第6話【Nurses as DieHard】

7月6日。

木曜日。

午前8時30分。


おはようございます!

おはようございます!


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佐世保の総合病院の精神科病棟は、今日も元気と自信で満ち溢れている。


朝8時には全員が当然揃い、テキパキとした明るい雰囲気が、病棟内を満たしている。


「ヨシ子、あの件の首尾はどう?」

「ハイ!抜かりなく」


3分にも満たない作業の間に、今日のあらゆる作業の段取りが、取り決められて行く。


「チーフ。561号室の患者の容態が、昨日から急変しています!」

「その件は、プランEで」

「了解」


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午前10時30分。


「チーフ。そろそろ例の患者が戻る頃では?」


「分かっているわ。万全の準備で、迎え撃つのよ!」


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“If you are going'to San Francisco, be sure to wear some flowers in your head,…”


俺は今、タクシーの中にいる。


運転席では、ゴキゲンなブラック野郎が、ラジオを聞いている。Motwonの曲らしい。Diana Ross?俺には、さっぱりだ。


“How are you doing?”


俺は返事をしない。



車は、ここは佐世保だってのにキャデラック、アメ車だ。


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突然、上から岩か石か分からないが、長さ15 mはあるのが、落ちてきた!


ブラック野郎は、何やら泣き喚いている。

車の保険金がどうとか言っているようだが、さすがにここまで早口だと、全部は聞き取れなかった。


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佐世保の総合病院は別名、Nakatomi Blg.と呼ばている。


今日は、その16階でパーティーの最中らしい。


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俺は、佐世保の総合病院の屋上にいた。

40階建ての、豪勢なビルだ。


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私たち佐世保の総合病院の精神科病棟の看護婦たちは、最高機密(“Confidential”,

あるいは“Hermetically Sealed”)だが、実は全員がサキュバスなのである。患者たちの精神の看護に留まらず、肉体のケアも担当しているからだ。


サキュバスまたはサッキュバス(英: Succubus、英語: [ˈsʌkjʊbəs] [注 1])は、性行為を通じて男性を誘惑するために、女性の形で夢の中に現れる(中世の伝説にまで遡る)民間伝承における超自然的存在。性行為を通じて男性を誘惑するために、女性の形で夢の中に現れる。


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私たちサキュバスは、悪魔や魔族では断じてない。悪魔あるいは淫魔と呼ばれるものは、私たちが紛れるものではなく、例外なく性的に、猛烈に卑猥だから仕方がないが、男に夢を見させて、男だけに気持ち良くなってもらう、と言うような、男性に都合の良い存在では、断じてない!男を眠らせる、そこまでは正しい。だが、男が夢を見るかどうか、ましてや男が性的に気持ちのいい夢を見るかどうかなど、はっきり言ってどうでもいい。


一般の中年太りオッサンなど、むしろ嫌悪感の対象である。


それと、ここでハッキリ言わせてもらうが、マスメディアや新聞など、「看護師」があたかも定着したかのように報道しているが、現場では皆、医師、私たち、そして患者たちの全てが、当然のように、皆一様に「看護婦」と呼んでいる。

考えて欲しい。「看護婦」と呼ぶのが普通なら、「看護夫」と呼ぶのも、普通なのが普通なのだと。私たち日本人は、マスメディア、テレビ、新聞、一部の外国に、操られているのかも知れない。


看護夫。甘美な響きではないか。文字に左右されないがゆえに、私達の判断は常に、完璧に正しい。


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午前10時3分。


「来ました!」


来た。遂に来てしまったのだ。あの性獣の帝王が。


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私とケイコは、内心のザワツキを他の患者に、来院客に、そしてあの男自身に、決して気取(ケド)られることの無いよう、平静を装って、この精神病棟の外来へ向かう。


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この佐世保の総合病院、特に精神病棟では、インカムと呼ばれる相互通信装置が実用化されている。

俗にBlue Toothと呼ばれる技術とは異なり、電波の到達距離はWiFiを超え、電話通信並みの長距離である。かつて501統合戦闘航空団(Strike Witches)で使用されていた物との、技術的、あるいは魔法的な連続性は、未だ証明されていない。


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「ザッ!」


心の乱れが、身体の動きに現れてしまったか!?


「え?ハイ!いいえ、未だに現れておりませんが?」


「えっ!?ダブルチェックするけど、それは事実なの?」


「私は本日、営業開始14分前から、この外来受付で詰めておりますが、万(ヨロズ)万九郎はこの場に、姿を表してはいません。

「そうね。慌てちゃいけないわね」


「ハイ」


「私とケイコは、病棟のあちら寄りに行ってみるわ」


「了解しました」


(ふぅ。私たち精神科病棟看護婦のォ、看護力はァ、佐世保いちィ!決して狼狽えることなど、あってはならない)


密かにジョジョ立ちをキめつつ、ムーンウォークで前進しながら後退し、戦略的に撤退した。


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30分か1時間か、随分と長い時間が経った気がする。

精神科病棟の看護婦の詰所が、ようやく見えてきた。


ボンヤリだけど、温かい灯り。


「また、戻って来れた」


その時、すでに事態が動いていることに、この時私たちは誰一人、気付いていなかった。


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午後10時42分。


精神科のバックオフィスで、その超高速中央コンピュータ「鷹視(ヨウシ)」だけが、異常を検出していた。


バックオフィスとは、無人のオフィスルーム、無数のスーパーコンピュータだけが、静かに時を刻む。


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古代の透明(Invisible)魔法の使い手として、かつて知られた、恐るべき手練れの存在に、気付くことなく。


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佐世保の40階建て高層オフィス、別名総合病院には、各階に高層ビル特有の浴室、別名シャワールームが存在する。


佐世保の総合病院の精神科の看護婦たちは、例外なくサキュバスであり、白い全裸、性的な重量感のある卑猥な肉体、ストロングな男への異常性欲は言うまでもなく、風呂に入るのが、とても好き(言い換えれば清潔好き)である。

彼女たちは例外なく、とても忙しい。

だが、多忙の間を縫っては、全員が入浴を楽しむ、強烈な性欲の持ち主なのである。


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事件は、意表を突いて起こった。


「マミ、今日のオペはどう?」


「順調よ」


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各階の9階から7階に移動するエレベーターで、それは起こった。

それも何箇所も、同時多発的に。


エレベーターを吊り下げている強固なワイヤーが、エレベーターの筐体の真上で、破壊されたのである。


「フワッ」


看護婦たちをある種の浮遊感が、一瞬にして包んだ。


当然、エレベーターの各筐体は、恐るべき重量感と共に、地階へと急速落下した。


1階にはなぜか、強烈でふんわりした魔法(Floating)がすでに施されており、看護婦たちは皆、無事だったのである。


「テロ!?」


その疑いは、なかった。


「ウフフ、アハハ」


激務の暇を塗って、彼女たちは入浴していた。

全裸で。


「ハァー、気持ちいい」


「まぁ、サトコったら」


「ハッ、いやっ!」


「両方の乳房が揉まれて、両方の乳首が!舐められて、指で摘まれて!」


「私の大きな、重量感のあるお尻が!揉まれて!締まった腰を両手で!」


透明な悪魔は、止まらない。


佐世保の精神科のある超高層ビル病院の各所で、各階で、それは起こっていた。


Nakatomi Building 6階で開催されていた盛大なパーティー。


外で「あの外道野郎は、俺のBro.だ」と、迷惑発言した黒人の巡査。


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1階で周到に用意されてきた、見えない侵入者(Invisible Intruder)への最終反撃(「我々は断じて、負けてはいない」(サユリ主任)。


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地下1階の巨大銀行の巨大金庫室から、秘密裏にタンクローラーで無数の金塊を、何処かに持ち去るハズだった、本物のテロリストたちの計画(「ハメられてた奴に!(“We betrayed from the Beginning!”)」


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見えないアイツは透明なまま、自分のデータを何食わぬ顔でスーパーコンピューターに入力し、自分の献血の容器と、自分の尿入りカップを、精神科の看護婦たちの詰所前のカウンターに「コトッ」という音も立てずに、置いて去った。


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「おいセレス。今日はSubway行くか?」


「うん。嬉しい」


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今日も佐世保は、平和です。


Fin.

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