第5話【川南造船所】

王国のシャーロット・ド・マ・ツーラ王女が、佐世保の健全なお父さんやお兄さんをターゲットに、かなり性的にエゲツナイお店を、幾つもオープンしてしまった。


佐世保には、これまで性的なお店が無かったため、このお店が、免疫の無い男性達の間で爆発的に流行し、庶民の家計を圧迫するようになったのだ。


そんなお店の名前は、チェーン店「魔亞❤メイド」。


##################


7月3日。


チュンチュン チュチュンガチュン。


日曜日の朝。


万九郎は、例の海水浴場に行く準備をしている。


「それにしても、困ったなあ」


魔亞❤メイド絡みの厄介ごとに、巻き込まれたのだ。


松浦家の松浦佳菜様が万九郎に対し、魔亞❤メイドが大繁盛している責任を負うように、糾弾して来た。


シャーロット・ド・マ・ツーラに対し、人魚達のダイナマイト ボディによる圧倒的な性的優位性を強く示唆し、店舗開業に至らせた!と主張している。


「そうだっけ?」


万九郎は、完全には納得しなかった。ただ、軍事作戦を通じて、平和的な彼女らが混乱し、敢えて性的業界に打って出た!との主張には、強い説得力を感じる。


「今日の夜から、お店に行く。俺は決めた」


万九郎は、固い顔付きで、断言した。


##################


「ルンルンドライブ嬉Sheena♪」


万九郎が、三菱パジェロを運転中だ。


佐世保から海水浴場がある今福に到着するには、玄界灘側との間に位置する山脈を、南から北へ縦断する必要がある。


佐世保の自宅から暫く西に移動し、相浦、佐々を介して北上。福井洞窟を通過して、志佐(松浦)で国道204号に合流後は東進し、調川(ツキノカワ)を介して今福に到着する。


「日本は何処も大概そうだけど、間の山脈が面倒だよな」


万九郎は、山より海派だ。


尤も西九州の山脈は、一番高い国見山でも標高776.2m だから、4WDのパジェロの前では、空気に等しい。


あっという間に海水浴場に到着して、すぐ近くの松浦園芸高校の駐車場に、パジェロを停車した。


まだ早いから、国道204号沿いにあるセブンイレブンまで歩いて行って、おにきり3個とタバコ1箱と缶コーヒーを買った。おにぎりは安定の鮭、明太、タラコ。


「まぁ外れないし、美味いし」


高菜が有れば、買ったけどね。


タバコは、人の目のある所では吸わない。


「そりゃ一応、監視員だからな」


国道204号と玄界灘の間には、高さ90cm 程の防波フェンスがあり、万九郎はその上をヒョイヒョイ歩いている。

片側は当然海だが、万九郎は気にしない。


「ブッブブー!」


すくそばの国道204号を、大型トラックが3台、続けて走って行った。


「変だな」


何年か前に、西九州自動車道が部分開業して以来、こっち方面から少し先の波瀬まで、トラックが走る理由がない。


「道もいいし、今はタダなのに」


説得力抜群である。


「こりゃ、分身魔法だな♪」


「海水浴場の監督を俺Aがやってる間に、俺Bが跡を尾ける」


分身魔法(Alta Ego magic)は、名前から分かる様に、自分のニセモノを作る魔法ではない。


「つまり、自分の意識(Ego)を2体の間で切り替え(AlterとかAlternative)るだけ。分かりやすいよな、どっちも俺だし」


切り替えると言っても、意識オフになった方が、いきなりグッタリする訳ではないのだ。


「俺クラスのスーパー魔導士になると、オフの方もサクサク働いて、客の受け応えも完璧!超高性能な意識の並列処理で、多い日も安心!」


「つまり、オフ言っても完全オフになる訳じゃない。オフ側にも1/1000000くらいのミニマム意識は残ってる。それでいて、普通の人間より余程優秀なわけ。当然だよね。俺って超天才(Super Genius)だもん」


当たり前の事のように、言い放つ。


「アルタ・エ・Go!」


スピード感スゲー!


と言う訳で、追跡に移る俺!

当然、透明飛翔(Invisible Flight)魔法で、軽快に飛行中な訳なのである。


国道204号を東方向に飛行すると、道路以外はうっわ密林!たまに神秘的な堤が見えたりする。


「堤(ツツミ)と言うのは、人が作った湖な。香川県にも多い。池と言っとるみたいだが、水量は十分だろ」


言い放つ万九郎。


万九郎は、香川県に行った事がない。


「行く理由がないからな。うどんは、こっちのが全然美味いし」


北部九州は基本、雨が良く降るので、香川あたりの渇水感は、体験した事が無いのだ。


「まあいいけど」


今日も、万九郎は暢気だ。


人っ子一人、どころか対向車もいない原始な道路を飛行する事8分、ようやく山が途切れて海が見えてきた。


「佐賀県に入ったな。町の名前はえーっと、『浦ノ崎』か。


Google Mapで、あっさり分かる。


国道204号と海と川とファミマと駅(松浦鉄道浦ノ崎駅)しか無い、小さい町だ。


あっという間に、町の端まで来た。


「バス停『黒藻下』か。ますます海っぽいな」


視線を左に向ける。


「うおっ」


国道204号の左側、海側に、異様な建物が在る。


「これは、探検パートだな」


国道204号と建物の間に、シュタっと、あくまで無音で着地。


「うーん」


唸りたくも、なる。


小さな町の外れに、蔦の生い茂った、鉄筋コンクリート建ての、ガッツリした建物。


「あやしい」


次の瞬間、万九郎は建物の中に、入っていた。


伽藍堂な建物の中央付近までズンズン歩くと、立ち止まって、周りを見回して、上を見る。


「割と大きな工場の、跡か」


東口を通って、外に出る。


「うわっ」


物凄い雑草が生え茂ってて、とても歩けそうにない。


ごく自然に、透明飛翔に入って、少し離れた所から、建物を俯瞰する。


「思い出した。ここは川南(カワナミ)造船所だな、確か」


廃墟ファンの間でも、インターネット上でかなり有名で、複数の専用サイトが公開されていた。朽ち果てたコンクリートの柱が石柱っぽく見える所から、「ギリシャ成分」だの「ローマ テイスト」だの言われていた。


「へーーーーー」


何も期待してない所で、意外に良い物見れて、感動している。


「って暑い」


午前10時過ぎとは言っても、真夏にホイホイ飛んでたら、暑いに決まっている。


もう少し東の方に、影になってる所が見えたので、そっちまでウロウロと飛んで行き、着地した。


「影になっていない上り車線が、今福からの国道204号だよな?ん?」


この国道から90°左に、海に向かう道が出来ていた。しかも、国道204号から来た大型トラック3台が、この海の方の道に進んで行く。


「タイミング的に、さっき俺が追ってたのとは違うな。あの後に、また来たのか」


わざわざ遺跡見物してれば、そりゃそうなる。


「道路も正直良くないのに、頻度高すぎたろ?ここまでの間に、普通車とか軽も、1台も見掛けなかったのに」


やる事は、決まった。


「でも、その前に」


国道204号を2km程後戻りして、浦ノ崎のファミマで、冷たい清涼飲料水を買って飲んだことは、言うまでもない。


「あ、支払いはSuicaで!」


万九郎の、お約束だ。


国道204号から海に向かう、さっきの横道まで、戻ってきた。


「味方無し。敵かも知れない奴ら、多分いっぱい」


万九郎が、たった1人で、歩いて行く。


「あそこに道ってことは、やっぱアレなんだろうなあ」


万九郎は、原因を知ってるようだ。そして、それをあまり好きではないようだ。


「まぁ、透明飛翔できるんで、この先にいる悪者は、割と簡単に見つかると思うんだけど、その先がな・・」


いつも自信満々の万九郎にしては、弱気である。


「前回のミッションも、その前も、協力して貰ったからな、自衛隊に」


今回、万九郎を助ける組織は、最後まで現れないだろう。


「行くか」


海に向かう道は、片側1車線だが、十分な幅が、確保されている模様。


海の所で、道が橋になっており、その先に繋がっている。


「思った通り、埋立地、いや埋立島か」


万九郎が、透明飛翔で浮き上がりながら、この橋を渡って行く。


埋立島の全容が、見えてきた。


「なんだありゃ?」


島全体を2平方キロとして、ほぼ1/4を大きな丘が、占めている。


「埋立地なんて普通、海抜1mだろ?」


普通では、ない。


「どう見ても、海抜120mは超えてる」


海の中に、大きな山島が、出来ていた。


「しかも、あの大きな丘の向こう側には、ちょうど同じ幅のデカイ溝が出来てるな」


さっきの3台のトラックが、その溝に向かって進み、重そうな積載物を、ドドドっと重そうに落としている。


「やっぱりな。トラック3台のペアを、さらに8組、合計48台か。基本24台で埋立島に土砂を搬入して、残り24台で搬出する。さぞかし繁盛してるんだろう」


クレーンやパワーショベルも複数台、稼働している模様だ。


「何の生産性もないけど、これだけの数の大型車両、常時稼働させて、土建に仕事回してりゃ、地方議員も選挙に楽勝だろうな」


「生産以外が全て、整ってる永久機関かー!猪木も羨む大規模プロジェクトじゃねぇか。自治体の金が、何百億規模で動いてるんだろうな。お知り合いに、なりたいわ」


もちろん、そんな事は1ミリも考えていない。


「特に誰にも、迷惑かけてない。海とか自然環境に回復不可能な損害与えてるけど。俺は貧乏なだけの異邦人だ。正義のヒーローやりたい訳じゃない。疲れるし」


だな?


「そんな事より、シャルの店の支払い考えるので、頭痛い。1回当たり、1万5000円は、するんだろ?」


どうだか。さぁ、さっさと佐世保に帰ろう。


"OK!Let's Get Back Home!"


海水浴場がある今福で分身と合体。時給600×8=4800円をGet!


「俺って、超天才の魔法剣士だけど、キャリアが無い間は、こんなモノだな。実績を積み重ねて、信用を得る事が、大事だよな」


午前中と全く逆のルートで、万九郎隊(?)が佐世保に、戻って行く。


その夜、「魔亞❤メイド」の1店舗にて


「なぁシャーロット。今の俺の稼ぎだと、お前の店に通うのは、無不相応なんだ。悪いが、もっとお前に経済的・社会的に見合う男を、見つけた方が良いと、俺は思う」


「エッ?何?冗談?私は、私達『魔亞❤メイド』一堂は、貴方に、この店に来て、この店を楽しンで欲しいの!」


「それだと、店の儲けに全然、ならないだろ?」


「そんなの、貴方は気にしなくていいの!儲けなんて、人様の前だと言い難いけど、何百億ドルの大儲けよ。そんな事より、貴方が一緒に居てくれるだけで、私達には、貴方の存在そのもの(Your Presence Itself)が、ブライドの糧なのよ」


シャルが、これだけをキリリと言い終えると、ニッコリと微笑んで、言った。


「社会人としての貴方は、始まったばかりでしょ?若い内は、失敗するものよ、何回も、何回も。その失敗の積み重ねが、貴方の将来、未来、そして成功の、確かな裏付けになるのよ」


何と、あのシャーロットさんが、まともな事を言っている。

何かヤバいクスリとか、やってンじゃ無いでしょうね!お姉さんは、心底心配ですヨ。


##################


今回は短か目で楽勝でした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る