第2話【セレス】

水曜日。

午前7時19分。


俺は昨日から、エルフのセレスティーナと、一緒に住み始めた。

チェリーボウイwでも無いしナイーブでも無いのだが、自分でも意外なことに、嬉しい。


結婚とか考えた事も無かったのに、吹(フ)とした瞬間に、うっかり考えて、ニンマリしてる事がある。自分でも不気味だ。


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俺は今、仕事をしていない。

まぁ思うことがない訳でも無い。

でも俺には一応、貯蓄がある

大した額じゃ無いが、俺とセレスティーナが2人食ってく分には、何とか行けると思っている。


午前中は、どちらも特にやることが無い。


俺は、iPhoneで白猫プロジェクトをやっている。

新ガチャに好きなキャラ出てないから、引かなくても超余裕だ。


セレスティーナは、自分の家じゃないってことで、掃除も洗濯もやらない。俺の隣の部屋が、セレスティーナの部屋になったのだが、さっきから部屋に篭っている。


気になった俺は、元が自分の家だから、ノックもせずにドアを開けた。


「俺の家だから勝手にドア開けたが、何やってるんだ?」


部屋の中は真っ暗。何の音も聞こえない。


俺は、、何か不安な気持ちになったが、セレスティーナがやってることを、知りたくなった。


セレスティーナは、何か黒っぽい服を身に付けて、片足を膝間付いたまま、部屋の奥の方を向いて、じっとしている。


かれこれ20分ほど経った頃、


「フゥ」


こう溜息を付いて、セレスティーナが、こちらを振り返った。


「どうしたんだ?」


「私の神に祈ってた」


「神?」


「私と、私達エルフの神様」


「それって精霊か?」


「精霊達の神様」


「私は、自分以外のエルフを知らない。見た事がない。でも、この世界にはエルフが、何人もいる。私には、分かる」


「私が知らない人生を生きて、死ぬ。彼女達が、その途上で体験する喜び、楽しみ、悲しみを、私は知る事は永遠にできないけど、彼女らの人生を感じたい」


「一部のエルフの寿命は永遠と言われるけど、私は私の人生しか生きたことが無いし、それはとても短い」


「たぶん万九郎、貴方より少し長い位しか生きてないから、とても短い」


「その短い人生でも、何が起こるのかは、分からない。何かが起きて、その後に分かる。だから私は、私の人生に、いつでも率直でいたい」


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午前11時28分。


「外行くか」


徒歩だ。

佐世保は地方都市だと言っても、ホイホイ無料駐車できるスペースは無い。


「どこに行く?」


「私は昨日、佐世保に来たばかり。知ってる所は、無い」


「そうだったな。良し、佐世保朝一市場に行こう!」


佐世保朝一市場は、万九郎の家から、更に海の方に下った所にある。


「海の方に行くのが、好きなんだ」


「分かる。青い空、青い海。間には、何か有りそう」


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「ここは、昔からの魚市場と言うか、海で採れたものを売ってる」


さっそく、万九郎達は、朝一市場に入場した。


セレスティーナの服は、白地の薄いワンピースだ。


「朝一市場と言っても、朝しかやってないわけじゃない。基本的には、魚の水揚げの時間次第だよ」


人がいっぱい居て、騒がしい。


万九郎は、売られている新鮮な魚を見ている。


「イオンとかで売ってるアカザカナは、無いみたいだな。最近は。白身魚といえば、アカザカナみたいになってるが、どこの国で採れたのかも分からないのは、ちょっとな」


「やっぱり白身はメバル、アラカブ、カワハギ、カマスとかが、良いかなあ」


昼食は、適当な所で済ませた。


午後から向かったのは、佐世保玉屋。


玉屋は、関東の高島屋みたいなデパートである。商店街の近くにあり、人通りも大変、多い。


玉屋には、普通に1階から入店した。


そこはまるで、天井いっぱいに蛍光灯が敷き詰められているように、とても明るく、しかも、その明かりは、腰の下の方からも届いているようだった。


宝飾品を売っているフロアである。


「眩しいな」


「ええ。今の私達には、無縁な所ね」


ちょうど登りのエスカレーターがあったので、上がった。


3階まで行った。


3階。そこは衣料品売り場だった。


手前側が、紳士服売り場。


今現在無職な万九郎には、関係ない。


奥の方に歩くと、ご婦人向けの綺麗な服が有った。


「玉屋は、私達には早いわね」


セレスティーナはそう言うと、階段の方に歩いて行った。


結局、玉屋では、何も買わず終いだった。


「万九郎。服はどこで買ってるの?」


「ユニクロで買ってるよ」


「そうなの?じゃ、私も当分、そうするわ」


安上がりな2人である。


「まだ早いけど、どうする?」


「あの島に、行きたい!」


「あの島?」


「私が、たった1人で温泉を探してた、あの島」


「いいけど、何で?」


「あの島には、本当に温泉がある。私には、分かる」


「分かるって?」


「分かるの、感じるのよ。たぶん私が、エルフだから」


「良し。じゃ、こんな感じで」


俺はセレスティーナを、手早く「お嬢様抱っこ」で抱き抱えた。


「お嬢様抱っこ・・?私も、お嬢様に成れるのかなあ?」


「セレスティーナなら、絶対に成れるさ」


「あと」


「何?」


「セレスティーナって、呼んでて好きだけど、俺には少し長過ぎだから、『セレス』でいいか?」


「うん。万九郎になら、そう呼ばれた方がいい」


「よっしゃ」


俺は、セレスをお嬢様抱っこしたまま、セレスが昨日までいた島の、上空まで来た。


「もうちょっと低く飛んで。あの、森が濃くなってる所まで」


「んーーと、あれ?あそこ、お湯沸いてるように見えるが?」


「そうだわ!行って見ましょう」


スィーっと2人は、沸いてるお湯の少し上で停止し、ゆっくりとお湯に入った。

まず万九郎の両足がお湯に入り、その後セレスの両足を、丁寧にお湯に浸ける。


「お湯の暖かさも、ちょうど良いな!」


「そうね。暖かいのに、凄く透明なお湯」


「で、どうする?」


「どうするって?」


「この温泉の使い道さ。セレスが見つけたんだから、セレスだけのお湯にすればいい。それ以外に」


「何?」


「この温泉を、一般に公開することもできる。その場合、セレスにしか見つからなかった温泉を公開するって事で、もったいないから、商売に使う事もできる」


「そうしたら、万九郎はどう思う?」


「そうだな。セレスが金持ちに成れるかも知れないんだから、俺も嬉しいよ」


「そう?それなら公開で!」


俺たちは早速、この話を、松浦家の佳菜様に持ち込んだ所、


「たった2人で温泉を見つけたの?驚いた。しかも、いつの間にかエルフと仲良くなってるし。エルフとか、私でも見た事ないのよ」


と、いつもより、若干長めに褒めて貰えた。


あの島には、松浦家が主導して立派な温泉旅館を建てて、マスコミに大々的に話を広めてもらって売り出す、とのことだ。


俺たち行けるのかな?


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セレス、可愛いヒロイン?としてデビュー回でした。今後とも宜しく。

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