを。あの神社で」


「アンタはもう、どうやったか知らぬけど、取得済みのようだね。能力比べを、やってみるかい?」


「いや。それができるってことは、相当、物凄い努力家だろ。俺もそうだから、良く分かる」


「そう」


女は、戦闘態勢を解いた。


「なあ、佐世保に来ないか?キミみたいなのが、何人かいるし、楽しめると思うぜ」


「良さそうね。了解よ」


############################


その後は、さっさと大阪まで移動。


梅田の阪急デパートで、めっちゃ高価なものを買わされた。


何故か買い物をしていることに、内心驚いたが、俺は金を払わなくていいから、良かった。

荷物持ち係だけ、しっかりやった。


あと、神戸三宮の方まで、ディープな燕脂色の阪急電車で行った、というか行かされた。


神戸名物だってチョコパイと、甘いカフェラテのセットを、神戸港が見渡せるカフェテリアで食べて、飲んだ。


何故か「横浜に俺勝ってる、勝ってるよー」的な気分になったが、とても美味かった。


帰りはJR新大阪駅で、面白い恋人をどっさり買った。


それで、新大阪駅から博多駅まで、JR西日本経由で帰って来た。


福岡空港に停めていたパジェロは当然、俺と深雪の足になったわけだ。


############################


佐世保では、佳菜にとても感謝された。


それなり以上の謝礼も、約束してくれて嬉しかった。


シャルには、新しい幹部、見つけてくれたのー!っと、凄く感謝された。


魔亞❤メイドは今後ますます、繁盛しそうだ。


############################


家に帰った。


面白い恋人を、セラスと一緒に食べた。


セラスは、大変喜んでいた。


「お父さん。私にとっての、白い恋人だよ」




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